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第51話 墜落


アリスの店で治療してもらった後、エルザとシンディは、アリスの店から二つ階を上がった所にある魔道具店へと向かった。


魔道具店はとても狭い店だった。店の両側はすべて棚になっていて、所狭しと色々なものが置いてあった。店の奥にはひげを生やした老人が椅子に座っていて、にこやかにエルザたちを迎えてくれた。


「いらっしゃい。お嬢ちゃんが二人とは珍しい。今日はどういったご用件かな?」


「はじめまして。王都の騎士団長セラス様から伺ってきたのですが……こちらの文様のことでご存知であれば、お伺いしたいのですが……」


エルザはそう言って、腕に描かれた黒い鳥の文様を見せた。すると、店主は目を剥いて驚いていた。


「これは……ヤタガルの証。……一体どうしてこれを?」


エルザは少し落ち込んだように目を伏せてから、店主の方へ顔を向けた。


「ガムランのある納屋で、光る球体を発見したのですが、私の不注意でそれに触ってしまい、気が付くとこの文様が刻まれていたのです」


店主はふむ、とひとつ息を吐くと、エルザの腕を取って文様をよく見た。


「なるほど……。進んでこの力を身に宿したわけではないのだな?」


「もちろんです。身に過ぎた力を手に入れると碌なことがないですから」


「その口ぶりからすると、お前さんはこの文様の持つ力について、およその検討はついているのだな?」


「はい……周囲の魔力を吸って強大な魔法が放てること、その代償として寿命が減らされるということ……くらいの知識ですが」


「おおむねそれで合っとる。それで、お前さんは何を知りたいのだ?」


「この文様を取り除く方法があれば、教えて頂きたいのです」


店主はなんだか感心したようなそぶりを見せ、エルザの顔を見た。


「ほう。強大な力を手に入れたというのに、いらぬというのか?」


「元々望んで手に入れたものではないので……だから、そんなものを利用したいなんて気持ちはこれっぽっちも無いのです。……私って、おかしいかしら?」


それを聞いて、ライトハルトは笑った。


「ははは、そうか。その腰の物を見ると、お前さんは剣士なのだな? 確かに圧倒的な力や便利なものに慣れてしまうと、本来の人としての力が鍛えられんからな」


そういうと、店主は一枚の地図を出した。そして、地図上を指で示しながらエルザへ言った。


「ここがヴァルハラで……ここから南へ下がって、ここが王都じゃな。そこからさらに南へ下がって、南の果て……。ここにブラストという町がある。ここに、オリバーという魔術師がおるから、ヴァルハラのナイトハルトの紹介だと言って訪ねてみなさい。そいつなら、解呪が可能だろう」


それを聞いて、エルザの顔はパッと明るくなった。


「オリバーさんですね? ありがとうございます、ナイトハルトさん。私はエルザっていいます」


それを聞くと、ナイトハルトは微笑んだ。


「エルザというのかい。じゃあ、私の方からも、オリバーへ紹介状を書いておいてあげよう」


「いいんですか? ありがとうございます!」


ナイトハルトはそう言うと、机に座ってペンを取った。オリバー宛の手紙を書きながら、ナイトハルトは言った。


「エルザよ……もしかして、お前は16歳ではないのか?」


するとエルザは吃驚して聞いた。


「どうしてわかったの?」


すると、ナイトハルトは顔を上げて、エルザの方を向いた。


「……ヤタガラスの証には3つの球があってな、一つは劫火の球、もう一つは暴風の球……そして大水の球という……。それから、この球に触れてこの力を身に宿すことが出来る者には条件があって、それは成人直後……つまり、16歳前後の身体にしかなじまない、ということなのだよ。つまり、それより体が幼くても、成熟していてもダメなんだ」


「えー-っ!」


エルザは天を仰いで大声を上げた。


「それじゃ、私は偶々、16歳だったからこの球を宿してしまったってことなの?」


「まぁ……そういうことになるな」


エルザはショックのあまり、頭を抱えてしまった。


「なぜ、そういう仕様になっているのかワシにはわからん。おそらく、未来ある若者が、その力をどう使うか見てみたかったのかもしれん。……何をしでかすかわからんのが若者だからな。それに対して年長者の考えることはたいして面白くはない……金か女か権力か……その程度のものだろうからな」


