第7話 黒い蝙蝠
ゴンド村から馬で3日ほど行った先に、リールという大きな街がある。
リールは高い壁に囲まれた城壁都市だ。
数百年前、女神教の総本山だったリールの街は、当時の権力者達によって、このような壁のある街が築かれていた。人口は約4万人。交通の要衝でもあるので、商人や旅人などの出入りも多く、街は人で溢れ、毎日が活気に満ちていた。
そんなリールの街で裏稼業を営む"黒い蝙蝠"という盗賊団がある。
リールの街にはいくつかの盗賊団があるが、黒い蝙蝠はその中で最も武闘派に位置する盗賊団で、構成員の数は50人前後。ほとんどが元傭兵や元兵隊、元冒険者といった、腕に覚えのある者ばかりだ。
時折地方の村などへ出かけては集団で強盗や人さらいなどを行っていて、それらを闇市場で売買するなどの汚い商売を行っていた。とにかく金になると思ったら、暴力にモノをいわせて奪い取るというスタイルがこの黒い蝙蝠の特徴で、リールの裏社会を暴力で牛耳っていた。
その、"黒い蝙蝠"の一団が、ゴント村へ現れた。
もうすぐ昼食を食べる時間帯のことである。
「メスラー。ここだな? ゴントとかいう村は」
黒い蝙蝠の頭領、ガスタは熊のような大きな体を揺すった。ガスタが丸く大きい体形をしているのに対して、黒い蝙蝠ナンバー2のメスラーは、筋肉質のやせ型である。
「ああ、そうだ。例の金になる村だぜ……」
メスラーはそう返事をすると、後ろを向いて誰かを探しはじめた。そして、大声を出しながら手を振った。
「おい、ジェームズ!」
メスラーに呼ばれて奥から顔を出してきたのは、自称・旅商人のジェームズである。ジェームズは、年齢は30代前半くらいで筋骨逞しい美男子だが、口に細い口ひげを生やしているのはキザったらしい。その身なりも上品であり、所作もいささかキザっぽい男である。
「呼んだかね?」
ジェームズはお茶でも飲むような気軽さで、熊の如きガスタの前に出てきた。
「お前がジェームズか」
ガスタはジロリと睨みながら声を掛けたが、ジェームズは全く怯む様子はない。メスラーはジェームズに言った。
「ジェームズ、こちらは黒い蝙蝠の頭領ガスタだ。今回の件はお前の発案でもあるんだから、挨拶くらいしとけよ」
メスラーがそう言うと、ジェームズはニコリと微笑んで、挨拶をした。
「これはこれは、ガスタ親分。よろしく頼みますよ」
それを聞いて、ガスタは眉間に皺を寄せた。
「キザったらしいヒゲだな。剃った方がいいんじゃねえか」
ガスタがそう言うと、ジェームズは鼻で笑って
「舐められるんでね。こんなヒゲでも生やしてないと、よく絡まれる」
「なんだ、喧嘩が怖いのか、お前は」
ガスタは少し馬鹿にしたような口調で言ったが、ジェームズは全く動じない。
「絡まれるのが面倒だからさ。弱い奴は、怪我をさせたらうるさいからね」
「随分と自信があるんだな」
「旅商人だからね。それなりに修羅場は潜ってるよ」
そう言うと、ジェームズはニヤリと笑った。ガスタはフンと鼻をひとつ鳴らしてから腕を組んだ。
「そういや、あんたが狙ってるお宝があるんだってな」
「ああ。それをお願いに来たんだ。私が探しているのは金杯だ。金色の金属で出来ていて、杯の真ん中に黒い鳥のマークが刻まれている。……問題なのは、ゴント村の金持ちが買ったということしかわかってないことだ。そこで、あなたたちにご協力お願いしたってわけさ」
「で、その杯にいくら払うっていうんだ?」
「2000万エスタン。それ以上要求するなら、この話はなしだ」
「俺たちがその金杯を転売したらどうする?」
「売れないさ。それだけは賭けてもいい。言っておくが金で出来ているわけじゃないからな。市場価値としては、大したものじゃない」
それを聞いて、ガスタは不満そうな顔をした。
