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第25話 新たなる決意





エルザが目を覚ますと、ベッドの上だった。


窓の外はすでに日が落ちて真っ暗である。エルザは掛けられた毛布を押しのけ、体を起こした。


「ここは……一体……」


玄関で倒れてから、この部屋に運ばれたのだろうか……。おそらく、西神流道場の一室なのだろう。エルザはベッドから腰を上げて、部屋の外へと歩いた。


部屋の扉を開けると、長い廊下左右に伸びていた。掃除の行き届いた、明るくて綺麗な廊下だ。廊下の右奥を見ると突き当りのようだったので、エルザは左手の方へ歩いて行った。


しばらく行くと、リリスの姿が見えた。


「リリス……」


「おう、エルザ。起きたか?」


「……訪ねて来て早々、迷惑かけちゃってごめんね」


「盗賊団のアジトを潰してきたんだ……疲れているのだろう。……だいたいのことは、エイミーから聞いたよ。お手柄だったな。冒険者ギルドに報告したら、すぐさま動いてくれたよ。幹部連中が軒並み殺されていたようだが、みんなお前が倒したんだな?」


「エイミーを救おうと追いかけて行った結果がこれよ。確か、ドゴン、ライナー、それからガルベス、バクスという盗賊だわ。あと、手下も数人ね」


リリスは、少しあきれて言った。


「君という子は本当に、サラッと恐ろしいことをいうね。ライナーと言ったら闇の銀狼の親分じゃないか。冒険者ギルドの連中も、本当に一人でやったのか? って首をひねっていたぞ」


そういうと、リリスは大声で門下生の一人を呼んた。


「すまないが、冒険者ギルドへ使いに行ってくれないか。受付で、エルザが目を覚ましたと言ってくれればわかる」


「はい、行って参ります」


門下生は、小走りで玄関先へと向かって行った。


「ところで、何が原因でこんな騒動になったのだ? エイミーには、屋台で急に襲われたって言ってたが」


リリスが不思議そうに聞く。


「私とリリスがゴント村で黒い蝙蝠と戦ったことがあったでしょ? その恨みがあるみたいだったわ。もうひとつは、このエイミーね」


「ああ、その話はエイミーから聞いたよ。帝国が高値で買い取っているんだったな」


「そうなの。奴らはエイミーを捕まえて、帝国に売ろうとしていたみたいね。……それで、彼女はリールに住む親戚を訪ねてきたのだけど、行方知れずなのよ。それでね、リリス。あなたの道場は古くからリールにあるから、何か情報を得られないかと思って……誰にも聞くことができないから……何か力になってくれないかしら?」