ナイトハルトの話を聞いてエルザは首を傾げていた。


「若い人の方が、碌なことしないと思うのだけど」


エルザがそう言うと、ナイトハルトは手を振りながら笑っていた。


「それが予想外で面白いと考えたのではないかな? その証拠にお主も面白い選択をしただろう? 力を使わないという選択をな……。大人ならそうはいかん。一旗あげようとか、誰かを倒そうとか、その力を使って何かをしようと考えるものだ。そして、その者の周りには、力を利用しようとして群がる者も出てくる」


「なぜ人が群がってくるのですか? 球を持つ人の力を利用して、何か企んでいるということなのですか?」


「その可能性は十分にある。……色々なケースが考えられるんだ。君を奴隷にして使役しようとする者や、君を殺して球を奪い取ろうとする者もいるかもしれない……。君の大切な誰かを人質に取って、君の力を利用するかもしれない……。色々と面倒なことが考えられるのだよ。とにかく早めにオリバーの元へ行かれることをお勧めする」


それを聞いて、エルザは青ざめていた。


「でも、王都の騎士団長の紹介でここに来ているのよ? ……私、国のために働かされる兵器にされちゃうのかしら?」


「それはいかんな……その騎士団長は、信用できる人なのかね」


ライトハルトは心配そうに聞いた。エルザはほんの少しだけ思案するそぶりをみせたが、すぐさまライトハルトの方を見て言った。


「多分ね……だって私、その人の命を、何度も救っているもの」


「それじゃあ、国には黙っててもらうよう、話してみることだ。命の恩人の頼みなら無下には出来んだろう」


「そうね……そうするわ」


エルザは口をへの字に曲げて肩をすくめた。


「人の欲って、恐ろしいわね……」


その言葉に、オリバーは頷いていた。


「そうなんだ。ここまで大きな力を持ってしまった以上、もう自分だけの問題じゃないのだよ、エルザ」


手紙を書きながら、ナイトハルトは続けた。


「それでな……この3つの球は、火は山火事、水は津波や洪水、風は台風や竜巻を模したと言われていてな、そんな自然災害のような力を持っていることから「災厄の球」と呼ばれている。……それらの災害を再現できる力があるということだな」


「ちなみに、私の持っていた球は何だったのですか?」


「お主は、その球をガムランで手に入れたというから、それはアーカードという男が所有していたものだろう。……竜巻や台風の力……つまり、風や雷を武器とした暴風の球というやつだ」


「それではブラストにいるオリバー様は、水の力を宿しているのですか?」


ナイトハルトは頷いた。


「そうだ。オリバーは水を司る球を宿している。そして……劫火の球はベルメージュという女が宿している」


「ベルメージュ? もしかして、その人がメラーズ男爵家の夫人なのかしら?」


「そのとおりだが、良く知ってるな?」


エルザは頷いた。


「メラーズ男爵家が王家へ反旗を翻そうとしているの。もし、そうなったら、私たちも戦うことになるわ」


エルザがそう言うと、ナイトハルトの顔が曇った。


「……10年前にな、そのベルメージュが引き起こした反乱で大勢の人が命を落としたんだ。……出来ればそんなことは二度と避けたいのだがな」


「奇襲攻撃でやっつけたりは出来ないの?」


そうエルザは聞いたが、ナイトハルトは小さく首を横に振った。


「ベルメージュはな、超回復魔法というものが使えるのだ。つまり、ヤタガルの証と組み合わせれば、どんな酷い怪我を負ったとしても無限に回復が出来る。多少の攻撃ではどうにもならないんだよ」


それを聞いて、エルザはショックを受けていた。


「でも、近いうちに戦うことになると思うわ。その時はまた、改めて相談に乗ってください」


エルザがそう言って頭を下げると、ナイトハルトは真面目な顔をして頷いた。


「もし、本気でベルメージュとやりあうつもりなら、ワシは協力を惜しまんよ。なにせ、ワシとオリバーは、ヤタガルの球をこの世から消し去ることが悲願だからな」


ライトハルトは、書き終えた手紙を封筒に入れ、封蝋で封をした。そして、エルザへと手渡した。


「ひとつだけ注意事項を伝えておく。良いか、決してその文様に魔力を流すんじゃないぞ。そうすると魔術回路が起動して、その身にヤタガルの証を宿すことになる。そうなると、お前を殺さないかぎり、その証を取り除くことが出来なくなるからな」


