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その16「雨上がりの散歩」パート1



 桜ちらしの雨が過ぎ去って、すっかりと晴れ上がった雨上がりの道を散歩する。道路の側溝に溜まっている桜の花びらを見る。また来年ねー。桜が散ると春も本番。短い春が終わると季節は夏の準備を始める。その前にうっとーしー梅雨の季節を挟むけどねー。夏が終われば秋が来て、冬が来て、そして春になる。うん、今年も季節は順調に巡っているのだ。


「暑くも無し、寒くも無し、いい感じねー」


「っすね」


「雨上がりの葉っぱが水を貯めてキラキラしているねー」


「っすね」


 ひんやりと湿った道路を歩きながら後輩猫がぞんざいな返事をする。うーん、この白猫ちゃんはあんまり散歩が好きではないようだ。駄目だよ後輩ちゃん。家に引きこもってばっかじゃなくて外に出て歩かないと。んまー、寒いのと暑いのを避けて、いい季節にしか散歩に出歩かない私が言えた事じゃないけどねー。


「おい、マル、」


「ねこスタンプー」


 ふぎゃ、と鳴いて潰れるチャトラの猫が見える。今日は取り巻きを連れていないようね。どうでもいいけど。潰れ猫をよけて散歩の続行。


「私、雨は好きじゃないけど、雨上がりは嫌いじゃないのよ」


「待って待って、何事も無さげに行こうとするなっす! って、今の! また何すか、アレ、巨大な猫の手が一瞬だけ出たっすけど!?」


「前足だけを霊体変化してからの巨大化猫パンチ、じゃなくて踏みつけ? ねこスタンプと名前を付けたのよー。新技なのだ」


「前足だけとか、器用なことするっすねー。というか完全に先輩の体から離れて出現した気がするっすけど? あ、いつもの深く考えると駄目なやつっすね。はいはい。んで、大丈夫っすか、アレ、ピクピクしてるから死んでは無いみたいっすけど」


「どっかに炊飯器、落ちてないかなー? ご飯、炊きたい」


「完全にスルー!? パねぇっすw」


「料理したい熱が高まってるのよー。猫まんまを作れるようになりたいのよね。料理スキルを極めたい」


「ご飯にかつお節を乗っけただけの猫まんまを料理に含めるのは噴飯ものっすね、ご飯だけに、炊飯器だけに」


「使える炊飯器が落ちていたことはさすがに無いのよね。買うしかないのかなー。買うと高いよねー」


「お、スルーっすね? 先輩のスルースキルはもう十分に高いみたいっすw」



「姫ーっ! 初雪姫(はつゆき)姫ーっ!!」


「げ」


「ねこスタンプ。あ、後輩ちゃんの知り合いだった? 急に迫ってきたからついやっちゃった」


 炊飯器を手に入れる算段をつけながら道を歩いていると、突然サバシロの柄の猫が突っ込んできたので、条件反射で潰しちゃった。後輩ちゃんの知り合いっぽかった。んー、はつゆきひめ? 後輩ちゃんの名前を始めて聞いた気がするのよ。


「問題ないっすw」


「後輩ちゃんの名前、はつゆきひめ、って言うんだねー。そういえば、前に聞いた時は誤魔化されたような?」


「ぐ、はつゆきが名前っす。初めての雪の姫ではつゆき。最後の姫はこいつが勝手につけてるだけっす。ついに先輩に知られてしまったっす……」


「可愛い名前なの。初雪姫姫(はつゆきひめ)、姫がかぶってるけど」


「最後の姫を付けんなっす。名前もあっしは好きじゃないんすよ。キャラじゃないっす。呼ばれるとムズムズするんでこれからも後輩ちゃん呼びでお願いするっすよ」


「えー? 可愛い名前じゃないの。雪と姫でユキと読むのねー。雪のキが姫のキとかぶってるの。おっしゃれー」


「そのニヤニヤ顔やめろっす! あーあ、からかわれるのがわかってたから知られたくなかったんすよ、先輩とは名前も呼び合わないくらいの、あいまいで表面的な付き合いでいたいっす」


「かなしいこと言ってるっ!?」


 潰れていたサバシロ猫がよろよろと立ち上がる。


「お、おぬしが、最近、姫を連れまわしているという(やから)だな? 姫に付きまとい、姫を悪の道へ誘う不埒な猫め、退治してくれ、」


 ねこスタンプ。


 ぼすん、という音ともに空から猫の手。というか私の前足が降って来てサバシロの猫を踏み潰す。コツは前準備と思い切り。あくまでやさしく、ぼすんと。


「容赦ねーっすw もっとやれっすwww」


「えと、だれ?」


「一応あっしの知り合いの猫又っす。うちらより年上っすけど、猫又ならまだ若手っす。無視して行くっすよ」


「ま、待つでござる……」


 以外にしぶとい。もうちょい強めに行けそう? あと、ござる。


「ござる語なの」


「先輩、そいつ、キャラブレしまくるんで気にしない方がいいっすよ。また何かに影響されたんすね。ちょっと前まではどっかの組織の若頭風だったっすw」


「ああ、あの気品ある初雪姫姫の口調が乱れて……姫、おいたわしや」


「姫ゆーなっす」


「そういえば姫の外行き用のお澄ましツンツンモードは発動しないの。猫かぶるの、あきた?」


「姫ゆーなっす。先輩はかわいい後輩をそういう目で見てたんすね。口調とか最近どうでもよくなったのは確かっすね。こっちが地っすよ」


「姫を連れまわせしお前のせいでござる!」


「私のせいにしないで!?」


「先輩を見ていると本当に色々とどうでもよくなったんで、確実に先輩の影響っす。悪影響w」


「私が何をしたと!?」


 こちらを睨みつけていたサバシロの猫は二本足で立ち上がり妖力を高め始める。グググっと存在の気配が増し、尻尾は二つに別れて膨らむ。猫又の戦闘モード。カッと口を開き私に牙を向ける。


「拙者の名前はシメサバ、おぬしもさぞかし名のある猫又であろうが、もののふたる拙者を引かせることはできぬでござる。勝負いたせい! 拙者が勝てば今後一切、姫に近寄らないと誓え! いざ尋常に勝負、」


「ねこスタンプねこスタンプ……ねこスタンプ」


 地面に張り付くようにして潰れた若手の猫又シメサバさん。ピクピクしているから死んではいないようね。丈夫な猫又さんなの。おいしそうな名前のサバシロ柄の潰れシメサバさんを前に私は勝どきを上げる。


「ふっふっふー。勝ったでござるー」


「先輩、口調が移ってるっすよw 影響されやすいのがここにもいたwww」


 影響されやすいのは否定しない。


 せっしゃが不殺の誓いをしていなければ、こやつは死んでいたでござる。ふっふー。





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