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女剣士エルザが行く王女救出の旅  作者: あんことからし
6.エルザとジョーの旅
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第76話 召喚


オリバーは、茶を一口飲み込むと、話を始めた。


「……ヤタガルの証には3つの球があってな、一つは劫火の球、もう一つは暴風の球……そして大水の球という……。それから、この球に触れてこの力を身に宿すことが出来る者には条件があって、それは成人直後……つまり、16歳前後の身体にしかなじまない、ということなのだよ。つまり、それより体が幼くても、成熟していてもダメなんだ」


「えー-っ!」


エルザは天を仰いで大声を上げた。


「それじゃ、私は偶々、16歳だったからこの球を宿してしまったってことなの?」


「まぁ……そういうことになるな」


エルザはショックのあまり、頭を抱えてしまった。


「なぜ、そういう仕様になっているのかワシにはわからん。おそらく、未来ある若者が、その力をどう使うか見てみたかったのかもしれん。……何をしでかすかわからんのが若者だからな。それに対して年長者の考えることはたいして面白くはない……金か女か権力か……その程度のものだろうからな」


オリバーの話を聞いてエルザは首を傾げていた。


「若い人の方が、碌なことしないと思うのだけど」


エルザがそう言うと、オリバーは手を振りながら笑っていた。


「それが予想外で面白いと考えたのではないかな? その証拠にお主も面白い選択をしただろう? 力を使わないという選択をな……。大人ならそうはいかん。一旗あげようとか、誰かを倒そうとか、その力を使って何かをしようと考えるものだ。そして、その者の周りには、力を利用しようとして群がる者も出てくる」


「なぜ人が群がってくるのですか? 球を持つ人の力を利用して、何か企んでいるということなのですか?」


「ああ、そうだ。ワシなんかな、一度奴隷にされそうになったことがあるわい。……奴隷にして、意のままに力を行使しようと思ったのだろう……ま、返り討ちにしてやったがな」


エルザは口をへの字に曲げて肩をすくめた。


「人の欲って、恐ろしいですね……」


「そうなんだ。ここまで大きな力を持ってしまった以上、もう自分だけの問題じゃないのだよ、エルザ」


オリバーは茶をすすって、息をひとつ吐いた。


「それでだ。 この3つの球は、火は山火事、水は津波や洪水、風は台風や竜巻を模したと言われていてな、そんな自然災害のような力を持っていることから「災厄の球」と呼ばれている。……それらの災害を再現できる力があるということだな」


「ちなみに、私の持っていた球は何だったのですか?」


「お主は、その球をガムランで手に入れたというから、それはアーカードという男が所有していたものだな。……竜巻や台風の力……つまり、風や雷を武器とした暴風の球というやつだ」


「それではオリバー様は、水の力を宿しているのですか?」


「そうだ。ワシは水を司る球を宿している。今、べルメージュが死に、お主の虫を腕から取り除いた段階で、この災厄の球を宿しているのは、この世でワシ1人ということになるな」


「オリバー様は、その、絶対唯一の力で、何かを成そうという気はないのですか?」


エルザがそう問うと、オリバーは強く首を振って否定した。


「ない。……それは断じてない。こんな、分不相応な力は人類に不要だ。ワシの代で終わらせる」


「そうなのですね……私に出来ることがあるならお手伝い致します」


「ありがとう……だが、その気持ちだけで十分だよ」


エルザは表情を緩めて、優し気な視線をオリバーへ送った。そして、オリバーまた、笑顔を返し、それからひとつ手を打って、思い出したかのようにエルザへ聞いた。


「おっと、ひとつ聞くのを忘れていたが、ベルメージュの核を壊した時、その死骸はどうした?」


エルザもまさか死骸のことを聞かれるとは思ってなかったので、少し眉間に皺を寄せて考えこんでしまった。


「どうだったかしら? それはそのまま他の死体と一緒に処分されたと思うけれど……あれに何か利用価値でもありましたか?」


「いや、処分したならそれでいいんだが……。実は古文書を解読して、ひとつわかったことがあってな……」


「古文書ですって? それは、どういう内容もののなのですか?」


エルザにそう聞かれて、オリバーは一同を見渡した。


「ここにいる者たちだけならば、言ってもかまわんだろう。弟子のカミルはすでに知ってることだしな。……その古文書に書かれていた内容とはな、災厄の球を宿す3人を打倒した者には、その3つの力に加えて新たな力を得ることになるだろうと、書かれていた」


