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第63話 魔法剣士



ドガンッ!という大きな音とともに、閉められていたはずの扉が破壊され、2人の戦士が部屋へ飛び込んで来た。


ライオスは、彼らが一体何のつもりで飛び込んで来たのか理解できなかった。


施設側の兵士は20人からいる。しかも、我ら切風5人衆までいるのだ。たった2人で飛び込んでくるなど自殺行為でしかない。この場にいた誰もが、みんなそう思っていた。


まさか敗北するとは思っても見なかっただろう。


多少、腕の立つ相手なのかもしれないが、すぐに斬られて床に転がることになる。


みんなそう、思っていた。


ところが、蓋を開けてみればどうだ。


白銀の戦士が部屋を駆けていくだけで、その行手を遮っていた兵士はあっという間に斬り伏せられ、血を吹きながら倒れてしまった。兵たちは、白銀の戦士の、駆け足を緩めることすらできなかったのである。


慌てたのはライオスである。


「こいつ、一体何者?」


慌てて剣に魔力を込めて、斬撃を放った。


「くらえ! 風魔法、鎌鼬!」


ライオスが剣を振るうと、斬撃が飛んだ。


だが、その斬撃を、白銀の戦士は斧を横向きにして楯として受け、そのままライオスに突進してきたのである。


「何!」


ライオスが大人の身長ほどもある大剣を構えなおす頃には、白銀の戦士はライオスに斬りかかっていた。


ガキン!


ライオスは、ジョーの攻撃を受けた。だが、白銀の戦士は斧を2挺使っている。


ライオスの大剣では完全に間に合っていない。


振り回したもう一つの斧がザクリと右上腕に突き刺さり、ライオスは思わずうめき声をあげる。


「ううううっ!」


そして、ライオスが顔を上げた時にはもう、白銀の戦士の斧は額の前に迫っていた。


「ライオス!」


仲間が集まってきたが、今1歩遅かった。白銀の戦士はライオスの頭蓋をカチ割り、中から血しぶきがあがっていた。ライオスはそのまま棒立ちになっていた……おそらくもう事切れていることだろう。


その事実を理解した3人の仲間……ケビン、ユーリ、ベルクは激怒していた。


そして、真ん中に立っているベルクはおのれの纏う鎧に魔力を込め始めた。その鎧は真っ赤に燃えはじめ、猛烈な熱を帯びているのがわかった。そして、その赤は、ベルク自身が白銀の戦士へ向ける怒りの象徴のように見えたのだった。


「おのれ、よくもライオスを!」


3人は白銀の戦士を三方向から囲むと、一斉に攻撃を開始した。


「風魔法、鎌鼬! 三連爪!」


そういうと、3方向から合計9枚の風刃を放ってきた。


鎌鼬は、肉を切り裂く遠距離攻撃。それが3連で、しかも三方向からである。さすがにこれを避ける術はないはずだ。


だが、白銀の戦士は、斬撃が放たれる直前にユーりの方へ向かって飛んで走り、ユーリの斬撃だけを斧で受け、他の斬撃は躱したのである。


そして、白銀の戦士はユーリの元へ瞬時に間合いを詰めると、左右の斧で連撃を加えた。


「ひぃっ!」


ユーリは一撃目を躱しきれず、思わず剣で受けたが、その重さはこれまでにない衝撃だった。それが片手での攻撃なのである。ユーリは一瞬で死地に立っていることを悟った。


ユーリが女だろうと、白銀の戦士には関係ない。2撃目が胴へと飛んでくる。ユーリは、腕をひねってなんとか剣で斧を受けたが、それは体を剣の腹で防御したという程度のもので、ユーリの体は大きく体勢を崩してしまった。


そして、3撃目にしてユーリは白銀の戦士に首を狩られてしまったのだった。


「ユーリ!」


ケビンは叫んだ。


「おのれ!」


ケビンは鎌鼬三連爪を放った。だが、白銀の戦士は斧で防御する。


そこへ、ベルクが高熱を纏った鎧で白銀の戦士へと突進していく。


「ベルクっ!」


ケビンは鎌鼬三連爪を連発させて、ベルクを援護した。


ベルクの鎧はかなりの熱を持っており、その温度は約1500度。鉄をも溶かす温度である。


そんなベルクとの接近戦は自殺行為に等しい。なぜなら、触れてもいけないし、攻撃を受けられてもいけない。武器は溶けるか折れるし、抱きつかれでもしたら、それだけで焼け死ぬのである。


