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第47話 樹皮の道


夕暮れ時に火柱が上がり、無人と思われていた納屋が火を噴きながら倒壊したので、付近の住民が集まって大騒ぎになっていた。すぐさま自警団も集まってきて、セラスたちを取り込んでいた。


「一体、なんの騒ぎだ!」


「どけどけ!責任者は出てこい!」


「おい!、そこの女! 一体どういうことだ!説明しろ!」


自警団の団長と思わしき人物が強い口調で言ってくる。


セラスは両手で顔を覆った。


出来るだけ目立たないように過ごしたかったのに、この騒ぎではどうしようもない。そして、このお国の大事に自警団の者たちが偉そうに喚きたてるので、セラスは苛立ちが収まらず、とうとう立ち上がって自警団の団長らしき者の前に立った。


「な、なんだ……」


妙な威圧感を感じた団長が、少し後ずさりする。


セラスは、バクスター家の紋章が入った短剣を見せた。


「私の名はセラス・バクスター。バクスター侯爵家の者で、王都で第3騎士団長を務めている者だが……」


自警団の連中は一気に黙りこくってしまった……相手はまさかの貴族だったのある。


こんなボロい納屋から出てきた女が、まさか貴族の、しかも騎士団長だとは夢にも思わなかったのである。さらに言えば、この町の領主より格上の貴族なのだ。


自警団の団長の顔は真っ青になっていた。


「で、誰だ。さっき偉そうにそこの女とか言った奴は!」


セラスはそう言って、ギロリと睨みまわした。自警団の男たちは、頭を下げて、セラスと目を合わせようとしない。


「お前たちは知っているのか? ここはバクスター家の管理物件なのだ。そこの床を見て見ろ。金貨が転がっているだろう。賊が入ったのだ。私は賊に火を放たれ、家をつぶされた被害者なのだが、貴殿らは私に否があるかのような口ぶりをしていたな? どういうことか説明してもらおうか」


自警団の団長は顔をあげることもできないまま、消え入るような声で謝罪を口にした。


「ははーっ……まさかバクスター家のお嬢様がこのような納屋へお休みになっているとは想像もつかず……失礼の数々、大変申し訳なく……」


そういって、だんだんと腰の角度が深くなっていく。そのうち頭が地面に付きかねない勢いである。


「極秘任務のため、目立たぬよう納屋で過ごしていたのだが……。なのに賊の侵入とは……この町の治安は一体どうなっているのだ? ええ? 自警団長! なまけて酒でも飲んでいたか?!」


「いいえ、決してそのようなことはーっ!」


そういって、団長の腰の角度はさらに、深くなっていく。そろそろ、顔が地面につきそうである。


「まあ良い。そういうことだから、今日のところは帰ってくれ。あそこにいる野次馬はちゃんと帰らせろ。それからあそこの死体を片付けてくれないか……野犬でもきたらかなわん」


