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女剣士エルザが行く王女救出の旅  作者: あんことからし
6.エルザとジョーの旅
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第77話 崩壊


魔獣・アースクエイクが立ち上がったことで小屋の屋根を崩壊し、その降り注ぐ屋根の残骸を避けたジョーとジェームズは、結果として2人の間に距離が出来ることになった。


ジョーはこの機会を逃さず、ソロリと部屋の出口へと後ずさっていく。


そして、その時、ジョーが待っていた人がやって来た。エルザが武器を持って廊下を走って来たのである。ジョーは首だけ後ろに向けて、エルザへと叫んだ。


「エルザ! そのまま吊り橋を渡れ!」


ジョーはそう叫ぶと、エルザはそのまま玄関を抜けて吊り橋へと走っていく。エルザがジョーの背中の向こうを駆け抜けると、ジョーもエルザの背中を追った。


「逃すか!」


部屋の奥からジェームズが飛んで来て、ジョーの背中を追う。


ジェームズが玄関に出た時、ジョーは吊り橋を大きく揺らしながら踏み入れていて、対岸にいるエルザへの元へと向かおうとしていた。

そして、対岸に立つエルザの手には、ジョーの武器である斧が握りしめられている。


「あいつに斧が渡ってはまずい!」


そう思ったジェームズはジョーの背中を追う。もとより2人の間に、さほど距離は空いていない。ジェームズが吊り橋に足を踏み入れることで、揺れはさらに激しくなって歩みは遅くなった。


「ジョー! 早く!」


エルザがそう叫んだ時、エルザが何やら円盤のようなものをジョーめがけて投げてきた。ジョーは、その円盤のことを良く知っている。


ジョーは、その円盤が自分にぶつかる寸前で頭を下げて躱した。するとその円盤は、追ってくるジェームズへと向かっていく。ジェームズからすると、目の前へ急に円盤が現れたように見えた。


「なんだこれは!」


狭い吊り橋の上で避けることが出来ないジェームズは、慌ててその円盤を剣で払ったのだが、その瞬間、円盤は爆発した。


「ぐわっ!」


威力は大したことはないのだが、時間稼ぎ程度のことなら十分である。ジェームズが数秒、足を止めたことで、ジョーは吊り橋の対岸へと渡り切っていた。


「くそっ! あの忌々しい女め!」


ジェームズが悪態をついたとき、対岸で斧を構えるジョーの姿が見えた。それを見たジェームズは、急いで小屋の方へ逆戻りしていった。ジョーが吊り橋を切り落とすと思ったからである。


「少し遅かったな、ジェームズ」


ジョーは勢いよく吊り橋を切断する。プツンとはじけるようにロープが切れ、川の中へと落ちていく。ジェームスは釣り橋本体の綱にしがみつき、振り子のように揺られて崖の壁へと向かっていった。


「ええいっ!」


ジェームズは両足で壁を蹴り、膝を使って衝撃を和らげていた。その後、吊り橋をうまく伝って川の中へ降りていく。だが、川は急激に増水していて、ジェームズは体が流されそうになっていた。


「これはいかん。すぐに大水が来るぞ。早く岸に上がらないと……」


降りしきる雨によって水嵩が急激に増しているのである。ジェームズはもう、エルザを追うどころの話ではなくなっていた。


「ここからは人間の私は、手を引かせてもらうことにしよう。……散々、私の計画を潰してくれたエルザだけはこの手で始末したかったが、あの化け物に任せることにしよう。それではどこか休める場所を探して見物させてもらうとしようか」


そういうと、ジェームズは川岸へと上がって行き、ずぶ濡れになったまま、山の斜面を登っていった。





降りしきる雨は、だんだんと勢いを増してきた。ここ数日続いた雨のせいか、川の水嵩はいつのまにか、膝上くらいに増水してきている。


エルザとジョーは、水に濡れ、強い水勢に苦労しながらようやく崖の上へと上がっていった。しばらく登山道を行くと、ようやく崖を抉って作られた崖の道へと入っていく。ジョーはロープを取り出して、自身の体とエルザの体を結びつけた。


