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その12「ゆずれないし、ゆずらない」




「というわけで、前に言っていた作戦決行するよー!」


「うぉい、話進めんなっす。いきなり拉致するのやめてもらっていいっすか?」


 拉致とか人聞きが悪いのよ。あの後すぐ、家でくつろいでいた後輩猫を呼んで来た。モテる(本人談)白猫の後輩ちゃんは今日も元気に生意気だ。


 あいつの唐突なポエミーな独り言につい、つっこんじゃった私。いやー油断したわ。その角度からえぐってくるう? って。


 と、今は急いであいつの後を追わなきゃ。


「急がないと、あいつが家に着いちゃう。あなたには私の対決の目撃者になってもらうのよ」


「え? 先輩、そもそも対決ってなんの話っすか? 先輩の飼い主さんにつきまとう男がどうのこうの言ってた奴っすよね、哀れな被害者のw」


「もー、覚えていないの? 私の人化した姿にあいつがホレるかどうかの対決でしょ?」


「ぷはw 何がどうなったらそういう思考になるっすか? やっぱ先輩は頭おかしーすねw いやホレるとか、ぷ、普通に先輩が負ける気しかしないっすけどwww」


「何を言うのかしらね、この子は。人化した時の美少女姿にはこれでも自信があるんだから。人間の表情の勉強をした私にはもう死角はないの」


「その自信がどこから来るのか、ちょっと先輩のことが本気で怖くなってきたっす……」


 左右色違いな瞳でこちらを見て本気で心配そうな目をする後輩猫。


「そうだ、毛玉ちゃんを渡しておくね、これでそちらの声も聞こえるから」


 ちょびっとだけ自分の霊体をぷちってして三毛の毛玉に変化させて後輩猫に渡す。


「ちょ……先輩。また面妖な術を使うっす……」


「霊体をほんのちょびっとだけ引きちぎる感じ。ぷちって。簡単だからあなたもやってみ」


「こっちは全身霊体化をようやくモノにしたばっかっすよ。…………あ、はい、出来ないっす。カケラも出来るようになる気配が無いっす」


 簡単なのに。



 よし、何とか男が家に入る寸前に捕捉できたわ。私は人化を済ませて、男の家の近くの曲がり角から登場する。さあ、戦いのゴングが鳴るわよ。何気に人化した姿を人間の前で披露するのは初めてだったりする。ちょっとドキドキしてきた。


「じゃーん。コンチワー。えーと、オトコのヒト!」


『いきなりな登場の仕方っすw 先輩w じゃーんてw 男の人てw』


 隠れて見ている後輩猫が茶化してくるが、さすがにオトコのヒト呼ばわりはなかったわ。反省。けど名前が出てこないのよ。なんだっけ?


 名前が出てこないその男はこちらを見て愕然としている。さあ、どうだ? 男の視線は私の顔と頭のチャームポイントの猫耳を行き来している。


「こんにちは……えと」


「好きになるよね?」


「は?」


「ええと、私の事、好きになるよね?」


「は? いえ、そういうのはちょと……」


『ぎゃははは、当然の反応っすw 何かw 何か無いんすか先輩w』


「…………」


「…………」


「…………あはん」


『いきなり最終奥義キター! ぎゃはははwwwww 息がw 息がwww』


 後輩猫が隠れているあたりから板をバンバン叩く音が聞こえる。ぐぬぬ、笑われている。しかし、私の色仕掛けにも男は無反応。くっ、これ以上何をすれば?


「……じゃあ僕、行くんで。……やばっ……こわっ」


 なんと自分の家を素通りして違う場所に向かおうとする男。あんたの家はここじゃないの? さっきまでその家に入ろうとしてたじゃないの。どこへ向かうと?


『先輩w その表情w いいかんじっすw あははww 完敗w 先輩の完全敗北っすwww』


 おのれ、このままでは終われない。何か、何か言うんだ。


「……愛ゆえに人は苦しみ、愛ゆえに人は泣く」


 通り去ろうとしていた男の体が、びくーんってなって立ち止まる。男はぐぎぎとこちらを振り返り聞いてくる。心なしか震えている。


「なな、なぜそれを? 君は……一体、何が目的なんだ」


「たまたま聞こえていたのよねー。ふふふ、猫がにゃあと鳴くから愛を知っているって? その理論で行くとセミやコオロギだって愛を知っているわけよね、……あれ? あれはたしか求愛のために鳴いているから……あれ? 鳴くと愛を知っているっていうのは、ひょっとして間違いじゃない? ぬぬ、結構深いのかもしれない?」


 私の、彼の独り言ポエムの解説と解釈に、男の足が目に見えてガクガクと震えだす。


『先輩、鬼畜っすか! もう一押しで倒せるっすw』


 後輩猫の言葉が聞こえたわけじゃないだろうけど、男は体勢を立て直して声を荒げる。


「本当に何なんだ君は!? 変な恰好して。好きになるでしょ? はいい? なるわけないよ! 何から何までおかしいよ! 君は!」


「へ、変? 顔には自信があるのよ! 髪とか、ふ、服とか、か……かわいいよね?」


「ない! 可愛くない! 変な髪型! 変な猫耳! 変な服装! その髪、どうやって染めたの? 三毛猫柄とか見たこと無い。服も、大正時代かっ! コスプレ会場に帰れよ!」


 私は視界が歪み、足元から崩れ落ちる。


『先輩、ノックアウトっす!』


(これは……この人間になった時の姿は……ご主人が、がんばって、何度も、何度も書き直して……)


 ゆずれないのよ、これだけは。可愛いのよ、この姿は。何か、言い返さないと。この姿はご主人が私だけに残してくれた唯一の宝物なの。この大切な想いは守る、絶対に、ゆずらない! この男を、倒す!


 何か、何かないのっ!? この男をっ! 倒す言葉……っ!



「あなた、ご近所にいる奥さんを見る目がすごくやらしい(・・・・)って、近所で有名だもん」



 ノックアウト。


 男は膝から崩れ落ちた。


『両者ノックアウトーッ! あは、あはははwww』


 いえ、これは引き分け……


『どっちも負けっすw』


 こうして勝者のいない、空しい戦いは幕を閉じた。がくっ。




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