エルザは顔を青くして頷いた。


「ありがとうございます。肝に銘じておきます……」


エルザがそう言って頭を下げると、ナイトハルトは立ち上がって、エルザに向かって手の平を差し出して来た。


「エルザ。君に幸多きことを天樹様へお祈りしておくよ」


「天樹様?」


「ああ、ヴァルハラではな、御神体である天上の樹のことを"天樹様"と呼んでおる。村に様々な恵みをもたらしてくれるからな」


「そうなのね……お言葉感謝します、ナイトハルトさん」


エルザがそう礼を言うと、ナイトハルトと握手をした。それから、エルザとシンディは、ナイトハルトに別れを告げて店を出た。これから最上階……つまり、ヴァルハラでいう1階へと上がって、パラシュートで降りる予定である。


ヴァルハラの1階まで来ると、天上の樹の枝から作られたお守りが売っていた。


売り子の女の子は、これからパラシュートに乗るのなら、ぜひ、お守りを買って欲しいと言って来た。


天上の樹のお守りは、持ち主に幸運をもたらすのだそうだ。


「じゃあ、お守りをもらおうかな」


エルザは革袋を取り出して、女の子に支払った。


「エルザ、あなたお守りを買うの? 案外、女の子らしい所もあるのね?」


シンディがそう茶化すと、エルザは肩をすくめて、


「これまで酷いことばっかりだったから、神にもすがりたくなるわよ」と言って笑った。


「貴方様方に、天樹様のご加護がございますように」女の子はお札を渡しながら、そうやって祈りを捧げてくれた。


「どうか、ご加護を。天樹様」


エルザは藁にもすがる思いでそう呟いた。シンディはその姿を見て、「ご利益があるといいわね」と言った。するとエルザは、お守りをひとつ取り出して、シンディに渡した。


「あなたの分もあるのよ?」


シンディは茶化した手前、気まずくなって遠慮をした。


「わ、私はいいわよ」


「ダメよ。せっかく買ったのだから、持っていて」


エルザはそう言って、強引に懐へお守りをねじ込んだ。それを見たシンディはエルザの方を向いて微笑んだ。


「……じゃあ、もらっておこうかな。……ありがとうエルザ」


2人はそう言って、にっこりと笑い合った。


ヴァルハラの街は標高3500m。


ここから空中を降りて約30秒ほど経つと、速度はおよそ200km/hにも達するという。そのため、降下場所を飛んでからは、出来るだけ早くパラシュートを開くことが推奨されている。


パラシュートを開いてから着地までは3分程度なので、合わせても4分程度で降りることとなる。パラシュートでの降下は危険を伴うが、行きが6時間以上かかったことに比べれば、夢のような短時間だ。今のエルザたちにパラシュートで降りないという選択肢はなかった。


エルザとシンディは、パラシュート降下の手続きをして、自分のパラシュートを選んで装着する。そして、自分の手荷物を、専用の袋に入れて胸側にカラビナで固定した。もちろん、剣や弓などは袋の中へ入れてある。しかし、襲撃に備えて麻痺の小刀だけは、すくに取り出せるように、手荷物袋の側面に取り付けていた。