「もうちょっと色を付けてくれよ。……3000万エスタンでどうだ」
「ダメだ。言っておくがそんなに難儀せずに発見できる可能性だってあるんだぞ。さっき私はゴントの金持ちが買ったと教えただろう? だから、お前たちが必ず向かう村長か鉱山長の家にある可能性が高いわけだ」
「だが、そこにあると決まったわけではないだろう。安く請け負って苦労するのは嫌なんだがな」
ガスタがそう渋るとジェームズは
「この村の男衆はみんな、昼間は鉱山で働いてるから留守で、村にいるのは女子供ばかりだぜ? 黒い蝙蝠は、なかなか力のある盗賊団かと思っていたが、そうではなかったのか?」
口が達者なこのジェームズとのやりとりに、ガスタとメスラーは少し苦い顔をしていた。そのことに気付いたジェームズはニヤリと笑って言った。
「冗談が過ぎたようだな……失礼した。ガスタ親分の顔を潰すわけにはいかない。お詫びの記しとして、ここは2500万エスタン出すとして、まずは現金で1000万、前払いでお渡ししようじゃないか」
ジェームズがそういうと、ガスタもメスラーも顔を上げてパァッと明るい顔になった。
「意外と話の分かる奴じゃないか……」
ジェームズは懐から1000万エスタンの入った革袋を取り出して、ガスタに渡した。受け取ったガスタはニヤリと笑った。
「残り1500万エスタンは、金杯と交換だ。……期待しているぞ、では……」
ジェームズはそう言うと、ガスタたちに背を向けて去っていった。その背中を見送りながら、メスラーは言った。
「いいのか? あんな旅商人にいいように言われて」
するとガスタは横目でジロリとメスラーを見て
「あいつは旅商人とか言っているが、その実体はな、夢幻流剣術のジェームズという凄腕の剣士なんだ。何年か前にな、夢幻流の師匠があいつの人柄を嫌って奥義を教えるのを拒否したんだことがあったんだ。そしたら、師匠を含め高弟4人と斬り合いになってな、全員を斬り倒したっていう修羅の男なのよ」
「よくそんなこと知っているな……」
メスラー冷や汗をかいていた。
「たまたまな。本気でやり合えば、お互いいい勝負だろうが、戦ってもいいことは一つもねえ。むしろ味方につけておいて、いざという時に金や武力を利用させてもらうって方向で考えるのが利口ってもんだぜ」
「なるほど、そういうことか」
「みろ、少し会話を重ねただけで、500万エスタンの上乗せだ。どうだ、俺も仕事をしただろう? ま、冗談はこれくらいにして、そろそろ仕事へ向かおうか。……いいな。段取りよく行けよ? 昼間の仕事は目につくからな。金目の物を奪ったら、サッサと馬車で運び出してしまえ」
それを聞いてメスラーはニヤリと笑った。
「へいへい。ま、見ていてくれよ。儲けさせてやるからさ」
「頼むぜ? 頭領まで出て来て、儲けがジェームズからもらった銭だけとか、笑えねえ冗談だからな」
ガスタがそう言うと、メスラーはニヤリと笑ってそれに答えた。
それからメスラーは、待機している盗賊団の連中の所へと歩いていくと、全員に向って大声を出した。
「おい! お前ら! いいかよく聞け! 今から5班に分かれて行動する! フォルトとタッカーは手下を3人連れて村長の家を襲え。シリルとアーロンは3人連れて鉱山長の家だ。それからグレンとガイ……お前ら2人は女を探せ……いいか、売れるような女だぞ。ニック、ノア、リオの3人は馬車で運び出す準備をして、フォルトやシリルからの連絡を待て……」
メスラーは、パンパンと手の平を叩いた。
「残った奴は俺についてこい! 片っ端から家を襲って金目のものを奪い尽くすぞ! さあ、行け! モタモタすんな! 今日の相手は女子供ばかりだ。さっさと運び出してトンズラするぜ! いいか! 昼間の仕事だ! スピードが勝負だぞ! 走れ野郎ども!」