エルザはそうお願いすると、リリスは笑って首肯した。


「タミル族の件は私ではわからないから、詳しそうな者に書面で聞いているところだ。返事がきたら知らせるよ」


「ありがとう……助かるわ」


エルザがリリスと立ち話をしていると、エイミーが小走りで向かってきた。


「エルザさん!」


「エイミー!」


エイミーは、エルザに抱き着いていった。


抱き付かれて思ったが、体の傷があまり痛まなかった。


「あれ、そういえば体の傷が……?」


「少しはましですか?」


「ああ、随分と良くなった気がするけど……?」


そこでリリスが話に入ってきた。


「それはな、エルザ。エイミーが治癒魔法を使ったのだ」


「エイミー……」


「お薬の効果も高いんでしょうけどね」


そう言うとエイミーは照れ笑いした。エルザは感動してジーンときていた。


「エイミー、ありがとうね」


「いいえ! 私の方こそ……。治癒魔法をかけながら思っていました……あんなに傷だらけになりながら助けてもらっていただなんて……」


エイミーは俯いて、瞳の涙をためていた。


エルザはエイミーの頭をそっと撫でた。


そこへ、門下生が小走りにやってきて、リリスに告げた。


「冒険者ギルドから、ギルドマスターガストン様がお見えになりました。バクスター家のセラス様をお連れになっております」


「何? ガストン殿はわかるが、なぜ、バクスター家のお嬢様まで来られたのだ?」


「さあ、それはわかりかねますが……」


一体、何をしにバクスター家のお嬢様が同行しているのか。……リリスは首を傾げたが、とりあえず話を聞いてみなければはじまらない。


「とりあえず、応接へお通ししろ」


「はい」


門下生はそう言うと、小走りに玄関へと向かった。


「エルザ。とりあえず、ギルドマスターが緊急で話があるそうなんだ。起きて早々、申し訳ないが、一緒に同席してくれるか?」


「わかったわ。それからセラス様は、おそらく私に用事があるんだと思うわ」


「君にか?」


「うん……私はリールであなたに会った後、王都でセラス様に会う予定だったの」


「そうだったのか……だが、なぜリールにまで出向いて来たのだ? 色々気になることは多いが、とりあえず応接へ行ってみよう」


そういうと、リリスは歩き出した。


リリスに連れられて応接室に入ると、そこにはギルドマスター・ガストンと、上品で美形の女性が座っており、その背後には護衛騎士が控えていた。


「お疲れのところ悪かったね。私がギルドマスターのガストンだ。そして、こちらがバクスター侯爵家のご令嬢、セラス様だ」


セラスは紹介されて、美しい所作で話しかけた。


「リリス殿、エルザ殿。セラス・バクスターだ。よろしく頼む。後ろに控えているのは護衛騎士のメイスだ」


すると、メイスは胸に手を当てて礼を取った。


「メイスです、どうぞよろしく……」


「セラス様、メイス様。リリスです。こちらこそ、よろしくお願いします」


「私はエルザです……セドリック様のご紹介により、これから王都へ向うところでございましたが……」


エルザがそう言うと、セラスは大きく頷いた。


「ああ、その件は父から聞いている。君が王都に来たら、私の騎士団へ入る予定だったからな」


「先生から、お名前は伺っておりましたが……そのセラス様が、どうしてこちらへ?」


エルザが不思議に思って尋ねると。セラスはエルザの目を見つめて、真剣な顔をして言った。


「実はな、エルザ殿に聞いて欲しいことがあるんだ。君は剣聖セドリックの弟子であり、王都に行けば当家へ仕える者。それに加えて盗賊の幹部を倒すその実力。つまり、私はあなたを信頼できる剣士だと感じているのだ。その上で、私はエルザ殿にお願いしたい事がある……」


エルザは、セラスから予想外の信頼を得ていたことに驚くとともに、どんな厄介事に巻き込まれるのか、少し不安を感じていた。エルザはまだ、本調子ではないからである。


エルザはセラスの目をじっと見つめるだけで返事はしなかったが、かまわずセラスは言う。


「私たちはアラタカ山にあるヴァルハラという町へ向かっているのだが、その理由について、ガストン殿には、重篤になった友人のために薬を取りに行くことだと説明している……。君の前だから言うが、その友人というのは、実はこの国の第二王女、エルランディ様なのだ」


エルザは殴られたような衝撃を受けて、思わず立ち上がっていた。


「エ、エルランディ様ですって?」


エルザは驚いていた。この旅には何かあると思っていたが、まさかエルランディの命がかかわっているような護衛任務だとは思ってもいなかったのである。


つられてセラスも立ち上がった。


「そうだ、エルランディ様だ……。ある晩、エルランディ様のお部屋に毒虫を放った者がいた。……その虫は、この国には存在しない種類の虫で、誰かが持ち込んでエルランディ様のお部屋に放ったことは間違いない。朝、侍女が異変を感じて部屋に入ると、すでにエルランディ様は高熱に侵され、喉は大きく腫れあがって話すことも出来なかったのだ」


セラスは思い出すのも忌々しいのか、引き絞るような声で言った。


「毒が遅効性のものだったことは、不幸中の幸いだった。だが、その珍しい虫の解毒剤が王都にはない。……だからこそ、その毒虫が選ばれたのだろうがな」


セラスは一呼吸置いて、続けて語る。


「だが、運よく国内でその解毒剤を保有する薬屋があることがわかった。本当に偶然のことだったらしい。その解毒剤がある薬屋が、アラタカ山の町、ヴァルハラにあるというのだ。私はそこに希望を見たのだ。だが、のんびりはしていられない……実はその解毒剤を投与する猶予はな、発病して10日ほどしかないのだという。つまり、今から残りあと7日ほどしかないのだ」


エルザはセラスの目をじっと……凝視していた。セラスの目は真剣だった。


それは、語り続けるごとにどんどんと熱が入っていくようだった。


「おそらく、エルランディ王女と敵対する勢力の誰かがお命を狙ったことに間違いはないだろう。だが、王都でも、一体、誰が敵で誰が味方なのか読めなかったのだ。だから私は、この任務にあたって、本当に信頼できる者のみ従えて出発したのだ」


セラスは拳を握りしめてつぶやく。


「さほど戦えぬ私だが、他の者に任せることは出来なかったのだ」


エルザはセラスに威厳のようなものを感じていた。人の上に立つものは、その人に従わずにはいられない、雰囲気というものを持っているとエルザは思う。セラスの声は、エルザの胸に響いた。


