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その13「桜を見る人を見る猫」パート1



 今日はあづきと娘ちゃんの二人だけで近所の公園にお花見に行くようね。先日、ママさんグループで行ってきたばかりだというのに、相変わらず人間はせわしないの。


 桜もすでに満開も満開、今日を逃すと後はもう散っていくだけという時期。お花見には最高。最高だけど本当に一瞬だけの時間、短いね、切ない気持ち。


 朝からお弁当作りであづきが忙しく働く音を聞きながら、私はリビングで娘ちゃんと二度寝タイムなのよ。


 カーペットに、ぐでー、と横たわる幼女にくっついて私も、ぐでー。ぐでー。


 勝者のいないあの虚しい戦いの後、心の傷も癒えきらずにダラダラとしていたし、よし、私もお花見しにいこう。後輩ちゃんさそって。


 お弁当を作り終えたあづきは娘ちゃんを起こして外出の準備をさせる。寝ぼけまなこだった娘ちゃんはスイッチが切り替わったように元気にはしゃぎながらお出かけの準備をしていく。お出かけの準備の邪魔ともいう。こらこら、ここでレジャーシートを広げるんじゃない。シートに乗っかる、ゴロゴロ、楽しい。


「猫さんもいくのー?」


「猫さんはお留守番よ。マル、お留守番お願いね」


「にゃう」


 出発の直前にそんな会話をしたけれど、当然お留守番はしない。私もお花見に行くぞー。



 家から徒歩で行ける近所の公園はなかなかに敷地が広くて、それなりに桜の木も多い。お花見の有名スポットではないけれど、地元の人は知るって感じ。


 お花見ができるのも今日が最後のチャンスと見てとったのか、結構な人出である。道端には各種の屋台が並び、満開の桜の木々とあわせて普段とは違う空間を形成していた。どこかぎこちなく、どこか浮かれる人々。そんな彼らを眺めているだけで、釣られて私もわくわく。


 宴会を始めるいくつもの集団たちの隙間を埋めるようにして、あづき達はレジャーシートを広げていた。まだお昼にもなっていないのに、いそいそとお弁当を広げる親子の姿を遠くから確認しつつ、後輩猫に話しかける。


「お腹すいたねー」


「あ、あっしはもう食べて来たっす」


 連れない後輩猫。


 あづき達の今日のお弁当の内容は、ほぐした鮭が具のおにぎり、焼いたウィンナーにゆで卵、前日の残りのほうれん草のお浸しに、温めた冷凍食品の鶏のから揚げ、そうそう、そんな簡単なものでいいのよ、おいしそう。ちょっと屋台に目をやれば、たこ焼きにイカ焼き、焼きそばにお好み焼きに焼き鳥、焼きトウモロコシ……なんか焼くものばっかだけどおいしそう。おなかすいたー。


「人化して屋台で何か買おう」


「先輩、人間のお金、持ってるんすか? あ、例の意味不明な物品取り寄せで窃盗っすか? 右手で招くと物が手に入るって頭のおかしい理屈のアレ」


「ふーひょーひがい! 私、窃盗したことなんて無いから! あ、盗むのは田辺のババの作る食べ物とかくらいだから!」


「してるんすね。てかやりすぎると取り締まりが来るらしいっすよ? 先輩はいつ捕まるんす?」


「捕まらないから。私が手に入れて、あの四畳半に放り込んでいるのとかは捨てられて誰の物でもないものばっかだもん。取り締まりは来ない。たぶん」


 世界中の実力ある神仏妖怪たちは大抵が「人間たちにあまり干渉せず、ひっそり生きましょー」というスタンスなので、おのずと他の妖怪たちも従っている。はしゃいだ小物の妖怪なんかが人の世の中を騒がす事件なんかを起こせば、治安維持の妖怪や妖怪バスターとかの人たちが送り込まれて、あっと言う間にプッチンってされちゃう、らしい。聞いた話だから実際に見た事はないんだけど。


 どっかでは人と妖怪が手を組んで、人の世を乱す悪霊や妖怪たちと日々戦っているとかもする、らしい。都市伝説? まー、この町は実に平和そのものなので、別世界のお話ね。関係なし。そもそも論として、私なんかは猫又にもなれない只の猫ですから。


「先輩がこの前、辻斬りみたいなことしてても来ないっすからね。ポエムの人、あれ、いきなり妖怪に襲われたようなもんでしょ? 思い出したらまた笑えて来たっすw」


「あれは、ちょっと、やりすぎだったかもしれない、いや、そんなことはない、決着はまだついてないから」


 いつかリベンジだ。可愛いと言わせて見せる。


「というわけで人化! どーん。道を練り歩くわよ! きっと注目の的!」


「いつも、突然すぎるっす……」


「抱えてあげるから、喋っちゃ駄目よ?」



 うなー。いい天気だわー。今夜からは天気が悪くなりそうだから、桜の季節はこれが最後かもしれない。風が吹くたびにハラハラと舞い落ちるピンクの花びらたち、満開の桜を背景にオッドアイの白猫を抱えた大正時代の女学生姿の私は、


 ものすごく注目を浴びていた。


「うふふふー、どうよ。この視線。可愛いからね、可愛いからね」


「どっちか言うと奇特な人を見る目っすw 珍獣w」


 後輩の茶々も気にならない。気分よく歩いていると横から声をかけられる。見ると同じく大正時代の着物を着た女の子たち。おおー、お仲間じゃー。


「その恰好って”大正剣戟、ヒイロ血風録”のヒロインの恰好ですよね? 写真、一緒に撮らせてもらってもいいですか!?」


「え? え?」


「えと、大正剣戟ヒイロ血風録のヒロインのコスプレ、ですよね? 猫耳カツラは違うけど、服装のクオリティ、高いです」


 え? 知らない。あ、けど、ご主人が私の人化した時の姿の参考にした作品なのかもしれない。


「うん。そう、かもしれない、いや、きっとそう。この格好、可愛い?」


「ちょー可愛いです! 猫耳の三毛猫のカツラも、なんか斬新で良いですよ!」


「カツラじゃないんだけど、えへへ、可愛いのね。うん、可愛いのよ。よし、写真を撮ろー!」


 可愛い可愛いを連呼してくれる女の子たちと写真を撮る。腕の中の白猫ちゃんは他人がいる時のツンツンモードのまま、撫でようとした女の子たちにも知らんぷり。ごめんねー、この子、人見知りだからー。私はニコニコ笑顔でそのまま解散。


「むふー。どうよ? やはり私は可愛いのよー」


「……コスプレ仲間にされてたっすけどね。なんか先輩ってアレっす。自分の事を可愛いかって聞いてくる都市伝説の女っぽいっす。んで可愛いと答えるとチョロくなる妖怪」


「どんな妖怪よ、それ。怖いくないでしょ……」


 口裂け女だったっけ? あれ、可愛いって答えるとどうなるんだっけ? 照れながら去っていく、とかではなかったはず。それだとなんか可愛いし怖くない。


 馬鹿な事を考えつつ歩いていると、一人の男が視界に入る。


 北原だ。そうあの後、家を確認した。あづきを花見に誘って砕け散った男が歩いている。


 私の人化した時の姿を可愛くないと言ったやつ。



 ……ふ、リベンジの機会が早々に訪れたようね?




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