「シンディ、装着できた?」


「私は大丈夫よ」


「弓とか落とさないかなあ」


「袋が破れるってことはないんじゃないかな?」


「でも、落ちた時壊れたらやだなあ。エルザの剣は、金属だからいいけど」


「剣だって曲がったら使い物にならないわよ」


2人はそんな話をしながら、降下場へと向かった。


係の人に、パラシュートの操作について説明を受け、しばらくその場で待機するように言われる。


待っている間、エルザは薬の入った懐に手をやった。


これでようやく、王都へ向かうことが出来る。


エルランディ王女の薬を胸に抱いて、エルザは少しだけ、胸が熱くなっていた。


天上の樹では、もう襲撃はないのだろうか。このままパラシュートで降下すれば、あっという間にガムランの郊外である。エルザは早く降下したくて仕方がなかった。


エルザたちの降下準備が整った頃、5人の黒づくめの格好をした一団が姿を現した。


それを見たエルザは嫌な予感がした。


彼らは既に、パラシュートを装着済みだった。そして、中には腰から剣を刺しているものまでいたのである。


「見るからに戦う気満々じゃないの!」


エルザは係員へ急ぐよう大声を出したが返事はない。……そんなことをしている間にも、5人組がずんずんと近寄ってくる。


エルザはささやくように言った。


「シンディ! 敵よ! 先に行って! あなたが着地するまでの時間は、ここで私が稼ぐから!」


シンディは顔色を変えて、すぐさま立ち上がった。


「わかったわ!」


そして、シンディは降下場へと向かっていった。


エルザは、エルザに向かって近づいてくる5人組に声をかけた。


「私たちに何か用でもあるのかしら」


エルザの声かけを無視して、彼らは無言で接近してくる。


そして1人がいきなり駆け出して、そのまま降下場へと向かってしまった。


「しまった!」


エルザは歯噛みした。エルザが妨害に向かおうとした所、1人の男が抜刀してエルザに斬りかかってきた。


上段からまっすぐ振り下ろされた剣を、エルザは体さばきだけでかわしたかと思うと、その伸びきった腕先にある剣の柄を掴み、親指方向へ小手で返して、梃子の原理で奪い取ると、切っ先をクルリと回してそのまま男の腹へと突き刺した。


「うぎゃあああ!」


絶叫を上げた男の後ろから、2人の男が剣を振り下ろしてきた。


エルザは奪い取った剣を握り直し、右の男が振り下ろした剣をかわすと同時にこれを切り捨て、返す刀で左の男の腹を切った。


この間、5秒。


奴らは死んでないだろうが、もう戦闘は無理だろう。


エルザは斬った勢いのまま、残った1名めがけて剣を投げつけ、そのまま降下場へと走って、そのまま空中へとダイブした。


剣を投げつけられた男は、自らの剣でそれをはじき、走り去るエルザを睨みつけていた。あっという間に仲間3人が倒されたので、その男の顔は怒りで燃えていたのである。


どうやら彼がこの5人組のリーダーのようだ。


彼の名前はバグ。シャドウの一員で、2人の兄と合わせて、地獄の三兄弟と呼ばれている男である。





エルザは急降下していた。


はるか下には、シンディと先ほど飛び降りた男の姿が見えた。エルザは空気抵抗を減らす姿勢で、落下速度を上げていく。


あっという間に先ほど落下した男へと迫り、落下速度を抑えながら接近しようとする。そして、降下しながらブーツの隠し刃をつま先へと展開する。


エルザは男の落下速度を合わせながら肉薄するが、近づいたり、離れたり。空中ではうまく移動をコントロール出来ない。


エルザは、体当たりするくらいのつもりで身体を寄せるが、男は逃げる……。エルザは麻痺の小刀を振り回し、ブーツの刃をふるう。


戦闘が始まってから10秒経過した。


エルザは焦り出す。


エルザは再度接近すると同時に、左手を伸ばして強引に服を掴み、そのまま首筋へ麻痺の小刀を押し込んだ。


「ぐああああ!」


男の悲鳴を聞くと、エルザはすぐさま男から離れる。


そして、麻痺の小刀をケースに収納すると、パラシュートを開こうと準備をはじめた。


その時である。


上方から急に男が姿を現したかと思うと、エルザのパラシュートを切り裂いてしまった。


「あっ!」


エルザが見上げると、攻撃してきたのは、先ほどの男……地獄の三兄弟の末弟バグであった。


そしてバグは、すぐさまパラシュートを広げて上方へと上がって行く。


「油断した!」


エルザは青くなって背中を見た。


そう。背中に背負っていたパラシュートは、ナイフによって斬り裂かれていて、おそらくこのまま開いても使い物にならないだろうと思われた。


エルザは、飛べない翼を持って、今、ひとり、空の中にいる孤独を感じていた。




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