そう言って、セラスはロイドの死体へ向けて、あごをしゃくった。そこには上下が分断され、破裂した腹わたの広がる男が恐ろし気な顔をして倒れていた。


それをみた団員の顔は、血の気が引いて真っ白になっていた。騎士団長の肩書は伊達ではないと思っただろう。


「し、失礼しました! 野次馬は退散させますので!」


そういうと、自警団たちは走っていった。そして、野次馬たちへすぐさま立ち去るよう追い払っていた。その後で何人かの団員がやって来て死体を片付けていく……。


セラスはその一人一人に大銀貨を1枚渡してやった。


「セラス様!」


そこへ、エルザとシンディが走って帰ってきた。


「火柱が見えたので、慌てて駆けて参りましたが、一体、何があったのですか!」


「ああ、エルザよ……私は少し疲れたよ」


シンディもアルマへと駆け寄る。


「アルマ!無事だったか!」


「シンディ!」


アルマはシンディに抱き着いて、おいおい泣いた。


「アルマ……どうしたのさ、泣いてちゃわからないよ」


「シンディ……そのまま抱いてやれ……アルマは大活躍だったのだ」


「え? 一体なにが?」


そういうと、セラスはシンディににっこりと笑いかけた。


「私はな、アルマに命を救われたのだ」


「えーっ! アルマ、あんた戦ったの?」


すると、アルマは泣きながら、コックリと頷く。


セラスは、大きく笑った。


「シンディ。アルマをほめてやってくれ。アルマはな、この私も危うく敗れるかと思われた強敵を倒したのだ。ほら、あそこに転がっているだろう。あの巨漢を真っ二つさ」


セラスはそういうと、シンディにウインクした。


シンディは目を丸くして、驚いていた。





その後、1時間ばかり、簡単な食事を作りながら、4人で情報交換をしていた。


そして、エルザはアルマに、短槍の魔道具を2つ手渡した。


「これはね、魔力を込めると石礫が発射されるのよ。狙いたい場所へ、ここの印を重ねて魔力を込めるの……すると……」


ビュン! 石礫が飛んで、的へバン!と当たった。


「すごい……」


それを聞いて、エルザはニンマリ笑った。


「ね! すごいでしょ? 1回の魔力充填で12発撃てるわ。2つあるから24発ね。射程距離は3~5mってところよ。当然だけど、遠くにいくほど当てにくくなるわ」


「これなら、私でもなんとか扱えそうですね」


「ええ。これがケースよ。ここに短筒をいれて、腰の両側に下げておいてね。魔力が尽きたら、刃を展開させて切り付けることも出来るわ。」


「はい、わかりました」


そういうと、アルマは、自分のために用意してくれた変わった魔道具を、しげしげと眺めていた。


「それとな、エルザ。ヴァルハラにの町にある魔道具屋へ顔を出しておけ。そこの店主で、ナイトハルトという者がいる。その男にその文様を見せて詳細を聞いてみろ」


「その、ナイトハルトさんは、この紋章のことについて、何か知っているのですか?」


「それはわからん。ただ、その男は古代遺物のアーティファクトについて研究をしていてな。その文様について何か知っているかもしれん」


「この文様が、古代遺物のアーティファクトなのですか?」


「さっきの侵入者がそんなことを呟いていたのだ……可能性はある」


「それよりもセラス様……この納屋の有様は……一体どうなさるおつもりで?」


「そうだなあ……とりあえず、荷物は馬車に積みなおしたし、どこか敷地の端にでも移動させて、そこで眠ることにするよ」


「それじゃ、布団だけでも馬車に運んでおきましょうか」


「正直、あまり、ここにいたくはないのだがな……メイスが来るかもしれないと思ったら、動くわけにはいかないし」


「何か目印でも残して、移動してみてはいかがですか?」


「そうだな……メラーズが後を付けていたということもわかったし、今も監視されている可能性も高いだろうからな」


「アルマと二人でこっそり抜けるのなら、可能な気がしますね」


「そうだな……それで、どこかの宿に身を潜めてもいいかもしれんな……まあ、そのあたりはこっちで考えるよ」


セラスがそう言うと、エルザは心配そうにセラスを見つめた。


「本当なら、セラス様がお休みになれる所が見つかるまで、お供しなければならないのですが……」


「ああ、大丈夫だ。日程もかなり厳しいからな。エルザ、我々のことは気にせず行ってくれ。アルマと相談してなんとかするから」


「はい……大変でしょうけど、ご無理のないように……」


「ああ、エルザも、シンディも気をつけてな」


「はい……セラス様。しばらくお待ちください」


「ああ。待ってるからな。頼んだぞ、エルザ」


「はい。必ず……」


エルザはそう言って、セラスと握手を交わしたのだった。





エルザとシンディは、ガムランの町を出て、天上の樹の上り口へと入っていく。町から天上の樹までの500mほどは、建物もなにもないエリアだ。


木の上から枝や葉っぱ、時にはの樹に住む虫なども落ちてくることがあるらしく、下に建てた家の屋根を壊したり、住んでいる人が大怪我や死亡する例もあったらしい。


その結果、人が暮らす領域はだんだんと樹から遠ざかり、幹の周りを円で縁取るように空間が出来ていったそうである。


「ところでエルザ。その紐はなんだ?」


シンディは、エルザの持つ杖についている紐について尋ねた。


「え? 紐? ……あ、この手首に巻いてるやつ?」


「そうそう。ダサくない?」


「えー! ダサいかな? 店で落下防止に付けておいたほうがいいと強烈に進められたわよ?」


「それって落下防止なの?」


「1000万エスタンもした武器を、たった一度も使わず、木の上から落としてしまってもいいのか?って」


「そう言われると、買っちゃうかもしれないわね……」

「シンディも、

落として困るものには付けておいた方が良いかもよ?」


「わ、私は大丈夫よ……」


そんな話をしていると、ほどなくして天上の樹にとりついた。


「これが、樹皮の道ね……」


木の幹の樹皮は、厚みが数メートルもあって、そこに刻まれた皺の深さだけでも2mはあった。その中でも、出来るだけ斜面の緩やかなところを繋いで道にしたものが、天上の樹へのルートになっている。