「我々は、エルランディ様が倒れたことを知って、わずか1時間で王都を発ったのだ。だが、王都郊外に出たあたりでいきなり襲撃を受けた。我々の行動が、なぜか敵方に知られてしまっているようなのだ」


セラスはエルザの方へ強いまなざしを向けて、語り続ける。


「それ以降も、道中、様々な妨害があった。もちろん、これから先も、そのような妨害が行われるだろうと思う……これは王都を出た時からずっとそうなのだが、だから、信頼できる者とだけ、私のことを打ち明けたかった。私の護衛騎士の他に信じることが出来る人は君と、ここにいる人たちだけなんだ、エルザ」


セラスは手を伸ばし、エルザの手を握っていた。


「エルランディ様を救うために、力を貸してくれないか!」


エルザはセラスの手を握り返して言った。


「私は、何をすればよいのでしょうか」


その質問には、メイスが答えた。


「エルザ殿。君にお願いしたいことは2つ。出来るだけ、セラスお嬢様を守ってくれ。そして、セラスお嬢様と我々護衛騎士に万が一のことがあったら、エルザ殿、君がアラタカ山へ行って、薬をもらってきて欲しいのだ」


エルザは驚いていた。


命をかけて、王女の命を救おうとしている。そのことに、エルザの胸はぐッと来るものがあった。そして、セラスは自身の命よりも薬を優先しろというのだ。


エルザはセラスのそういう人となりを好ましく思った。それと同時に、この仕事は、困難このうえないと感じていた。エルザは、この仕事は相当な覚悟を持って受けなければならないと思った。


「わかりました。お受けいたします」


エルザはまっすぐにセラスを見ていった。


セラスとメイスは大きく頷いて言った。


「ありがとう、エルザ殿……」


エルザは、あの死闘を繰り広げた直後だったので、出来れば依頼は断るつもりだった。だが、エルランディの命がかかっているなら話は別だ。エルザに断るという選択肢はなかった。


「セラス様……私はエルランディ様がお忍びでゴントに滞在された折、エルランディ様から護衛騎士になるため王都に来るよう言われました。その時に誓ったのです……エルランディ様を、命をかけてお護りすると。ですから、私がこの話をお断りすることはありません。是非、ご同行させて下さい」


その言葉に合わせて、リリスも立ち上がって声をあげた。


「もし、よろしければ、私もお供いたします」


「リリス……」


「エルザ。私もお供しよう。他ならぬエルランディ様の危機を知って、どうして知らないふりが出来ると言うのだ? 私も行く。そして必ず薬を王都へ持ち帰ろう」


リリスの言葉を聞いて、エルザは涙を流していた。


その光景を見て、逆にセラスが驚いていた。エルランディ様とエルザやリリスが、これほど強い結びつきがあるとは思わなかったからである。


「リリス殿は、エルランディ様と面識があったのか?」


セラスが聞くと、リリスは小さく頷いた。


「2年前、ゴント村へ盗賊団が襲撃した際に、私は腕に怪我をしてしまったのです。その療養のためにしばらくの間、ゴント村へ滞在していたのですが、その時、親切に治療などして頂いたのが、エルランディ様だったのです」


「そうだったのか!」


「もちろん、王女だという身分は隠されていましたが……。あの剣の手合わせをした際に感じたあの技量……武を持って立つというエスタリオン王家の方ではないだろうかとは思っておりました」


セラスの胸の中に、熱いものが込み上げるとともに、力が湧きあがるのを感じていた。


そして、予想外の助っ人を得た。西神流道場・四天王リリス。まさか、彼女まで、エルランディ様と縁があったとは……。


「2人ともありがとう……2人のその想い、このセラス、熱く感じ取ったぞ。この、誰を信じてよいかわからぬ情勢の中、これほど心強いものはない。リリス、エルザ……感謝するぞ!」


そう言ってセラスは、リリスとエルザの手を握ったのだった。


「さあ! アラタカ山へは日の出とともに出発だ。出発は明日の朝6時!  西門前へ集まってくれ! 馬はこちらで用意しよう。今日は旅支度をしたら、明日に備えてゆっくりと休んでくれ!」


そういうと、セラスは力強く頷くのだった。 





ここまで読んで下さってありがとうございます。

ようやく、あらすじの内容まで書き進むことが出来ました。


皆さんの★やいいね!のおかげです。ありがとうございました。


第3部、少し書き溜めるまでお時間ください。

出来るだけ早く再開いたしますので、良かったらブックマークもお願いします。


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