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第60話 タミル族収容施設


「何者だ!小娘!」


ベッキオが叫ぶ。


ベッキオの大声を聞いて、ノイマンはベッキオの顔面を殴り倒す。


「あ痛っ!」


「馬鹿野郎! 後をつけられたんだろ! 貴様!」


ベッキオは殴られた頬をさすりながら、上目遣いにアルマを見た。


「その通りよ。あなたたち、なかなか尻尾をつかませないから見つけ出すのに苦労したわ」


そういうと、アルマは緊張気味に笑う。胸は早鐘のように打ち、額に冷たい汗が流れていった。


「私、あなたみたいな奴隷商が大嫌いなの。この首の跡を見て。昔、馬車で襲われて奴隷にされたのよ。この後たっぷりと仕返しをしてあげるわ」


「それは俺じゃねえ! 別の奴がやったことだろ? 小娘! てめえのことなんざ知るか!」


そうベッキオが吠えた時、アルマの拳銃から銃弾が飛び、ベッキオの尻に突き刺さった。


「ぐぎゃああ!」


「騒ぐとその汚ない尻の穴が3つに増えることになるわよ」


「わかった、助けてくれ! 俺が悪かった!」


ベッキオはそういうと、おとなしく床に座った。


「さて、所長さん、面白いことを言ってたわね。この近くの駐屯地があるとか」


「知らないな、そんなことは……うがあっ!」


アルマの拳銃から石弾が発射され、ノイマンの尻に穴を空けた。


「うがあああ……」


「痛いでしょ? でもね、私たちの恨みなんてこんなものじゃないわ」


そういうと、アルマはノイマンの両腕を撃った。


「ぎゃあああ!」


ノイマンは、石弾の痛みでのたうち回っていた。


「わかった……言うよ……言うから撃たないでくれ!」


「駐屯地のあるオムニ村とはどこにあるの? それからどれくらいの規模の兵がいるのかしら?」


アルマが銃口を向けながら聞くと、ノイマンが冷や汗を流しながら話はじめた。


「オムニ村は、ここから西へ2キロほど行ったところにある……。すでに軍関係者が5000人は集まっているはずだ……」


「5000人? もう戦争を始めるつもりなの?」


「今はそのつもりなのだろう。……だが、この男が言ってたとおり、魔女の死亡が本当なら、作戦は密かに中止になるだろうな……」


「なるほどね……で、皇太子はいつ駐屯地に来るの?」


そういいながら、アルマは銃口をノイマンへ向けた。


「それをこっちに向けるのをやめてくれ! 皇太子が来るのは明日だ……だがあくまで予定であって、明日必ずくるとは限らん。変更になっても、俺たち末端にまで知らせがくるわけではないからな」


アルマは、それを聞いて、一応エルザたちへ報告しなければならないと思った。


アルマはノイマンに聞いた。


「それじゃ、次の質問よ。タミル族のみんなはどこで監禁されてるの?」


アルマはノイマンに銃口を向けながら話かける。

所長は青ざめながら、銃口を見つめた。


「お前たち、タミル族の関係者か?……」


「無駄口を叩いていないで答えなさい」


アルマはノイマンに銃口を向けながら話を即した。


「タミル族は、この施設の……」


ノイマンが話始めようとしたその時、男が3人入って来た。その姿恰好からして、施設内の警備兵である。


「失礼します」


3人が部屋の扉を開けた時、アルマの視線が扉へ向いた。その時ノイマンは叫んだ。


「賊が侵入した! 急いで防戦体制をとれえっ!」


「えっ!賊、あっ!」


アルマの存在に気付いた3人は、ノイマンの言葉に反応して即座に扉の外へと後退しようとした。それにアルマも二丁拳銃で銃撃していく。


ブシュ!ブシュ!ブシュ!


「ぐああ!」


1人、当たった。だが、後の二人はそのまま部屋の外へ逃げた。


アルマは廊下へと飛び出し、逃げる兵士の背中に銃弾を撃ち込んでいったが、残念ながら当たることはなかった。


仲間を呼ぶくらいならまだいいが、駐屯地へ走られたらやっかいだ。


その隙に、ノイマンは非常ベルを鳴らしていた。

館内に大きなベルが鳴り響く。


「しまった!」


「もうすぐ助っ人がくる。おまえもおしまいだ!」


そういう、ノイマンに向けて、アルマは銃を構えた。


アルマはしばらく銃口越しにノイマンをにらみつけていたが、やがてノイマンの肩を打ち抜くと、エイミーを連れて部屋の外へと出て行った。


アルマの姿が見えなくなると、ノイマンはせせら笑った。


「なんだ、人を殺せないのか? とんだ甘ちゃんだな」


ノイマンはそういうと、机にしがみつきながら立ち上って、伝声管の蓋を開けた。


「全員よく聞け! 賊が侵入した! 女2人、狙いはタミル族たちだ! 至急、奴らの大部屋へと向かえ! 隠ぺいの魔道具を持っているのか姿は見えない。景色にゆらぎや風の動き、においなどに注意しろ! それからこの女は人を殺せない! 以上だ」