メスラーが喝を入れると、手下どもは散り散りになって走っていった。
◆
まず、村長の家に向かったのはフォルトという傭兵くずれの剣士だ。戦う以外に何の取り柄もない、いわゆる悪党である。地図を見るのも面倒なようで、手下に読ませて案内をさせている。
「とっととしやがれ。村長の家はどこだ? 早く案内しろ!」
そう言ってフォルトは手下のデニスを蹴り飛ばす。すべて部下に丸投げしている分際で、この態度である。
タッカーは、フォルトと長年コンビを組んで悪事を働いて来た仲だ。それだけに、戦闘時の息もピッタリで、例え格上の相手だろうと、2人が連携を組んで当たれば、これまで負けたことは無い。
フォルトは剣術の腕前もさることながら、その剣筋は卑劣かつ悪質であり、戦い方も残虐極まるものだった。つまり殺しを楽しむタイプの男であり、これまでもリールの街で大勢の人を殺してきた。
相棒のタッカーは棒術の達人で、大きな太い杖を得物としているが、この杖の先端が隠し武器となっていて、鎖分銅を放つことができる。つまり、タッカーが鎖分銅で遠距離攻撃を仕掛け、捉えた所をフォルトが膾切りにするのが、2人の得意とするパターンだった。これまで、タッカーの鎖分銅での攻撃を初見で破ったやつはいない。棒術の攻撃を繰り出しながら、タイミングを見て分銅を放つ。フォルトの攻撃と杖の動きに気を取られ、絶妙なタイミングで放たれる予想外の鎖分銅に、とっさに対応することは、並の人間ではまず不可能であろう。
ただでさえ女ばかりの弱い村である。フォルトとタッカーは早々に退屈していて、さっさと金を奪って帰りたいと考えているようだった。
「一体、どれだけお宝が眠っているというんだ? こんなに人数がいるのかよ?」
フォルトがイライラしながら言った。
「そう言うな……。参加していりゃ、分け前ももらえる……。それに楽なことは、悪いことじゃない……。手下にやらせておいて、大金が入ってくるなら……こんな美味しい話はないじゃないか……」
タッカーは薄ら笑いしながら、フォルトを宥める。
「そうだけどよ。俺はもっと暴れたいんだよ。……こんな弱っちい女ばかりの村じゃ消化不良だ」
「ふふふ……それに関しては俺も同意だが、そうそう強い奴はおらんよ」
しばらく行くと、村長の家が見えた。
「フォルトさん、ここですぜ。ここが村長チャドの家です」
デニスがそう告げるとフォルトは尊大な態度で腕を組んだ。
「ほう、そうか。じゃあデニスとドルーはサッサと扉を開けて、金目のものを奪ってこい! ガンツは2階を見てこい。俺たちはリビングで座って待ってっから」
「へい!」
そういうと、手下たち3人はドアを蹴り破って中へと入って行った。手下が中へ入っていくと、チャドの妻ガラが1人で昼食を食べている所だった。ガラはモニカの母親である。
「あなたたち一体どこから入って来たの? ……ひっ、もしかして強盗??」
それを聞いて、デニスはニヤニヤしながらガラに近づくと、平手打ちを2、3発、バチバチッと殴った。
「痛いっ!」
ガラが叫んだ。
「どこから入って来ただって? 玄関からに決まってんだろ? 開きが悪かったから、蹴り破って入らせてもらったぜ」
デニスはそうやってガラに凄んだ。
「お願い、叩かないで!」
ガラは怯えた声を上げた。
「そうかい? 叩かれたくなかったら、金はどこに隠してあるか教えてもらおうか。言っておくが俺たちは女だろうと容赦はしねえぞ!」
暴力で逆らう気さえ失わせる……それが奴ら黒い蝙蝠のやり方だ。
「わ、わかったわ……わかったから助けて!」
「ようし、話が早いのは助かる。では案内しろ」
そういって・デニスはガラの尻を蹴った。
◆
