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第22話 先生の言葉


エルザが催眠ガスに倒れて、呆気ない勝利を収めたバクスは、煮え切らない思いで剣を鞘へ納めた。


そして、一つため息を吐くと、部屋の奥へと声を掛けて、デニスを呼んだ。


「おい、この女をライナーの所へ運べ」

そう言われてバクスは嫌な顔をした。


「俺は足が折れているんですが?」


すると、バクスは今にも斬りかかりそうな顔をして凄んだ。


「なめてんじゃねえ! ぶった斬るぞ!」


「ひいい、すみません!」


デニスはあわてて、エルザに近づいた。


「あの……死んだふりとかしてませんよね……?」


「薬で眠ってるわい……もし死んだふりだったら、後で俺が仇を取っておいてやるよ」


「そ、そんなあ……」


デニスは泣く泣くエルザに近づいて、肩に担いだ。


それを見たバクスは、エルザの剣と鞘を拾って納刀し、デニスに背を向けて歩き始めた。


歩きながら、バクスは考えていた。


「無様に転んだとはいえ、あの剣をかわすとはな……。最後は剣で始末をつけたかったが、残念なことだ」


バクスはエルザの戦闘センスに感心していた。



秘剣・竜巻は、初動を誤解させて懐に入り込む必殺の技。運足に工夫があることと、両手で持っていると見せかけて片手で剣を伸ばし、瞬時に手の平で剣を回転させ、刃を相手の懐へ入れてかき回すのである。


この回転が半身で躱すには足らないくらいの円なので、つい後ろに下がってしまうのだが、思った以上に伸びてくるので斬られてしまうのである。


まさに、大地を削り巻き上げる竜巻とはよく言ったものだ。


「生捕りのために少し斬り方を変えたのがまずかったな。やはり、いつも通り殺しにかかる時でなければ、この技は使っちゃいかんわ」


バクスはバクスなりに反省していた。そうこうしているうちに、ライナーの部屋へついた。


バクスが、エルザを捕らえた経緯を簡単に説明すると、ライナーは手を叩いて喜んだ。


「最高だ! 最高の結果だバクス。死んだのは黒い蝙蝠の連中ばかりで、銀狼にダメージはない。それに、女も生かして捕らえるとは!」


「薬で眠ってる。まあ、まる1日は起きんだろう。あんたにゃ、それが面白くないかもしれんが」


それを聞いたライナーはニヤリと笑って、


「へえ、そうかい。それはちょっと残念かもな。ちょっとは泣いたり、暴れたりくらいはあった方が興奮するってもんだが。まあ、上玉だからそれなりに楽しめるだろう」


といいながらエルザを見た。


「派手に暴れてくれたみたいだし、この礼はたっぷり、その体で返してもらうぜ」


それを聞いたバクスは、少し眉間にシワを寄せて言った。


「しかしなライナー。楽しむのはいいが、腕を縛ってヤルくらいの用心はしておけよ。剣はもってないと言ってもな、剣士って人種は油断ならんからな」


「ああ、わかってるわかってる。そうさせてもらうさ」


そういうとライナーはニヤついた。


「だが紐で縛りつけて、だだ裸を眺めるというわけにはいかんからな。」


バクスはそれを聞いて、わかってないだろと思ったが、言うのはやめた。


「さっさと殺してしまった方が良かったもしれないが、もう、どっちでも構わん。それじゃあ、ワシらはこれで失礼させてもらうよ」


そう言ってバクスとデニスは部屋から出て行った。




エルザは夢を見ていた。師匠のセドリックと一緒に修行をしている夢だ。険しい山のなかで修行で挫けそうな時。セドリックはこんなことを言っていた。


「もう一歩も歩けないわ」


エルザがそう言って弱音を吐いた時、セドリックはため息をついて、エルザから5mほど先に、小さな小刀を置いて、エルザに言った。


「これはな。魔法が付与された小刀だ。これで刺すと相手は数秒間、麻痺するという効果がある。面白いだろう。これをな、欲しくないか? 今から5秒以内にここまで取りにこれたらお前にやろう。どうだ。来るか?」


そういうと、エルザは即座に立ち上がって走り、小刀を取った。


「取れたわ、先生!」


エルザはそう言って、またへたりこんだ。それをみたセドリックは思わず苦笑していた。


「なんだ動けるじゃないか。お前はさっき一歩も歩けんと言ったが、あれは嘘か?」


すると、肩で息をしていたエルザは顔をあげてセドリックを見た。


「いえ、あの時はもう本当に動けないと思ったのだけれど」といって照れ笑いした。


セドリックは頷いて、


「つまりな、自分が無理だと思う限界というものは、案外その程度のものなんだよ」


セドルはそう言って、小刀を鞘に入れて、エルザに渡しながら言った。


「剣を教えると言ってもな。技術や工夫を語り、見せることはできるが、こういった強い心や恐怖に打ち勝つことは、自分で会得するしかないんだ。だから弱気になった時は、この小刀を思い出せ。そして踏ん張るんだ」