ノイマンは、それから少し考えて、再度、伝声管へ声を送った。


「ケビン! 誰かケビンに伝えろ! ブラックウルフ対策の匂い玉があっただろう。それを持って女を追え! タミル族と接触したら、必ず姿を現すチャンスがあるはずだ。匂い玉を女にぶつけるんだ!」


そういうと、 伝声管の蓋を閉めた。


「このまま外へ逃げられるのが一番厄介なんだが、タミル族という明確な目的があるなら話は別だ。あの甘ちゃんのことだ。必ずタミル族のもとへと向かうはず。そこで一網打尽にしてやろう」


ノイマンは、急に襲い来る激しい痛みに、顔をゆがめた。


「くっ! それにしてもえらくたくさん銃弾を撃ち込んでくれたな……後でお仕置きしてやる。……とにかく隠ぺいスキル持ちの女が確保できるとなれば、なかなかの儲けもの。撃たれた体は痛いが、後でタミル族の女に治療させよう」


そういうと、ノイマンはニヤリと笑いながら、苦痛で顔を歪めたのだった。






警備担当の責任者のバズは、ノイマンの指令を受けて、部下に一通り指示を回すと、屋敷の中を歩き出した。


バズは隊長と呼ばれるだけあって、いかにも強そうである。


身長は175センチくらいなのだが、手足は太く胴回りも大きいので、見た目よりも大きく見える。


故郷では大熊のバズと呼ばれていたらしく、その名の通り、毛深く、丸い大きな体をしていた。そして、その名に恥じぬほどの怪力も備えているのだった。


ノイマン所長の話では、賊は女2人。しかも、人を殺せないのだという。


隠ぺいの魔法が使えるので、こちらからでは位置が特定できないのだが、どうやらタミル族の大部屋へ向かっているそうである。


「バズ隊長……賊は、本当に人が殺せないんですかね?」


部下が半信半疑で聞いてくる。


「そんなの知るかよ……殺せないって、そんな保証、どこにあるってんだ。とにかく敵と戦う時は全力でやれ。女だからって油断したら死ぬぞ」


「わかりました」


「隠ぺい魔法使いはな、急に現れて背後から攻撃したりするからな。回りを良く見て、景色のゆらぎや風の動き……人の息遣いや体温とかな……そんな違和感を感じたら見逃すなよ」


「はい」


「とりあえず、タミル族の大部屋へ急ごう」


そう言いながら、バズは1人の兵士伴って歩いていく。


(所長も無茶いいやがる。普通、隠ぺい魔法持ちなんて、暗殺者レベルの相手だぜ? 普通は、一般兵に相手させるレベルの話じゃないんだがな)


バズは心の中でブツブツと文句を言いながら、無頓着に歩いていく。


(まあ、俺たちなら上手くやれるがな。さてと……うまく罠にはまってくれるといいんだが……)


そう言いながら、地下への階段を下っていく。


階段を下りきったあたりで、若い兵士たちが集まってきた。


「賊はどうだ? 何か手がかりは見つかったか?」


「いえ……今の所なにも」


「まあ、そうだろうな……だが警戒を怠るなよ? なにせ相手は隠ぺい魔法を使うんだからな」


「はいっ」


そう言うと、若い兵士は立ち去って行った。


「さてと……」


バズは、タミル族のいる大部屋へと向かって歩いていく。


バズの目的は隠ぺい使いの誘導……。本当は、偽の部屋へ誘導しても良かったのだが、隠ぺい使いは逃がすともう捕まえようがない。


(ちゃんとした餌じゃなきゃ、逃がすかもしれねえからな……)


バスはそんなことを考えながら、無頓着に歩いていく。


そして、ひとつの大部屋の前に立つと、ポケットから鍵を取り出し、大きな木製の扉を開けた。


その部屋の中には、傷付いた兵士が数名、ベッドの上で横たわっていた。


そして、傷付いた兵士のそばには、治療にあたっているタミル族女性の姿があった。タミル族で治癒能力が使えるのは、女性だけなので、監視しているのも女性兵士だった。


バズが部屋に入って来ると、その女性兵士は、金髪を揺らしながら駆け寄ってきた。


昔からの仲間、ユーリである。大きな青い瞳と可憐な唇だけ見ると、か弱い女性にしか見えないが、実際は戦場で大将首を駆りまくる、「首狩りユーリ」という二つ名を持つ剣士なのである。


