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第59話 セラスとジョー


真夜中のメラーズ屋敷で発生した大きな爆発音。


それをきっかけに屋敷にいる騎士や警備兵、メイドからコックに至るまで、その轟音をきっかけに大騒ぎとなった。


爆発の発生源へと向かう騎士たちや警備兵たち。逆に逃げ出す使用人たち……。屋敷はそんな人の動きで、夜中にも関わらずあっという間に大混乱となっていた。


騎士や警備兵が爆発現場へ向かうと、そこには拘束されたメラーズ男爵とボーマン伯爵、そして帝国のヴァルト大臣の姿があった。


「あっ! 男爵様! 貴様! 男爵様を離せ!」


1人の騎士がそう叫ぶと、エルザはその男に赤い肉の塊を投げつけた。


その肉塊には、わずかにベルメージュが着用していたと思わしき布切れが、申し訳程度に付着していた。


「こ、これはまさか、ベルメージュ様??」


「聞いて驚け。そのまさかだ」


騎士は驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。


「嘘だっ! ベルメージュ様が死ぬはずがない!」


するとザカがグッと前へ進み出て、大音声で話始めた。


「控えろ者ども! こちらにおられるお方は剣聖・セドリック・バクスター様だ。この度王都でおきた王女暗殺未遂事件の黒幕がこのメラーズ男爵と判明したため、ここに召し捕えた! メラーズ夫人は抵抗したためその場で成敗した。つまり、魔女・ベルメージュは死んだのだ! それでもお前たちは抵抗するか!」


ザカはそう叫ぶと、取り囲む騎士たちがざわつき始めた。そして一人の騎士が声をあげる。


「ぶさけるなよ? それだけの人数で男爵領を制圧出来ると思っているのか!」

「我らが暴れれは、それなりの人数を殺せると思うがやってみるか?」


それを聞いたザカは、さらにずいッと前へ出て、一同を睨んだ。


「王女が殺されかけたのだぞッ! こんな少人数だけで男爵家を制圧しにくるはずがないだろう? ちょっとは頭を使えよ、お前ら! もうリールや周辺の領土から兵が集まって、男爵領を包囲しておるわ!」


ザカの言葉に一同の顔が青ざめる。


「いいか、よく聞け。今、我々に降れば、末端の者まで罪を問うことはあるまい。だが、反抗するなら話は別だ。メラーズ男爵家を中心とした反乱軍として鎮圧させてもらうぞ!」


そう言われてメラーズの騎士たちが窓の外へ目を剥けると、屋敷の向こうに灯りがチラつくのが見えた。セラス部隊が持っている松明の灯りである。兵1人1人が持つ松明の灯りのその数に、驚いた屋敷の兵たちは、競って剣を床へ投げ捨てていた。





「ふう、一体どうなることかと思ったよ」


「セラス様、遅すぎね」


そういいながら、ザカとエルザは顔を見合わせて笑った。


「だが、やり遂げたな!」

「ええ」


そう言いながら、エルザとザカは、固い握手を交わした。


「でもザカ。ルフランのことは、まだまだこれからよ。とりあえず、魔女・ベルメージュによる大量虐殺の脅威がなくなっただけ。あなたたちルフランの民が、幸せに暮らせるようになるまではまだ終わらない」


「ああ、もちろんだ。それに、セラス様の作戦に参加させてもらったから、恩賞も出るらしいからな。全く、単独で動かなくて得したぜ」


そう言うと、ザカは笑った。



「エルザ!」


エルザがザカと話していると、エルザの名前を呼ぶ声がする。エルザが顔を向けると、セラスがこちらへ歩いてくるのが見えた。


「セラス様!」


エルザは、セラスの方へ駆け寄って行く。


「エルザ!……心配したぞ! 君が倒れて、エイミーが治癒魔法をかけ続けるのを見ながら、君の大怪我は本当に癒えるのかとても心配だったが……まさか、戦えるほど復活していたとはな……。驚いたよ!」


「ここ数日、エイミーは私のために随分と治癒魔法を使ってくれました……エイミーに助けられたようなものです」


「私もそうだが、エイミーには助けられてばかりだ。重症の君を置いて王都へ向かうのは心苦しかったが、薬の期日があるから仕方がなかった。許してくれ。……そして、改めて礼を言おう。エルザよ、本当にありがとう」