エルザは驚いて言った。


「そんなことが? 古代の人たちは、なぜそんなことを……。もし、本当にそういう設計で作ったというなら、私はその設計者の常識を疑います」


エルザは理解できないとばかりに、声に力が入っていた。


「ああ。なぜ、そんなことが書かれていたのか……それが事実かどうか……今ではもうわからん。これは想像だが、災厄をまき散らす者を打倒し、平和をもたらした者へ力を授けることで、良い使い道を見つけてくれるのではと、考えたのかもしれん」


オリバーの言葉に、エルザは不満気だった。


「オリバー様は、少し楽観的すぎます」


エルザがそういうと、オリバーは笑って頷いた。


「お主の言うことは最もだ。いずれにせよ、ベルメージュの球が廃棄され、お主に宿っていた虫はこれから焼却することになるから、実際には実現不可能なことなのだがな……」


そういうとオリバーは、はははと笑った。


「ということは、打倒した証として、核の死骸が必要だったのですか?」


「そのとおりだ。だがな、それだけでは駄目なのだ。その力を得るためには、それを実行する魔力回路が刻まれた器が必要になる。そしてその器は未だ発見されていないのだよ」


それを聞いて、エルザは少しホッとした表情を見せた。


「そういうことなら安心ね。きっとその器は、ただの骨とう品として、どこかの金持ちが花でも飾るでしょうよ」


エルザはそう言うと笑った。その冗談に、珍しくオリバーも笑った。


「可笑しいことを言うのお。……それもこれも、お主の虫を取り除いて欲しいという申し出が、ここに実現したからこそ、ようやく笑えるというものなんだ」


「私の?」


オリバーの言葉に、エルザは首を傾げた。


「ワシの悲願はな、この災厄の球をすべて破壊することなんだよ」


「そうだったんですか!」


エルザの反応に、オリバーは頷いた。


「災厄の球は、人類には過ぎたる力よ。こんなものがあっては、球の保有者による暴力で、何事も解決されることになってしまう。……割を食うのは力を持たぬ他の人々だ。多くの命も失われることだろう。……こんなことでは、子孫たちに明るい未来を見せられぬではないか。こんな災厄の球などというものは、この世にあってはならぬものだとワシは思っている」


エルザは、人類の未来を考えるオリバーの話に胸を打たれていた。己の欲望のために力を使おうとするベルメージュのような者がいる中で、このような高潔な人がいるのだろうかと、感動していた。


「ワシはな、災厄の球を宿した最後の一人としてな、しかるべき時が来たら、誰もおらぬ山奥でひっそりと死んで、永遠にこの球が使われることのないよう、この身もろとも破壊するつもりなのだよ」


オリバーのそんな覚悟を聞いて、エルザは驚いていた。


「まさか、そんなお覚悟まで……」


エルザは悲痛な声でそう言うと、オリバーはニッコリと笑った。


「そういうわけでな、お主の力を使わないという決断に、ワシは心から感銘を受けたのだよ」


オリバーはそう言うと、満足気に頷き、カップに残った紅茶をすべて飲み干した。


「だから、ワシの願いを叶えてくれたお主たちはな、せめてもの礼といっては粗末だが、遠慮せず、傷が良くなるまでしばらくゆっくりして行ってくれていいんだ。……ま、そんなに美味い食事はないがな……」


オリバーがそう言うと、エルザは恐縮して言った。


「いえ、そんなに甘えるわけには……」


「ははは、かまわん、かまわん」


そういうと、オリバーは立ち上がった。そして、窓の外を見ると、少しの間だけ、雨が止んでいるようである。


「雨が止んだようだな。もう一雨来る前に、ワシは氷室から熊肉を取ってこよう。……今日はなんだかいい気分じゃ。お主たちに、とびっきりのうまい肉をご馳走することにしよう」