「俺は天然の炎使いだからな。こんな芸当が出来るのだ! 覚悟して死を受け入れろ!」


そういうと、ベルクは剣を振りかざしながら、白銀の戦士へと突進していく。


「ほう、接近戦がお好みか?」


そういうと、左手の、斧の握りを逆手に変え、拳を眼前で構えた。


「うおおおお!」


叫び声を上げながら、白銀の戦士へと迫る。


白銀の戦士は、ベルクがふりかざす右手を斧で払うと、その胸元へと拳を叩き込んだ。すると、左手の小手に仕込まれた、太さ4センチほどの杭が射出され、ベルクの心臓へ深々と突き刺さった。


「ガハッ!」


ベルクは目を大きく見開き、口から血を吐き出した。


白銀の戦士は、逆手に持っていた斧を握り直し、ベルクの右腕を上腕から切断した。


「ぎゃああっ!」


そして、白銀の戦士は杭を抜いた。そして、落ちていたベルクの右腕を拾うと、それを手に持ったまま、ケビンの元へと走ったのである。


ケビンは鎌鼬三連爪を連発するが、なぜだか白銀の戦士は届かない。


それは、白銀の戦士が1500度にもなる熱源を持ちながら走っているので、空気の流れが変わっているからだ。


「魔法といっても、自然の法則から外れることはないようだな」


白銀の戦士はそういうと、ベルクの腕を剣のように振り回し、ケビンの小手を焼いて、剣を落とさせると、その美しい顔へと腕を押し付けていった。


ジュウウウ……と肉の焼ける音がする。


「ぎゃああああ!」


ケビンは痛みとの絶望ともとれる悲鳴を上げながら、暴れまわった。


ジョーは、ケビンの剣を拾うと、ケビンめがけて投げつけた。


それはビュンと飛んで胸元へと刺さり、ケビンはビクンと激しく痙攣すると動かなくなった。


「終わったか……」


白銀の戦士は、ひとつ、そうつぶやいた。





戦闘が終わって、エルザがジョーの方を見てみると、どうやらあちらも戦闘が終わっているようだった。戦闘を見ていた残り3名の一般兵は、両手をあげて降参し、震える足を抑えることが出来ないようだった。


ジョーはその3名の兵士を使って、隊長のバズを縛り上げ、その後、彼らをジョーが拘束した。


エルザはアルマの方へ目を向けるとと、すでにシンディがそばに寄り添って介抱を始めていた。

タミル族の女性も駆け寄って来ていて、救出のために怪我したアルマの治療に力を注いでいた。


「エルザ! アルマが意識を取り戻したよ!」


そう呼ばれて、エルザはアルマの元へと走った。


「アルマ! 大丈夫?」


エルザがそう呼びかけると、アルマはエルザの目を見つけながら涙を一杯にためて、嗚咽し始めた。

エルザは泣きじゃくるアルマの髪をそっと撫でた。


「アルマ……遅くなってごめんね」


すると、アルマは大声で泣き始めた。


「違うの! 違うのよ!……私、彼女たちを助けようと思ったけど! 逆に私のせいで鞭で傷付けられて!……ごめんなさい! 私、役立たずで! 迷惑ばかりかけて!」


そういうと、おいおいと泣き出して、その後は何を言ってるのか、言葉になってなくてわからなかった。


「何を言ってるのよアルマ! タミル族の女の子はなぜ、あなたの元に集まって治癒魔法をかけていると思っているの? あなたが助けに来てくれて感謝しているからでしょう? あなたは良くやったわ。……それよりも生きていてくれてよかった。間に合わなかったら、どうしようって、そればっかり考えていたんだから」


そう言うと、エルザはアルマの髪を撫でていった。


アルマはエルザの腕の中で、しばらくの間、泣き止むことはなかった。





しばらくして、ジョーが施設の所長や奴隷商人、ベッキオたち数名を連れて来た。


おそらくこれでほぼ全員。ノイマン所長の証言が正しければ、取り逃がしは1人もいないようである。


アルマやノイマンが語った所によると、この施設から西へ2キロほど行ったところにあるオムニ村というところで、軍関係者が駐屯しているのだという。


「結局、帝国はメラーズと呼応して、王国へ戦争をしかけるつもりだったのね」


エルザはため息をついた。


「そして、そのための治療施設として、タミル族の女が集められたってことかしら?」


ノイマンはストーンバレットで撃たれた傷口の痛みに顔をしかめながら、エルザの尋問を受けていた。


「そのとおりだ……。だからこんなに警備が少ないんだ。人員も大したものはいない。見張り役や護衛、コックくらいなもんだ。……メインの軍関係者は、オムニ村へ集結している」


「それで、明日、皇太子が駐屯地に来るというのは確かなの?」


「ああ、間違いない……。だが、あくまでも俺たちが聞かされている予定の話だからな……いつ変更があってもおかしくない。多少は早くなったり、遅くなったりすることもありうる」


