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第69話 敵か味方か


控室の騒動があったその日の晩。


ロイドほか、ジョーを仇に思う遺族たちは、リール領主が宿泊する部屋へと集合し、どうしたものか、秘密裡に意見をぶつけあっていた。


「なぜ、バクスター伯爵家はあんな盗賊をかばったりしているのだ」


「私の兄があいつに殺され、ついこの間葬式が終わったばかりだというのに、奴に褒賞をくれてやるとは、我らの神経を逆撫でするつもりなのか!」


「対応次第によっては、こちらにも考えがある!」


このように、お互いの怒りや不満をぶちまけて、やりどころのない怒りを発散させていた。


多くの遺族は、色々と思う所はあるものの王家のすることだからと諦めているところもある。しかし、一部の遺族はそうではなかった。それは、愛する息子や実の兄弟、婚約者を失った者たちである。


「もし、王家が処分しなかったとしても、私は個人的に奴へ報復する! 大事な跡取り息子を殺された親の気持ちなど、若僧にはわからんだろうからな!」


ある貴族などは、こんな物騒なことを口にし出していた。


しかし、そんな彼らに対して、安易に許してやれとは言えないのである。


悲しみに暮れている彼らに向かって、国益を説いたり、ジョーの功績について語り聞かせたところで、彼らを納得させることは不可能であり、逆に火に油を注ぐようなものなのだった。


そこで、一人の女が声をあげた。


「私に良い考えがあります」


そういうと、全員が彼女の方を向いた。


「お前は……」


彼女は全員の方へ目を向けて、力強く言った。


「私があの男を殺しましょう」


そう言って、その女は鋭い視線を皆へ向けた。


「彼女なら……」


「出来るかもしれんな」


遺族たちは頷きあって、その提案について詳しく話すよう即した。


「殺すのは、すぐでなければなりませぬ。王家の決定が下りたら、もう、それに従わなければならないでしょう。その前に殺してしまうのです」


殺すという単語を聞いて、皆の目が怪しく光る。


「その段取りはもうつけています。ただ、皆さんに少しお手伝いして頂きたいのです」


その女がそう言うと、これまで部屋の端っこで静かに聞いていた1人の少女が声をあげた。


「ダメよ!そんなこと!」


その言葉に、遺族たちは一斉にその少女を見た。


「なんだと!」


「お前、本気で言ってるのか!」


その少女は、大声をあげた。


「みんなもっと冷静になって!」


「これが冷静でいられるか!」


少女は立ち上がって、大きな声を出した。


「怒りにかられては冷静な判断はできないわ! それに、あなたたちが殺人をするというなら、やってることはジョーとかいう男のすることと同じじゃない!」


「同じなわけあるか! 俺たちは復讐をするんだぞ!」


「お前はジョーの肩入れをするつもりか!」


話し合いといいながら、答えは最初から用意されていたかのような茶番劇。少女は部屋中の遺族たちから責め立てられる。


これには少女もたまらず、部屋の扉まで逃げていく。


「とにかく、皆さんは冷静になってください。どんな行動をしようしているのかわかりませんが、お願いですから一晩、ゆっくり眠ってから、もう一度考え直してください。いいですね? 軽はずみなことをしてはいけませんよ? 私はいいましたからね?」


少女はそう言うと、扉を開けて部屋の外へ出て行った。


その後、部屋の中でどんな話し合いをされたのか、わからない。


エルザやセラスの知らない所で、何かが動き出そうとしていた。





その頃、エルザは部屋でおいおいと泣いていた。


こんな城の中に囚われてしまって、扉の前で見張りまで張り付いていたら、すぐに見つかって騒ぎになるだろう。……まず逃げられっこない。


ましてやジョーは、とてもじゃないが戦える状態ではない。いくらエルザが強くても、そんなジョーを抱えてこの王城から逃げ出すことなど不可能に近い話なのである。


「もう泣くなエルザ」


なかなか泣き止まないエルザに、ジョーはたまらず声をかけた。


「もともとは、俺が蒔いた種だ。俺がこれまで行って来た人生の結果なんだ。殺人をしたくなければ、皿洗いでも荷物運びでも、なんでもすれば良かったのだ。だが、俺はそれをせず、戦いに明け暮れた。これは、俺の選択の結果なんだ」


ジョーはそう言ってエルザを慰めるが、そんな言葉でエルザが納得するはずはなかった。


「でも、私はあなたをさんざん戦わせた挙句、捕縛の手助けをしたようなものなのよ? 私ってなんて馬鹿なのかしら? ……このままではあなたを死なせてしまうことになるわ!」


エルザは頭を抱えてしまった。


「いいんだエルザ……あまり俺を庇うな。お前はセラス様について騎士になるといい。俺はな……毎夜夢の中で、昔殺した敵たちが俺を責める声を聞いて考えたんだ。俺の人生は、業が深い……。ここで終わらせるのもいいだろう」


ジョーは悟ったように言うが、エルザは眉尻をキッと吊り上げて大きな声を出した。


「馬鹿なこと言っちゃ駄目!」


エルザはへの字に口を結んでジョーを睨みつけた。そして、少し考えるそぶりをしたが、何もいい考えなど浮かぶはずもなかった。


「最後まで、諦めちゃ駄目よ。考えなきゃ……」


ジョーはベッドから身を起こしてエルザを見た。


「エルザ……どのみち、今の弱った俺では、危機を振り払う力はない。……最後だから言うが、俺はこのメラーズ討伐の数日間がとても楽しかった。エルザ、お前がそばにいたからだと思う。……俺は恋をした事がないからわからなかったが、きっとこれがそうなのだろう」