「お前は片手を痛めているから、万が一のためにロープで結びつけておく。カミルはどんな攻撃をするかわかったものじゃないからな。ロープの長さは20mある。動きやすいように、お互い、適当な長さを巻いて持とう」


ジョーの提案にエルザは素直に従った。2人は自身の体にロープを巻いて、お互い、適当な長さのロープを巻き取って肩にかけた。


「さあ、急ごう。カミルの奴が来る前に……」


「でも、こんな道じゃ、まともに逃げられないわよ?」


「ああ、お前の言う通りだ。……この道を行くには時間もかかるうえ、あまりにも無防備すぎる。遠距離攻撃が出来る魔法があったら、狙い撃ちされてしまうからな。……行き道で休憩した場所で、鍾乳洞に通じる道があっただろう? あそこまでなんとか出て、別ルートで逃げることにしよう」


「ええ……ジョー。私はあなたについていくわ……」


エルザがそういうと、ジョーは力強く頷いた。


「ああ、俺についてこい、エルザ。俺はお前となら、必ずこの危機を脱すると信じている。だから何があっても最後まで諦めるな。俺はお前の生まれ故郷へ行ってみたい。……生きて帰って、俺にアルカンディアを見せてくれ」


ジョーがそう言うと、エルザは目に力を込めてジョーを見た。


「ええ、ジョー。必ず……アルカンディアへ行こうね……」


2人はそういうと、軽く唇を重ねた。そして、崖の道を進んで行ったのである。





その頃カミルは、魔獣・アースクエイクの背に乗って川の中へと入って行った。先ほどは象程度の大きさだったアースクエイクも、周囲の魔力を吸ったのか、体が大きくなっていて、全長が12m程度まで膨れ上がっていた。


カミルはアースクエイクの背に乗りながら、自身が身に着けた新たな魔法を試すことにした。


「……なんということだ。体中に魔力が漲ってきている。俺がどれだけ強くなったのか、まるで見当もつかないくらいだ。……そうだな……まずは火球でも放って、その実力を試してみるか」


カミルはそう言うと、近くにある小山の頂めがけて杖を向けた。


「ファイアボール!」


カミルの掛け声とともに、火球が発射され、小山の頂付近へと激突し、大爆発を起こした。岩は砕け散り、木々は倒れて燃えた。その様を眺めていたカミルは満足気に笑みをもらした。


「こいつはいい……火球の威力は大魔導士がようやく1発撃てるかどうかという攻撃力だが、今の俺なら20発くらいは撃てそうだな。道理でベルメージュが国相手に戦争しようと思うはずだ」


そう言いながら、カミルは今度は別の山へと杖を向けた。


「それでは、実験その2だ……ライトニング!」


カミルがそう叫ぶと、天空から一筋の雷が、目標としていた山の頂へと落ちた。ガガーンという大きな音と共に、山の頂が粉々に吹っ飛んでしまった。


「ほう、これもなかなかのものだな……それでは10連発でも打てるかな?」


カミルはそう言うと、今度は右の山へ杖を向けた。


「それでは行くぞ。ライトニング、10連!」


カミルがそう叫ぶと、轟音とともに10もの落雷が右の山へと落ちてきて、山を粉々に吹き飛ばしてしまったのだった。


「……これほどまでに強大な力だとは……」


カミルは笑いが止まらなかった。自分はベルメージュ以上の力を手にした……今だかつてない、強大な力を。そして、ふと思い出したように、アースクエイクのことを思い出した。


「そうだ、新しく授けられた力を試してみるのを忘れていたな。よし、こいつの力も知っておかなければな。アースクエイク……その名のとおり、大地を揺るがすその力をな」


そういうと、カミルは杖を高らかに構えて、これまで寝泊まりしていた小屋を示した。


「アースクエイク! あの小屋を壊せ!」


カミルがそう叫ぶと、アースクエイクは前足を上げて、地面をドン!と叩いた。するとビリビリビリ!と、地響きが走って、小屋どころか、小屋が建っていた崖そのものが、まさに破裂したかのように爆散したのだった。あまりの威力に呆然とするカミル。