「隊長、お疲れ様です」


「ご苦労だな……伝声菅から聞こえたと思うが、賊が入ったみたいだ。こちらで何か変わった様子はないか?」


「今の所は……」


「そうか。相手は、隠ぺいの魔法が使えるみたいだ。女2人。1人はタミル族の女だ」


「え、タミル族の? それじゃ、施設に収容されている人たちを救出しようとしているのでしょうか?」


「だろうな……。ただの偵察なら、もう逃げてしまっているかもしれん。だが、もし、タミル族が収容されている部屋まで特定しようとしているのなら……」


バスは、ユーリの耳元に口を寄せて言った。


「この部屋に引き込んで、閉じ込めてしまうぞ」


ユーリは、その言葉を聞いて、ここが戦場と化す可能性を想像してしまう。


「君は、出来るだけ平静を装って、そのままタミル族たちの治療を監視してくれ」


「……わかりました」


ユーリは、普段の優し気な顔から、獰猛な狩人のような顔付きになって、隊長の言葉に頷いてみせた。





アルマは聞いていた。


「とりあえず、タミル族の大部屋へ急ごう」という言葉を。


とりあえず、戦闘能力に乏しい2人という自覚はあったので、一旦戻ってエルザに応援を頼もうと思っていたのだが、そんな言葉を聞いてはどこにあるか気になってしまう。


(この人の後をつけたら、タミル族のいる部屋へ案内してくれるはず……)


アルマはそう思った。


「でもアルマ。大丈夫なの? 警備が厳重だと、2人で助け出すのは難しいわよ?」


「それはわかってる。部屋の場所さえ特定出来ればすぐに逃げよう。そして、後からエルザたちに協力してもらって、救出すればいいよ」


「そうね……わかったわ」


エイミーは不安だったが、タミル族の安否を知りたいという思いが勝った。そして2人は気配を消しながら、兵士の後を追っていった。


兵士たちは、大きな扉を開けて、地下へと入って行った。


アルマとエイミーは、その後を追って地下へと入って行く。


「これは……」


その地下の大きな一室では、タミル族の女性が、傷付いた帝国の兵士へ治癒魔法を施しているのだった。


「タミル族を攫って、ここで病院のようなことをさせていたのね」


エイミーは怒りのような、悲しみのような……そんな感情が入り混じった顔でその光景を見つめていた。


すると、熊のような男が歩いて来て、一人のタミル族の女性に目をつけて、突然怒鳴り出したのである。


「貴様! よくもやってくれたな!」


「えっ!一体私が何を……」


「とぼけるな! 自分の胸に聞いてみろ!」


男はそういうと、その女性の細腕を捻り上げ、引きずり倒した。


「イヤああ!」


その女性は悲鳴を上げでいた。


「どうして? どうしてですか? 望んでもいないのにここへ連れて来られて、逆らわす治癒を続けているというのに!なぜ、こんな仕打ちを!」


「お前らの誰かが仲間を呼び込んだのだろう? タミル族目当ての賊が侵入しているのだ。そのため、お前はここで見せしめに殺すことになった」


「そんな無茶な!」


「うるさい! これは決定事項だ! こっちへ来い!」


「いやああ!」


アルマは青ざめていた。


もしかして、自分たちがここへ侵入したことで、彼女たちに制裁が加えられることになったのだろうか。


(彼女たちは、私たちと何の関係もないのに!)


アルマは内心、声にならない叫び声を上げていた。


ふと、隣を見ると、エイミーが青ざめた顔でその光景を眺めていた。アルマは、今から酷いことをされそうな女性を放置して、立ち去ることなど出来なかった。


「エイミー。今からあなたを屋敷の外まで連れて行くわ。そこで隠れてじっとしていて。私は中へ入ってくる」


それを聞いて、エイミーは悲痛な顔を見せた。


「危ないわアルマ! エルザたちを呼んで来ましょう!」


「だから、あなたを外へ連れて行くのよ。もし私が1時間待っても出てこなかったら、エルザたちの元へと帰って」


「アルマ!」


「大丈夫よ。私は隠ぺいの魔法が使えるんだから、見つかりっこないわ。すぐに戻るから」


アルマはそういうと、エイミーを屋敷の外へと連れて行った。


そして、エイミーを外の草叢へ隠すと、再び屋敷の中へ戻って行ったのである。




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