エルザはバッと顔を上げてジョーを見た。


エルザが呆然とする中、ジョーは言った。


「俺はお前の事が好きだ」


ジョーは穏やかな顔をしながら言った。


エルザは目を大きく見開いて、ジョーを見ていた。


「お前が俺を騙してここへ連れて来たとは思ってはいない。だから、俺のトラブルに巻き込まれるな。……お前はちゃんと褒賞をもらって、騎士として幸せに生きろ。俺は、最後にお前と一緒に戦えたことで満足だ」


そんな言葉を聞いて、エルザは自然と涙を流していた。


「私は無力だ……」


そう言いながら、エルザは立ったまま泣いた。そんなエルザをジョーは静かに眺めていた。




その時である。




コンコン……コンコン。




不意に部屋の扉がノックされた。


2人は顔を見合わせた。


「こんな時間に一体誰が?」


エルザは涙を袖でぬぐうと、扉の方へそっと向かった。


耳を澄ましてみたが、外は静かだ。



「確か見張りが2人いるはずなのに」



エルザはそんなことを考えながら、そっと、扉を開けた。


扉の外には、なぜか見張りはいなかった。



「見張りがいない……どうして?」



ふと、床に何かあると思って目を向けると、そこにはエルザの剣・剛鉄と、ジョーの斧かニ挺置いてあった。


エルザは驚きのあまり声をあげそうになったが、口に手を当てて、その言葉を無理矢理飲み込んだ。


そして、剛鉄の上には小さな紙切れが一枚乗っていて、そこにはこう書かれていた。



「部屋の暖炉の回りをよく調べて」……と。



エルザはあたりを見回したが、誰の姿も見えなかった。


エルザはとりあえず、剛鉄と斧を回収して部屋の扉を閉めた。


エルザの様子を不審に思ったジョーは、起き上がってベッドから出てきた。


「どうしたんだ」


ジョーの言葉にエルザは振り向き、手に持っている剣と斧をチラリと見せた。


「一体誰がその武器を持ちだしたのだ?」


エルザは首を振って、ジョーを見た。


「わからないわ……でも、変な手紙が置いてあったの」


そうい言いながら、エルザはジョーへ紙切れを手渡した。


「部屋の暖炉の回りをよく調べて?……」


そういうと、ジョーはヨロヨロと、暖炉の方へと歩いていった。


そして、ジョーは、暖炉の外から中まで色々調べていく。そして、暖炉の手前側にある1枚の石に目を付けると、指で押したり爪で引っかけたりしながら調べ始めた。


エルザはそこに何か隠されているのか、心臓を大きく鳴らしながらその様子を見守っていた。


しばらくして、ジョーがエルザの方を向いて言った。


「……エルザ、その辺にフォークか何かないか?」


エルザは周囲を見渡すと、お茶会用のフォークが数本あるのが目に入った。エルザはそれを数本手に取ると、ジョーの元へ歩いて行って手渡した。


「すまん……」


ジョーは、そのフォークを受け取ると、石の板と床の隙間に突き刺し、石に引っかけて力一杯引っ張り上げた。


すると、その石板はズズズ……という音を立てて上へあがってきた。


「何? 中に何かあるの?」


エルザは持ちあがった石板を両手で掴んで持ち上げるのを手伝った。そして、完全に板が持ちあがった時、その板の下から地下へと続く階段が現れたのである。


エルザは驚いてその階段を眺め、それからジョーを見た。


ジョーはエルザを見た。


「これは秘密通路だ」


エルザの目は、零れ落ちそうなほど大きく見開かれていた。そして、今一度、この地下へ続く通路を見た。


「この剣を置いていった人たちは……どういう意図でこの秘密通路の場所を教えたのかしら?」


「わからん……。俺たちを助けようと思ってのことか、罠なのか。どちらかということだ」


「罠の可能性ってある? 武器まで取り返してくれているのよ?」


「なんとなくだ……こんな秘密通路のある部屋など、王城にいくつもあるわけがない。この部屋に俺たちをセッティングした奴が、最初からなにか企んでいたと考えられなくもない」


エルザは、罠の可能性もあるのかと、身を固くした。


「だが、俺たちにはこの通路は必要ない。お前はただ、明日を迎えればいいだけのことだ」


ジョーはそう言って、石板を塞ごうとしたが、エルザはそれを止めた。


「ジョー。あなた、私のこと、何もわかっちゃいないわ。……私はあなたが殺される姿を見てまで、騎士になりたいとは思わない。 そんなことになったら、私は幸せになるどころか、一生悔いて生きなければならなくなるわ。そんな人生は御免よ」


エルザはジョーの方を向いて言った。


「……ジョー。ここがたとえ罠だったとしても、ここを行くしかない。あなたも体が辛いだろうけど、王城の廊下を駆け抜けるよりマシだと思うわ。少し、力を振り絞って、城の外まで歩いて頂戴。私のことを想っているなら出来るでしょ?」


そう言ってエルザはニヤリと笑った。

ジョーもつられて笑ってしまった。


「……これは、頑張らないと仕方がないな」


ジョーは立ち上がった。


「出来るだけ、足手纏いにならないよう、頑張るとしよう」


そう言って、棚に置いてあったランタンを手に取ると、2人は階段を降りていったのである。




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