そのため、一部では急激な登りになっているところもあるので、所々で軽いクライミング的な場所もあったりする。そんな道を通りながら二人は少しづつ高度を上げていった。


樹皮の道に入ってからしばらくすると、日が落ちて、完全に夜になった。


エルザとシンディは、ランタンを取り出して明かりをつけた。


暗くなると、道の端についている丸い石が光り出すのだが、さほど、明るいわけではないのでランタンは必須である。だが、この光の石は、道から落ちたりするのが防げて安心だ。それに、道には鎖でできた柵が取り付けられていて、安全についても配慮がされた道のようだった。


「はぁ、はぁ……エルザぁ……あとどれくらいかかるの?」


シンディは息も絶え絶えになりながら、登っていく。


「うーん、たぶん、6時間くらいかな?」


「それじゃ、まだまだかかるね……」


「今は登り始めだからしんどいけど、もうちょっとしたら体が馴染んで楽になるから……それまで頑張って」


「うん……わかったよ……頑張る……」


「この調子で行けば、どこかで仮眠する時間くらい取れるはずから、適当な頃合いを見て仮眠しよう。……たしか、この樹に住む虫が開けた横穴があるのだったわね」


「芋虫が空けた穴でしょ? でも、それがあるのは結構上の方だと聞いたけど」


「ええ。だから芋虫の穴が見えたら、ヴァルハラは近いってことね。そこを目指して頑張りましょ」


「はーい……」


シンディはそう言いながら、頑張って登った。


登り始めてから3時間が経った頃、天上の樹の、幹から伸びる大枝が生い茂るエリアに入ってきた。


今は、夜だからわからないが、ここに来ると、枝葉に遮られて眺望は良くないらしい。

ただ、鳥やトカゲなどの生き物が数多く生活をしていて、いろいろな場所から生き物の気配がある。


「なんだか、気持ち悪いね……エルザ」

「大丈夫よ、襲っちゃこないわ」

「ほんとに?……」


シンディは、目に見えない暗闇に潜む生き物たちを気味悪がっていたが、エルザが本当に怖いのは人間だ。このように生き物の気配が多いと、ひっそりと気配を消して潜んでいる刺客に、気付くのが遅れるかもしれないからである。


枝葉が生い茂るエリアに入って2時間が過ぎた。エルザはずいぶんと、高度を上げてきたのを感じていた。


それからしばらく歩いていくと、シューマッハの坂道という看板が見えた。


「なにこの看板?」


「なんか書いてあるわよ……」


「どれどれ……」


その看板には、こんなことが書いてあった。


”ヴァルハラを開いた神官・シューマッハは、神のお告げを聞いて以来、仲間とともに樹皮の道を作り続けていた。そして最も困難を極めたのはここから500mほどある坂道の建設であった。


何人もの人々がここへ挑み、落下して、天に召されていった。神への信仰心を示す大いなる試練と感じたシューマッハは、命綱もなしに果敢にこれへ挑み、辛うじて坂の向こう側へロープを渡すことに成功したのだった。


信仰深い御身であれば問題はなかろうが、ここから先の道のりは、正直言って険しいものである。だが忘れてはならない。神官・シューマッハの苦労を思えば、この程度の苦労などとるにたらないことなのだと。


むしろこの坂道を以って信仰の証とするべく、信者の皆々は心してこれに挑み、苦難を乗り越えてみせよ”