その頃、盗賊シリルは、鉱山長カーティスの家の前へ立っていた。
シリルは黒い蝙蝠の特攻役である。若い頃は剣術道場で修行したこともあって、その剣筋は精練されている。だが、その性根は盗賊稼業に染まり切っていて、人の命を奪うことに何の抵抗もないようだった。
「よし。アーロンとコランは俺と一緒に1階へ押し込んで制圧する。ダウルとデイブは2階を見てこい。女子供がいたら殺さずに連れてくるんだ……」
フォルトが目に見える悪党なら、シリルは陰険な悪党だ。手下へ目に見える形での暴力はないが、言うことを聞かなかったり歯向かったりすると、シリルは人知れず殺すとまで言われている。だから、手下たちはシリルの言うことには決して逆らったりしない。
シリルたちが奥の方へ入っていくと、台所で女が油で揚げ物を作っていて、熱い湯気を上げていた。カーティスの妻サンドラ……つまり、カレンの母である。
「これはこれは奥方様か。突然の訪問で申し訳ないねえ。俺たちはお前の旦那が貯め込んでる金を頂きに来たんだ。それと、鉱山労働者が共同で貯めている資金がここにあるはずだ。死にたくなかったら金のありかへ案内するんだ」
そういうと、テーブルを足で蹴り飛ばした。
ドン! ガラガラ、ガシャ、……パリーン……ガシャン!
テーブルの上にあったものが床一面にまき散らされ、破片や中身がそこら中へと飛び散っていった。
「ひいいいーっ! 言うから助けておくれよ!」
「早く案内しろ……俺は気が短いからな」
「ひいい、言うよ……言うから待っておくれーっ!」
サンドラは、台所の棚から箱を取り出し、中から金の入った財布を取り出して、盗賊のコランへと渡した。
「こんな小銭のことを言ってるんじゃねえ! お前の旦那が隠している金の在処を言えといってるんだ!」
そういうと、コランはサンドラの腹へと蹴りを入れた。
「ぐあーーっ!」
サンドラは悲鳴をあげて床へ倒れ伏した。
コランはサンドラの髪を掴んで引き起こした。
「腹が痛いといって寝ているんじゃねえ。さっさと起きやがれ!」
コランはそう言って、髪の毛をひっぱりながら体を起こそうとしたのだが、サンドラは腹を蹴られた衝撃で嘔吐いてしまって、言葉が出てこない。
シリルは静かに言った。
「もういい、コラン。この女が何も知らないというなら、もう殺してしまえ」
「え! いいんでやすか? もうちょっと尋問してからでも……」
「もう面倒くさい。楽にしてやれ」
「へい! わかりやした……」
コランは、そう言うと、サンドラの方へと向き直り、懐からナイフを取り出した。
サンドラは部屋中の空気を飲み込まんばかりに息を吸うと、叫ぶように言った。
「まって、待ってください!お願いします!……夫の部屋へ案内しますから! どうぞこちらへ来てください!」
コランはシリルの方へと振り向いた。
「……どうしやすか? 案内させやす?」
「フン……案内させろ」
コランはサンドラを脇から抱え起こして、サンドラの背中を押した。
「さっさと案内しやがれ」
「ううう……」
サンドラの顔は涙と吐しゃ物でぐちゃぐちゃになっていた。
そして、よろよろと、壁に手を突きながら歩いていき、家の外へ出て、離れの建物へと案内した。
離れの大きな扉を開け、鍵の束をコランへと渡した。
「ここが、主人の部屋です……金庫は奥の小さな扉を開けた所です……主人は金品を隠すとしたらここしかありません! ここじゃなければ鉱山だわ! お願い! もう許して!」
「こっちが聞きたいことが出来るまで、ちょっと黙ってろ」
シリルは黙ってサンドラを睨んた。サンドラは、涙を流しながら押し黙った。
そこへ、2階へ行っていたダウルとデイブがやってきて、シリルへと報告した。