オリバーはそう言って微笑んだ。


「いいのですか?」


「ああ、かまわん、かまわん。毎日山菜と川魚ばかりではつまらんだろうからな。たまにはこうして、肉を食べねば……それではカミル、一緒についてきてくれるか」


オリバーがそう言ってカミルの方を振り向いた……その時である。カミルの右手が素早く動いて、オリバーの胸板を突き刺したのである。


オリバーの胸には、背中から突き抜けたカミルの右手が飛び出していて、その指先には小さな丸い球が握られていた。その右手首は、金属製の湾曲した鋭い刃物が巻き付くように並べられている。それはまさに、災厄の球を取り出すために作られた道具のように思えた。


「オリバー様!」


エルザとジョーは叫んだが、オリバーからの返事はない。オリバーは血を吐いてガックリと項垂れ、声どころか息すら吐けないようである。エルザは、カミルに飛び掛かろうとしたが、ジョーがエルザの襟を掴んでそれを制止した。


「エルザ! お前は部屋へ戻ってろ!」


エルザはキッとジョーを睨みつけ、何か言おうと口が動きかけた。だが、ジョーの目を見てすぐに意図を理解したのか、黙って応接室を後にした。


ジョーはこれまで感じていた違和感の正体は、オリバーではなくカミルだったのだとようやく気付いた。そして、登山と称して、斧以外の何もかもを、ブラストの町に置いで来たことを思い出し、今更ながらカミルの策略だとわかったのである。


ジョーは、カミルを睨みつけて言った。


「カミル! どういうつもりだ。オリバー様は、お前の師匠ではなかったのか!」


カミルは満足気な面持ちで、ジョーを見て言った。


「ずっと考えていたんだ……。どうすれば、オリバー師の球をうまく奪うことが出来るのかってね。なにせ、こいつらにはものすごい再生能力があるからさ。……そこで考えたのがコレだったんだが……思いの外上手く行ったようだね」


「そんなもの奪ってどうする! あれは成人前後の若者しか宿すことは出来ないのだろう? お前みたいな年齢の男が球を奪ってどうする気だ」


「それは災厄の球の話だよジョー。……これは別」


カミルはそう言って、金色の器を見せた。


「お前、まさかそれ……」


ジョーは冷や汗を流した。


「察しがいいね、ジョー。お前の勘はおそらく当たっているよ。……そう、これがオリバー師が探していたという、魔力回路の刻まれた器だ」


それを聞いて、ジョーの顔は一気に青ざめていた。


「おいカミル、お前それで何をする気だっ!」


ジョーは素早く横へ飛んで、先ほど自分が座っていた椅子へ手に持って、カミルの元へと飛んだ。


「おっと、ジョー。動くなよ?」


カミルがそう忠告したにもかかわらず、すでにジョーはカミルに椅子をぶつけようと急接近していた。だか、その振り回した椅子がカミルに届くかという所で、ジョーに向かって下から一筋の剣が飛んできたのである。


「ぬうっ!」


ジョーは思わず椅子を振り回して防御し、床を蹴って後ずさりした。間一髪でその剣撃を躱すジョーだったが、わずかに斬られてしまって血がダラダラ流れていた。


ジョーは謎の男を睨みつけた。すると、謎の男はゆっくりと立ち上がり、ジョーの前へひらりと姿を見せた。


「動くなと言われたのに、言うことを聞かないから怪我をするんだぞ、ジョー」


その男を見たジョーは驚いて目を大きく見開いた。


「お前はジェームズ!」


「ははは、いかにも俺様は、今は無きメラーズ家の家宰、ジェームズ様だ」


ジョーは歯をギリギリさせながら、ジェームズを睨んだ。


カミルは、オリバーは足蹴にしながら、突き刺さった自分の腕を引き抜いた。オリバーの体が血を吹きながら床へどさりと落ちていく。もはや、声どころか息もしていないオリバーだった。それをみながらカミルはニヤリと笑い、右腕を振って血を飛ばした。


「おいカミル……お前はオリバー様の弟子なんだろう。それなのに、そこの男に唆されて悪事に手を染めるとは……!」


すると、ジェームズは笑った。


「はははは、ジョーよ。カミルは私に唆されたのではない。私によって送り込まれた男なのだ」


「なんだって!」


ジョーは驚きのあまり、大声を出していた。


「ははは、なんだその慌てようは。銀狼のジョーの名が泣くぞ。……私があの器を手に入れた時は、それが一体どのように使うものなのか検討もつかなかったが、カミルから古文書の話を聞いた時は椅子から転げ落ちそうになるほど驚いたものだ」


