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第28話 協力者


リールの街にある、貴族クラスが宿泊する宿・黄金の牝牛亭。リールの領主・ウインダム家の屋敷があるのもこのあたりだ。


その黄金の牝牛亭の裏口に、一人の女がこっそりと入って行った。


リリスである。


リリスは裏口から入ると、通りかかった従業員に声をかけ、銀貨1枚握らせて、セラスのところへ手紙を持っていかせた。少し変な恰好をしていたリリスだったが、黄金の牝牛亭でリリスの顔を知らないものはいなかったので、従業員はすぐさま、セラスの元へ手紙を届けてくれた。


しばらくして、リリスはセラスの元へと案内された。


「失礼します。お連れ様をご案内しました」


従業員がそう言うと、セラスは入れと言って、入室を促した。


「失礼します」


扉を開けて、リリスが入ってきた。


部屋の中にあるソファには、セラスとメイス……そして若い男が一人座っていた。


セラスはリリスの方へ顔を向けると、1枚の小さな紙きれをヒラヒラさせた。


「急な相談あり。リリス……」


紙きれの内容を読み上げたセラスは、それを二つに折ってテーブルの上に置いた。


「こんな夜中に一体どうしたというのだ?」


セラスがそう尋ねると、リリスは真面目な顔をして言った。


「明日の朝出発とのことでしたので、夜分に失礼ながら、急ぎご相談したいことがあって参上しました」


リリスがそう言うと、セラスは手でソファを示して、リリスに座るよう即した。

リリスは礼を言って、腰を下ろす。


「で、相談ごととは一体なんだ? 明日の朝では駄目だったのか?」


セラスがそう聞くと、リリスは、同席している男性の方をチラリと見た。

それを見たセラスは、その男性をリリスに紹介した。


「このお方はリールの騎士団長を務めているオルトラン殿だ。相談事を聞かれても問題ないだろう」


セラスにそう言われて、リリスはオルトランへほほ笑んだ。


「はい……。オルトラン殿は、剣術大会でも数々の優勝経験を誇る強者……。リールに住んでいて、知らない者はいないでしょう」


リリスがそう言って褒めると、オルトランは照れ臭そうに笑った。


「いかにも私は、そのオルトランです。私の顔を見知って頂いていたとは光栄ですな、リリス殿」

そう言って、オルトランは笑った。


「オルトラン殿は、ウインダム男爵の指示で、我々にご助力下さるというのだ」


そう語るセラスは、少し嬉しそうだった。


「ほう、それは心強いですね」


「いえ、当然のことです。……我々リールの貴族は、元々バクスター家を支持しておりますし、敵対勢力の暗殺というやり方も気に入らない……。そんな状況で、お困りのセラス様を放っておくことなどできませんよ。領主様は当然のように助力を申し出た次第です」


オルトランは、上品にそう言った。


「それに、つい先日も、あなたのお友達がリールの盗賊を悉く退治してくれたので、我々も多少は余力が出来て来たというのもありますがね」


するとセラスも苦笑していた。


「エルザという少女には、本当に驚かされる。月曜日に王都へ面接に来ることになっていたのだが、今回の件で追い立てられて私の方がリールに来たので、慌ててエルザに協力を申し出たというわけだ。……しかし、リールへ来てみれば、盗賊をバタバタと斬り倒しているし……本当に驚いたよ」


「頼もしい助っ人になりそうですな」


オルトランも興味深そうに頷いた。


「というわけなので、相談ごとを聞くにあたり、オルトラン殿に同席してもらってもかまわないと思うのだがどうだ?」


セラスはそう言うので、リリスは少し考えてオルトランに尋ねた。


「では、一つだけお聞かせください。オルトラン殿は、冒険者ギルドマスターのガストン氏についてどうお考えでしょうか」


リリスがそう言うと、オルトランはジッとリリスを見つめてから、口を開いた。


「その件に関しては、私個人的見解として回答させて頂きます。冒険者ギルドのギルドマスターとして任命された元S級冒険者……。そんな華やかな肩書の裏では、なかなか黒い噂の絶えない人物です」


その答えにリリスは大きく頷いた。


「やはりそんな噂があったのですね?」


そのオルトランの発言に、今度はセラスが驚いていた。


「それは本当か?」


「はい……ですがそれは噂の域を出ないもの……。それに、S級冒険者としての実績は本物で、ギルドマスターへの任命も、王都にある冒険者ギルド本部によるものです。このように表側はとても整っているのですが、グレーな噂は絶えずある……というのがガストンという男です」


「そうだったのか……。実は、オルトラン殿にはこれから話そうと思っていたのだが、今回の件で、私はガストンに助力を求めているのだ。そして、信用できるA級冒険者を3名連れてくると聞いている」