「こいつは驚いた……すごいじゃないか、アースクエイク。俺とアースクエイクが一緒にいたら、負ける気がしないな。ははは、笑えるぞ、ホントに」


カミルはニヤケる顔を戻すことが出来ないまま、元、小屋のあった場所へと目を向けた。


「あーあ、これではオリバー師の死体は粉々だな。それでは追悼の意味を込めて、水魔法の試し撃ちをしてみることにしよう」


カミルは、さきほど火球を放ち、山火事になっている山腹へ杖を構えた。水で火を消そうというのだろうか。


「まあ、この雨だから、ほっといても消えるとは思うけど……せっかくだから、水魔法で消火することにしよう。……ウオーターランサー!」


カミルがそう叫ぶと、長さ5mもの太い棒状に伸びた水の塊が数度、発射され、山腹へ突き刺さっていった。すると、山の岩盤が大きく揺らいで崩れ落ち、火を消火するどころか山腹から地下水があふれ出して新たな大滝が出現するに至った。カミルはその結果に乾いた笑い声を漏らすしかなかった。


「ははは、どうだ。新たな観光名所を作ってやったぞ。……そうだな、名をカミルの滝と命名してやろう」


カミルは1人そうつぶやくと、神の廊下の方へ視線を送った。


「さて、予行練習はここまでだ。それではエルザを仕留めるとしよう。あんな小さな存在、軽く羽虫を殺す程度にひねりつぶせるが、せっかくだから大技で仕留めてやろう」


そして、神の廊下方面へ杖を向けると、カミルは叫んだ。


「終わりだエルザ! くらえ、ウォーターウォール!」


カミルがそう叫ぶと、神の廊下の半分を満たすくらいの水が現れ、大きな塊となって川の中にあるすべてのものを押し流して行ったのである。


まさに、オリバーがこの地を隠れ家に選んだ理由がこの、ウォーターウォールという技があるためなのだった。


すべてものを押し流す、水の暴力。河原に転がる大岩も、なにもかもすべてが下流へ押し流されていく。そして、左右にそそり立つ崖に阻まれて、逃げることも出来ないのだった。


ウォーターウォールが過ぎ去った後の神の廊下は、綺麗な川底が見えるだけで、何も残っていなかった。ただ、カミルが誤算だったのは、この壁の高さが、崖の道が掘られた高さまで届かなかったことである。


「……くそう。今の俺ではオリバー師へ届かないとでもいうのか?」


カミルは悔しそうに唇を噛んだ。


「いや、違うな。ちょっと魔法の試し打ちをしすぎたせいで、魔力が不足していたのだろう。力が満ちていれば、この程度のことが出来ないはずがない。まあいい、とりあえずエルザを追うことにしよう」


そう言いながら、カミルは大熊の背に乗って、悠々と渓谷へと入っていく。


勢いを増している川の水も、アースクエイクの巨体を前にしては、ただの小川程度のものでしかなかった。エルザたちは登山道を逃げたが、この巨体ではもう、あの崖の道を通ることは出来ない。カミルは川の中をザブザブと下りながら追うことにした。


幸いなことに、先ほどの大技・ウォーターウォールによって、歩きにくい岩などは綺麗に排除されている。カミルを乗せたアースクエイクは、ズンズンと川を下っていく。


だが、同時に困ったことも起きた。先ほどカミルが放った強大な魔法のせいで、水嵩がどんどん増しているのである。地下水があふれ出たりしたことが原因なのだろうか。水勢は、魔獣の足を沈める程度に増えていた。だが、そんなことはアースクエイクにとって、大したことではない。アースクエイクは、平気な顔をして、神の廊下を下っていく。


「さあ、急げ、アースクエイク。エルザたちを追い詰めるぞ」


カミルにそう言われ、アースクエイクは一声咆哮を上げた。そして、綺麗に障害物が取り除かれた、この渓谷をズンズンと下っていくのだった。



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