ジェームズは、カミルがマイペースで作業をしているのを見て、イライラしながら急かし始めた。


「……おいカミル。サッサと儀式を済ませてしまえ」


ジェームズがそう言うと、カミルは手早くオリバーの球を解体し、中の肉塊を取り出して握りつぶして器の中へ入れた。


「ジェームズ! お前まさか、メラーズ家からベルメージュの残骸を持ってきたのか!」


「やっと気づいたか。この私がわざわざ、こんな辺鄙な場所まで出向いて来るからには、それ相応の理由があるのさ」


ジョーはカミルに向かって走った。だが、それはジェームズによって邪魔されてしまう。


「どけ! ジェームズ!」


ジョーが声を上げると、ジェームズはニヤリと笑った。


「どけと言われてどくものかよ、ジョー!」 


「くそっ!」


ジョーは椅子を振り回してジェームズを攻撃する。


ガラガラガラッと、机の上にあるものが、床に落ちて割れる。そこへビュンビュンとジェームズの刃が飛んだ。


ジョーはそのあたりにある杖や瓶など、あらゆるものを武器としながらジェームズと渡り合ったが、全く手ごたえがない。ジェームズは余裕の表情で白い歯を見せた。



「ははは、丸腰で一流の剣士である私と戦うつもりかね?」


「おのれぇっ!」


ジョーは椅子を掴むとそれを振り回してジェームズへと向かった。ジェームズは、それを煩い小バエを払うように剣を振ったが、ジョーはそのやる気のない剣先を、椅子の底板に突き刺したかと思うと、椅子の足2本をうまく使って剣を挟みこみ、がっちりと固定してしまったのである。


「なに!」


そして、すぐさまジョーの蹴りがジェームズの腹めがけて炸裂する。


「おっと!」


ジェームズはその蹴りを足を上げて防御し、腕をくねらせて椅子を使った拘束から剣を外すと、後方へ跳び下がって距離を取った。


「丸腰だからといって、舐めていると怪我をするぞ」


ジョーがそう言うと、ジェームズもニヤリとしてジョーを見た。


「……カッコよく決めたつもりか? 見ろ! 俺がお前の相手をしている間に、カミルは儀式を完成させてしまったぞ」


「なに!」


ジョーは思わず、カミルを見た。


「よく時間を稼いでくれたなジェームズ。お陰で儀式は完成した!」


カミルはそう言うと、手首から流れる血をポタポタと杯の中へと注ぎ込んでいた。そしてその金の器は、複数の魔法回路を起動させながら光を発して、カミルの手の平の上から宙へ浮かび上がっていた。


「まさか……まさかこんなことが!」


ジョーはさっき、オリバーが話していた災厄が誕生する瞬間を、まさか自分が目撃することになろうとは夢にも思っていなかった。


宙へ浮かび上がった金の器は、魔法回路を光らせながら徐々に形を変えてゆき、小さな金の球へと変化していった。そして、最後にカミルが広げた手の平の上に落ちると、ビリビリっと電撃のようなものを走らせて消えた。


その電撃が止んだ時、カミルの右腕に、黒い鳥の印が刻まれていたのだった。


「さて、魔力を通すとしよう。一体、どんな力が授かるのか楽しみだよ、ジョー」


「ま、まて! カミルっ!」


カミルはジョーの制止も聞かず、腕の証に魔力を通すと、突然、カミルの体が雷に打たれたように輝き出した。


そして同時にカミルの足元から魔法陣が浮かび上がり、黒毛の大きな熊の魔獣が現れたのである。


「なにー-っ!」


ジョーは、急に湧いて出た魔獣に、慌てふためいていた。


その熊の魔獣はジョーの想像を超えて遥かに大きく、まるで象が2本足で立っているかのように大きな姿をしていた。


「これこれ。来たな魔獣アースクエイク! 早速だがジョーとエルザには、新しく手に入れた俺の力と、この魔獣を操る試験台になってもらおう」


カミルがそう言って、今の状況に悦に浸っている間に、熊の魔獣・アースクエイクは小屋の屋根を突き破り、応接室一面に木材の破片を撒き散らしていた。


立ち上がった熊は、雨にうたれながら咆哮をあげ、その声に小屋の壁は震えた。そして、アースクエイクが数歩歩いただけで、小屋の床は大きく揺れ動いたのだった。







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