「その3名の、名前を聞いておられますか?」


「ああ。赤龍のブレスというパーティーらしいが、ベリー、ヘクター、キースという名前だったか」


「赤龍のブレスですか……そのパーティーも、なかなか黒い噂の絶えない連中です」


「そうなのか……それではガストンは、味方というより敵である疑いも出てくるではないか……。少なくとも悪党には違いないわけだし」


セラスは手の平を額にあて、天を仰いだ。


「私はな、エルランディ様が毒虫に倒れたことを知った後、たった1時間で王都を立ったのだ。その行動の、どこに穴があったのか全くわからんが、我々はリールに到着するまでに2度も襲撃を受けている……。そのため、信頼できる人物に助っ人を頼もうと思ってガストン殿に助力を乞うたのだがな。……もし、敵方の勢力に協力している悪人どもの元へ、私がノコノコと出向いたとしたなら……」


セラスとリリス、オルトランは顔を見合わせた。


「この道中に、我々は全滅するでしょうな……」


オルトランは言った。

セラスも腕を組んで唸ってしまった。


「ああ、私は自ら、敵に急所をさらしていたことになるな」


セラスは頭を掻きむしった。


「だがまだ間に合う……これからどう対応するかだ。……それとも初めからガストンたちを切り捨てて、先に出発した方がいいのか? うーん……凡庸な私では考えが追い付かん……皆の意見を聞かせてくれないか?」


そこで、リリスが口を開いた。


「私は、道場の応接でお会いした際に、ガストン殿に嫌な空気を感じたのです。その時、なぜそう感じたのか根拠を特定できませんでしたが、少しだけ対策を準備してまいりました」


「ほう、その対策とは?」


「まず、我が道場の四天王3人を、護衛として参加させる段取りを付けております。それと、エルザを慕う少女が協力を申し出ています。彼女は戦闘力は皆無ですが、回復魔法が使えます……。そこで彼らをどう配置するか……それが本日お伺いした相談の内容です」


「なるほど、そうだったのか……リリス殿……感謝する」


セラスは思わず頭を下げていた。


そこから、セラス、メイス、オルトラン、リリスの4名で作戦を練った。その話し合いは数時間に及んだ。いろいろな意見が飛び交ったが、その結果、次のような行動を取ることになった。



まず、隊を3つに分けた。


1つ目は、メイス、エイミー、バットの3名。この3名はすぐにでも出立して、迂回ルートを通ってヴァルハラへ向かう。別行動するのは、相手方に気付かれないようにするためである。ヴァルハラでうまく合流出来れば、怪我人の治療もできるかもしれない。


「あくまで、この追加戦力はガストンに知られないようにしたい。そして、最悪の場合は、メイスが薬を持ち帰るように」


セラスはそう言って、メイスを見つめた。


「必ずや、お役に立ってみせます……が、セラスお嬢様も、無事にヴァルハラへお越しになられますよう……」


「わかっている……私とて、そう簡単にやられはせんよ」


セラスはそう言って、話を続けた。


「それで、もう一つのチームがガストンと行動を共にするわけだが、ここには騎士バートンとアデル、それからリリス殿とエルザ殿……それからオルトラン殿と部下4名。私を入れて10名で行くことにしよう……メイスは傷が熱を持って床に伏したとでも言っておこう」


それを聞いて、メイスは頷いていた。


「最後に四天王、ブレット殿とダグラス殿は、少し距離を取りながら、尾行してもらえないだろうか。これも、ガストンが知らない戦力だ。知られないよう温存しておきたい」


「はい。そのように」

「頼んだぞ」

「はい」


セラスは、ハーッと大きなため息をついた。


「とまあ、作戦はこんな感じにまとまったが……。私がふがいないばっかりに、凡庸な作戦となってすまない……」


すると、オルトランは手を振って否定した。


「何をおっしゃいます、セラス様。画期的な作戦など、そう簡単に生まれるものではありませぬ。手堅く、我々が見通しの付く範囲で作戦を立てればそれで良いのです」


セラスは、それを聞いて、少しだけ安堵の表情を見せた。


「ありがとう、オルトラン殿。……私は焦っているのだろう。あなたのおっしゃる通りだ。ガストンの裏をかいて、逆に思惑を踏みつぶしてくれよう。……さあ、話は決まった。メイスはさっそく出発の準備を……奴らに気付かれぬようにここを出て、リリス殿と一緒に道場へ。オルトラン殿は少し休まれて、明日の朝にまた西門で会いましょう」


そう言ってセラスは拳を握りしめた。


「賊の妨害など、なんのその。必ずや薬を持ち帰り、エルランディ様を救ってみせるぞ!」


セラスのその力強い姿を見て、メイスもオルトランも、そしてリリスも大きく頷いたのだった。




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