エルザは顎に指をあてて考えた。


「うーん……」


そして、ジョーの顔を見て、にっこりと笑った。


「いいこと思いついた!」


その顔を見て、ジョーは露骨に嫌そうな顔をした。


「いいことを思いついたという奴から聞いた話が、いい話だったことは一度もないんだが」


ジョーがそう言うと、エルザは笑った。


「まあ聞いてよ」


そういうと、エルザは自分の考えを話しはじめるのだった。





メラーズ領へ到着したジェームズは、森の茂みの中から、王国の騎士に取り囲まれているメラーズ邸を見て、腰を抜かさんばかりに驚いていた。


「一体、何がどうなったらこんなことが起きるのだ」


ジェームズが歯噛みしながら、地面をドンドンと強く踏みつけた。屋敷の2階を見ると、爆発したように崩れた壁が見えた。王国の騎士が、メラーズの使用人や騎士たちに接する態度を見る限り、敵対している様子はない。……つまり、何等かの方法によってベルメージュが倒され、王都の騎士たちに制圧されたとしか考えられない状況である。


しばらくして、ジェームズの元へ一人の男が近寄って来た。"鳥"である。


「ジェームズ様」


「何かわかったか?」


ジェームズは食いつくように"鳥"の方を見た。すると、"鳥"はジェームズの方をジッと見て、絞り出すように言った。


「ベルメージュ様が討ち取られたそうでございます」


それを聞いたジェームズは、目を閉じて下を向いた。ジェームズは、数秒の間、下を向いたままジッとしていたが、やがてキッと顔を上げて、屋敷の方を睨みつけた。


「どんな最期だったか聞いているか?」


ジェームズは屋敷の方を睨んだまま"鳥"に聞いた。


「赤い髪の女と両手に斧を持った男が、ベルメージュ様のお部屋を爆破させ、弱った所を切り刻んだそうです」


「赤い髪の女だと? あのゴントの女か! それと斧使いだって? まさかジョーじゃないだろうな! そいつらがベルメージュ様を切り刻んだって?……そんな馬鹿な! 本当に信じられん…………それとも、私自身がベルメージュの死を受け入れられていないのか?」


ジェームズは、唇を強く噛んで、血を滲ませていた。だが、何か決心したようにうなずくと、"鳥"に向かって声を掛けた。


「ひとつ使いに行って欲しい。この町外れにあるデスモン教の教会に、モーリスという男が住んでいる。この男にな、今すぐウインザー帝国との国境付近にある"ヴィクターの樹"へ武装して来るように伝えてくれ。目立たぬようこっそり来るようにとな……」


ジェームズは、そう言うと金貨6枚を"鳥"に握らせて言った。


「……南部の町ブラストへ行って、魔道具店のカミルへ、プラン3の検討に入れと伝えてくれ」


"鳥"は握り締めた指の間に光る金貨の、ひんやりとした感覚を味わいながら、ジェームズの顔を見た。


「いいんですかい? こんなに頂いて」


「ああ。取っておけ。……この2つの伝令が済んだら、しばらくリールの街にでも潜んでいろ。ここの騒動が落ち着いたらまた仕事をやる」


ジェームズがそう言うと、"鳥"は頷いて言った。


「へい、わかりやした。で、旦那はどうなさるんで?」


「私か? ……私はこれからあの屋敷へ潜入する」


「潜入するんですかい?」


"鳥"が心配して聞いて来るが、ジェームズは難しい顔をして頷いていた。


「当たり前だ。こっちのことはいいから、お前はさっさとモーリスの所へ行ってこい」


ジェームズに睨まれて、"鳥"は首をすぼめて後ずさった。そして、一度だけ振り向いてジェームズに言った。


「旦那……ご無理なされないように」


「ああ、お前もな。来週くらいにはいつもの酒場へつなぎを付けるから、連絡を取れるようにしておけ」


「へい旦那」


そういうと、"鳥"は森の中へと消えた。


"鳥"を見送ったジェームズは、懐から小型のナイフを取り出した。そして、口ひげを水筒の水で濡らすと、その、取り出したナイフで慎重に剃っていった。多少、雑ではあったが、粗方ひげを剃り終えると、ジェームズは剣や上着など草むらの茂みへ隠して、ゆっくりと屋敷へと歩いていった。


その歩く先には、一人の使用人がゴミ捨て作業をしている。……そのあたりは、かつて知ったるメラーズ屋敷である。ジェームズはその使用人を殴り飛ばして、衣服を奪うつもりなのだった。





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