「いいんですよ、そんなことは……」


エルザは礼を言われ、照れるように顔を伏せた。


「ところで、あの白銀の軽鎧を着ているのが、君が手紙に書いていた協力者か?」


セラスは遠くに立つジョーを見ながらエルザに聞いた。


「はい。凄まじい手練れで、私と彼とでベルメージュを倒しました」


「あのベルメージュを? なんと、そうだったのか!」


「セラス様に紹介させてもらってもいいですか?」


「もちろんだとも。是非、紹介してくれ!」


セラスがそう言うと、エルザは小走りにジョーの元へと走って、セラスの元へと連れ戻って来た。


「セラス様、連れて参りました」


「ああ、君が協力者の……」


「ジョーデンセン……です」


ジョーは少し緊張気味に言った。


「ジョー?」


セラスは、なんとなくどこかで会った気がして、軽く寒気がした。


セラスが見た所、ジョーデンセンは長身で、筋骨逞しく立派な体格をしていた。

黒目黒髪で眉は太く、目は切れ長で男らしい印象を持った。


「育ちが悪いので、貴族と話したこともなく、態度が悪いのは勘弁してくれ」


それを聞いて、セラスはニッコリと笑った。


「国の大事に協力してくれた貴方に、なぜ態度のことをどかめようか。感謝してもしきれないくらいだ」


ジョーは意外だという顔をして、セラスを見た。


「王都へ戻ったら恩賞がでるはずだ。それと、もし嫌ではなかったら、騎士団へ入ることも可能だと思う。これからもエルザと共に、王国の騎士として働いてくれるなら私も嬉しい」


セラスはそう言う時ニッコリと微笑んだ。不意にスカウトされたジョーは目を丸くして驚いていた。


「俺が……騎士に?」


ジョーは驚いた顔をして、エルザを見た。


エルザはものすごい笑顔でジョーを見て、セラスを見た。


「セラス様! それはいい話です! 何よりの褒賞だわ! 良かったわね、是非、騎士団に入りなさいよジョー!」


「こんな育ちの悪い俺に務まるのか?」


「もちろんだとも。ジョーデンセン、君は国を危機から救った英雄なのだぞ? 誰が文句など言うものか」


セラスはそう言うとジョーへ微笑んだ。エルザも嬉しそうに微笑んでいる。


「ジョー……これから新しい人生が始まるわね」


ジョーは、信じられない気持ちで一杯だった。


(俺に、新しい人生が?)


薄暗い道に立つ自分に、明るい光が差したような……ジョーはそんな希望が胸一杯に溢れる気がした。


「セラス様、エルランディ様へ薬は届いたのでしょうか」


「ああ。父がリール近郊まで騎士団を動かして来ていてな、父に薬を託したのだ。父はその薬を自分が管理して、決して誰の手にも渡さず王女の間へと赴き、医師がその薬を飲ませる所まで確認したそうだ。………今の所、エルランディ王女の容態は大幅に改善が見られたようだが、しばらくは絶対安静らしい。……このまま順調に回復へ向かうといいのだがな」


それを聞いて、エルザはホッとしていた。とりあえず、間に合ったみたいだ。

エルザは、エルランディに後遺症が残らないよう心の中で願った。


「セラス様は、王都へは行かれなかったのですか?」


「ああ。私はリールに残ったんだ。早く仲間の遺体を回収したいと思ってな。……魔獣に持っていかれでもしたら、家族は悲しむだろうから。父に少し人員を割いてもらい、三日月湖周辺をくまなく探して、ほぼ全員の遺体を回収することが出来たよ。……ただ、一部見つからない部位もあったがね」


そういうと、セラスは悲しそうな顔をした。


「だが、そのおかげでメラーズ制圧作戦の話を聞いた時には、すぐ駆け付けることが出来たのだから、これで良かったのかもしれん」


そういうと、セラスは笑った。


「はい……我々6人だけでは心もとなかったのですが、セラス様たちの部隊が見えた途端、一気にみんなが白旗を上げましたよ」


「ふふふ、それなら良かった。しかし、よくあのベルメージュを倒すことが出来たな」


「はい……ヴァルハラの町へ行った時、セラス様から紹介してもらった魔道具店の店主、ナイトハルトさんにこのヤタガルの証について話を聞いたので、もしかすると、戦い方もご存じかと思い、聞きに行ったのです」


「ほう、それで、なんとアドバイスされたのだ?」


「はい。まずは魔道具の類は一切使用しないよう言われました。すべての魔法攻撃は魔力として分解され、ベルメージュに吸い取られてしまうらしいのです。なので、徹底的に物理攻撃を加えて弱らせた後、体内から核のようなものを取り出し、これを破壊するようにとのことでした」


「それで、爆薬で吹き飛ばし、剣で斬り刻んだわけか」


「はい。なんとかうまくいって良かったです……切り刻む尻から回復していくので、戦いながら恐ろしい相手だと冷や汗をかきました」


「本当だな……話を聞くだけなら、俄かに信じがたいレベルだ。……だがエルザ。お前の腕にもその力が宿っているのだろう? それを使いたいと思わないのか?」


セラスにそう言われ、エルザは力強くセラスを見つめてきっぱりと言った。


「私は、このような力は嫌いなのです。……このような圧倒的な力を手にすれば、剣が弱くなるだろうし、ベルメージュのように奢り、傲慢になることでしょう。私は今後一切、この力に頼るつもりはありません」