「……だって」


「ふーん」


二人は顔を見合わせた。


「ってことは、これからしんどい道が始まるってことじゃん!」


「……まあ、そうなるわね……怪我とかしないといいけど……」


「やめてよね! 怪我なんかしたって、背負って降りるなんて絶対無理だからね!」


そう言いながら、シューマッハの坂道へと近づいていくと……


坂の入り口あたりで、1人の男が倒れていて、2人の男が介抱しているのが見えた。


「……」


エルザは警戒していた。

どうみても怪しい。


「……どう思う?シンディ」


エルザはささやくように、シンディに聞いた。


「限りなく黒に近い感じがするけど……万にひとつ、一般の信者たちって可能性もあるからね……」


「でも、こんな時間に?」


「足が遅くて日が暮れたのかもよ?」


「そんなことってあるのかしら?」


「明らかに敵だとわかっていたら、先に攻撃を仕掛けるのだけどな」


エルザは、そんなことを考えていると、頭が痛くなってしまった。


「とりあえず、私が先へ行って様子を見るから、もし私が戦闘を始めたら、援護お願いね」


「わかったわ、エルザ」


エルザはそう言うと、樹皮の道を進んでいった。シンディは荷物を降ろして身軽になってから、弓を取り出し、矢筒を肩にかけた。


エルザが近づいていくと、男たちは壁際に寄る。エルザは、彼らが壁側に寄ったことが気になって、思わず足を止めた。……皆、沈黙していたが、エルザの方が先に口を切った。


「どうかされましたか?」


エルザが尋ねると、一人の男が返事をした。


「今しがた、この者が試練の坂道で足を滑らせまして……打ちどころが悪かったのか、意識を取り戻さないのです」


「そうなのですか……私は治療等の心得がないので、そちらに関してお役に立つことはできませんが、ヴァルハラに着いたら、現地の方にそのことを伝えて、だれか救援に来てもらうよう依頼してみましょう」


「そうですか……それは助かります。私どもも、この険しい試練の道を、人ひとり担いで登るなど無理だと思っていたのです」


「わかりました。では……」


エルザはそういうと、彼らの脇を通って坂へと向かった。そして……。彼らの横を通り過ぎようとした時。


突如、気絶したかと思っていた小柄な男が、ありえない力で真上に跳ね上がったかと思えば、グルグルと回転し、手に隠し持った短剣を、下から振り上げるようにエルザの方へ突き出してきたのである。


エルザは杖をそのまま前へ振り出し、小男の体を突き押しながら横方向へ移動した。そして、そのまま杖の反対側で左手の男の横っ腹へ突きを入れた。そして。その反動を利用して、右側の男にも突きを入れたのである。


「ぐああっ!」

「があっ!」


その時、エルザの頭上で閃光が走ったかと思うと、矢がビュンビュン飛んできて、襲撃者たちへと突き刺さった。シンディが照明矢を放ち、その光が途切れる3秒間に、弓で5連射したのである。


エルザに気を取られていた男二人は首に矢を受けていた。


エルザは矢の攻撃を避けていた小男へ体を向け、杖を構えて攻撃を待ったが、襲ってきたのは予想外にも死に体となっていた男二人の方だった。


「なにっ!」


男たちは左右から、棒の先が二股になった棒をエルザのヘソあたりへ突き入れ、そのまま捨て身の、道連れダイビングである。


「あっ! ちょっと!」


エルザは足でけり上げて宙へ投げ飛ばそうとしたが、もとより死を覚悟しての突撃である。その程度のことでエルザから離れることはなかった。


「あーーっ!」


エルザは、彼らの突撃に抗えず、2人の男とともに樹皮の道から落ちていったのである。


(エルザ!)


シンディは思わず心の中で叫んでいた。


シンディは青ざめたまま、その場で立ち上がったが、その時、小柄な男が樹皮の道にある柵を越えようとしているのが、月明かりに照らされてよく見えた。


シンディは矢をつがえて、弓を構えた。

そして、その男がエルザを追って飛び降りた瞬間、シンディの矢が3度飛んで来て、そのうちの1本が足に刺さった。


体が空中にあったので、かわせなかったのだ。


小男は、くっ、呻き声を上げると、体をすぼめたまま落ちていった。


エルザはきっと生きている。

だからこそ、あの小男は追ったのだろう。


(エルザ、いま、私にできる援護はここまでよ……後は頑張って)


シンディは心の中でそうつぶやくと、樹皮の道を下っていくのだった。



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