「2階にいい女がいやしたぜ。ちょっと歳は若いが顔はいい。14、5歳ってところか? 遊郭へ高値で売れやすぜ」
「ほう……見せて見ろ……」
シリルがそう言うと、ダウルが小さな女の子をひとり引きずってきた。
「嫌……痛い!……引っ張らないで……」
その女の子は泣きながら引きずられてくる。
「ああ! その子は!……ああ!」
女の子の声を聞いた途端、目の前にいたサンドラが膝から崩れ落ちて叫んだ。
「お願いします!その子だけはお許しください! お願いします!」
そう言って、サンドラは床へ顔を伏せて、泣きさけんだ。
シリルは、サンドラの方へ顎をしゃくった。
「ダウル……黙らせろ」
「へい……」
ダウルはサンドラの腹を蹴り飛ばした。
「うぐう……!」
サンドラは、叫ぶのをやめて、床へ倒れ伏した。
「お母様!」
女の子は叫んだ。
サンドラは起き上がって、女の子の方へ向いた。
「カレン……ごめんよ……」
サンドラがそう言った時、ダウルは顎にパンチを1発入れた。
「おかあさん!」
カレンと呼ばれた女の子は、倒れる母を見ながら涙を溢れさせた。
サンドラはそのまま床へ落ちて……意識を失った。シリルはその姿を鼻で笑ってから、コランとアーロンを睨みつけた。
「お前ら二人は俺と一緒についてこい。この部屋の中にある金目のものをかき集めるんだ」
「へい、早速!」
「ダウルとデイブは、ここで女二人を見張っていろ」
「へい!」
そう言うと、シリルは鍵束を持って部屋へと入って行った。
その時、カーティスの家から火の手があがった。
サンドラが作りかけていた揚げ物の油がそのまま火を吹いたのである。
ダウルとデイブは焦った。
「おいおい、なんで火の手があがってんだよ!」
「知らねえよそんなこと!」
「この寝ている女が油かなんか使ってたんだろ! まったく、目立たないように仕事をしようと思っているのに、火なんか上げてどうすんだっ!」
ダウルとデイブは焦っていたが、今さら消しにいくこともできない。
「しょうがねえ……こうなったらほっとくしかねえぜ」
「ああ、シリルさんが出てきたら、とっととずらかろうぜ」
「ああ、俺も村長の家の方へ行っておけば良かったなあ」
「あっちにも娘がいただろう?」
「ああ、若い娘がいるって話だったな……だが、あっちはあっちで、難しいぜ」
「フォルトさんもタッカーさんも怖いからなあ」
そう言いながらダウルは、腹立ちを沈めるためにサンドラの尻を蹴飛ばしたのだった。
◆
グレンとガイは、村に唯一ある酒場や市へ顔を出して、……良い女がいないか物色していた。
「チッ、しけていやがる!」
「こんな時間から女が酒場にいるわけないだろ」
他のメンバーは押し込み強盗だから派手にやっているが、この二人は女探しだから、良い女が見つかるまでは、揉め事は避けたいのだった。良い女が見つからないうちに変な所で足止めをくらって、時間を取られてはメスラーに怒られてしまう。
「どっかに良い女はいねえのかよ……」
「雪国の女は美人が多いって聞くが、なかなかいねえもんだな……」
「どこか適当な家に押し入って、縛り上げるか」
そんな話をしていると、ガイはふと、宿の2階に美しい娘がいることに気がついた。
「おいグレン。あの宿の……2階の窓を見て見ろよ」
グレンが目を凝らしてみると、確かに小柄な若い娘が窓辺に立っているのが見えた。それは少し幼い感じの小柄な少女だった。
「……上玉じゃねえか」
「ちょっと気が強そうだが、男2人で押さえつけりゃあ、なんとかなるだろ」
「ああ。俺は腕力にゃあ自信があるんだ。まかせておけ」
「おう、よろしく頼むぜ? ……しつこく抵抗するなら殴ってやればすぐに大人しくなるさ……」
そう言って、グレンとガイは建物の扉を開けた。
この女が何者かも知らずに……。