それを聞いて、セラスは少し残念そうな顔をした。


「剣が弱くなるか……お前らしいな。だが、その文様はどうするつもりだ?」


「ナイトハルトさんに、南の果てにあるブラストという町住むオリバーという魔術師を紹介されましたので、今回の事が落ち着いたら、そこへ行って、この文様を消す方法を考えたいと思っています」


「そうか……」


セラスは内心、このヤタガルの力を、王国のものに出来るのではないかと少しだけ期待していた。


エルザはいずれ、エルランディ王女の近衛騎士となる者……


そうなれば、王国に大きな戦力をもたらすことになるからだ。


だが、このエルザの口ぶりからすると、この力を使うつもりはないらしい。セラスは、この件について口をつぐむことを決心する。


「……しかし6人と言ったな?あとの2人はどこにいるんだ?」


「ええ。この屋敷に人身売買を生業とする闇商人が出入りしているようなので、2人にはその確保を頼みました」


「大丈夫なのか? その2人とは一体誰なのだ?」


「アルマとエイミーですよ」


そう言ってエルザは微笑んだ。しかし、セラスは顔を曇らせた。


「エルザよ、今、そこ2人はどこにいるのだ? この屋敷にいるのならいいのだが、もし深追いして敵地へ入っているなら話は別だ。隠ぺいと治癒魔法使いのコンビなど、奴隷商人からすると、ヨダレが出るほど欲しい獲物だからな」


そう聞かされて、エルザは少し顔を青ざめさせ、不安気な表情を見せた。


「ちょっと迂闊だったかもしれません……セラス様。失礼致します。私、今からアルマたちを探して参ります」


「うむ、そうしてくれ」


そういうと、エルザはジョーとともに、急ぎ足で駆けだしていった。





「はぁはぁはぁ……」


闇商人のベッキオは、馬に乗って逃げていた。


「まさか、こんな展開になるなんて……」


ベッキオは信じられなかった。


「まさか、あの魔女・ヴェルメージュが負けるなんて!」


こんな展開を、一体誰が想像しただろうか。


ベッキオは、先の大戦で魔女・ヴェルメージュが暴れまわる様を間近で見ていたのである。


その戦い方はまるで化け物だった。


すべてを焼き尽くす、炎の波……。


誰も勝てるはずがない!


メラーズも、ボーマンも帝国もみんなそう思っていた。

だから、ベッキオもメラーズ側について、帝国軍で必要な、タミル族を必死で集めていたのである。


それが、あっという間に全滅。メラーズもボーマンも、ヴァルト大臣もみんなつかまってしまった。これでは計画どころの話ではなくなってきたのである。


「ひとまず、施設の所長へ連絡しなくては……この状況を聞いたら、帝国軍も、戦争をやめてしまうかもしれん……」


そう思いながら、ベッキオは闇の中を走る。


そして、辿り着いた謎の施設……。ベッキオは馬から降りると、そこの建物の中へ入って行った。ベッキオは、施設に入ると、1階にある所長室へと向かった。


所長室のドアをノックすると、中から入れと声がかかった。


「失礼します」


ベッキオがそう言って中へ入ると、所長のノイマンが嫌そうな顔をしていた。


「一体、何の用だベッキオ」


ノイマンは、何やらもめ事の空気を察して、眉間へ皺を寄せた。


「大変なことが起きました。すぐにここから撤退してください!」


「撤退だと! なぜだ?」


ノイマンは声を荒げた。


「だいたい、明日にはオムニ村の駐屯地に、皇太子殿下をはじめ、将軍たちが来るんだぞ。そんな撤退みたいな話が出来るか馬鹿者!」


全く聞く耳を貸さないノイマンに、ベッキオは両手を振りながら必死で言った。


「聞いてください! 聞いてくださいってば! いいですか! メラーズ男爵家で大変なことが起きたのです。あの、魔女……ベルメージュが死にました」


「なんだと!」


ノイマンは驚愕のあまり、椅子をひっくり返しながら立ち上がっていた。ベッキオは、それ見たことかといった顔をした。


「それだけではありませんよ! 謎の剣士が乱入してメラーズ、ボーマン、そしてヴァルト大臣を拘束してしまいました。さらに王国軍まで現れ、あっという間にメラーズの屋敷を制圧してしまったのです」


その話を聞いて、ノイマンの顔は青ざめていた。


「それは本当なのか! なんてことだ! すぐに駐屯地へと使いをやろう。 万が一皇太子が来られてから、王国軍の奇襲でもあったら最悪じゃないか!」


ノイマンがそう思って部下を呼ぼうとした時、どこからか石礫が飛んで来て、ノイマンとベッキオの両足へと突き刺さった。


「うわああっ!」

「痛いっ!」


ノイマンとベッキオは、その場へ倒れ伏した。


そして、うっすらと姿を現したのは、両手に拳銃を握りしめた女だった。


「動くと命はないわよ!」


そう凄むアルマの姿に、ノイマンとベッキオの額から、冷たい汗が一筋流れ落ちた。





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