そんなことを思い出した時、エルザは急に痛みを感じて、薄らと意識を取り戻した。


エルザが顔を上げると、上から男が覆い被さり、エルザの服を脱がしにかかっている所だった。この男はどうやら、エルザの乳房に噛み付いたらしい。胸に歯形が付いていて、ジンジンと痛みを感じていた。


エルザは内心、信じられないといった顔をしたが、そのおかげで意識を取り戻したのだともいえる。


それよりも、今はこの状況からどう脱出するか、それが重要だ。自身の頭と身体が満足に動かない状況で、薄目を開けて周囲に探りを入れた。


エルザは朦朧としている頭を必死で働かせようと眉間にシワを寄せた。


まず、上半身の衣服はすべて脱がされていて、両腕は後ろ手に紐で縛られていた。足は拘束されておらず、下半身はまだ脱がされていない。


そして、目の前には、興奮して乳房を貪る男がいる。雑な愛撫には嫌悪感しか湧かないが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。このままでは体を弄ばれて、その後たぶん殺される。


エルザには、そんな結末を受け入れることは出来なかった。この男が色ボケしているうちがチャンスだ。


エルザは左足の先で、右ブーツ靴裏にある刃を引き出して、つま先にそっと展開した。それは、亀のようにノロい動作だった。……体が思うように動かない。根気のいる、時間のかかる作業だった。





ライナーは、 反応の乏しいエルザに、少し不満だった。気持ち良くヨガるか、泣き叫ぶかしてくれれば興奮しそうなもんだが、エルザはほぼ無反応だ。試しに乳房を思い切り噛んでやったが、それでもダメだ。


「この薬はよっぽどキツイんだな。それとも、乳房は脂肪だから痛くないのか?」


ライナーは女の頬を叩いてみる。だが反応はない。


ライナー興ざめして、もうさっさと射精して終わろうと思った。


「まあ、顔はいいのだから、何ならもう一度、目が覚めてから可愛がってやってもいいのだが」


ライナーはそんなことを考えていた。


そして、エルザのズボンを下ろそうとしたライナーは、エルザから身を離して、一度体を起こした。


その時である。


エルザの右足がパッと動いたかと思うと、ハイキックのような形で、ライナーのこめかみを蹴ったのである。エルザのつま先のナイフが、ライナーの、側頭部へと突き刺さった!


そして、ライナーのこめかみから尋常じゃないほどの血液が噴出していた。


「あっ!」


ライナーは思わず手で覆ったが、エルザは構わず2度、3度と切りつけていく。ライナーは倒れるように、エルザから離れた。


「一体、何が起こったんだ?」


ライナーには、一体何が起こったの全く、訳がわからなかった。目の前で何か動いたかと思ったら、頭が切られていたからである。


エルザは上半身裸のまま、立ち上がって半身に構えた。


「おおお……」


ライナーは自分の顔を撫でた。2度、3度切りつけられるうちに、頬と左腕が斬り裂かれているのがわかった。ライナーは、エルザにやられた怒りで頭が一杯になった。


「てめえーっ! よくもやってくれたな!」


ライナーは激怒してエルザを見た。


その瞬間、エルザの回し蹴りが飛んで、ライナーの股間へと突き刺した。


「うわああああっ!」


ライナーは絶叫した。頬を刃で突かれた時、舌も切れていて、うまく声が出せていなかったが、ライナーの心の中では、絶望が、次に悲しみが、そして怒りが巻き起こっていた。


そんな感情が三つ巴になって、ライナーは鬼の形相でエルザを睨みつけていた。


「グググ、エルザーぁ!」


ライナーは猛烈にエルザへ接近し、顔と腹にパンチをねじ込んでいった。もうそれは、手加減というものはない。全力で、拳に怒りを込めて殴っていく。


それを何度も、何度も、ライナーの本気の、殺すための拳を、エルザの細い体に叩き込んだのだった。


エルザは足捌きで躱し、太腿を上げてガードをした。そして、動きに精彩を欠きながらもライナーへ、刃の蹴りを加えていく。


ライナーは、下半身から血をまき散らし、顔からは血と涙、鼻水やよだれが、汚らしく混ざりながら周囲に飛び散っていった。


「なめやがって。なめやがって!」ライナーは殴り続ける。


後ろ手で縛られたままのエルザでは、その衝撃をすべて躱すことは出来ない。エルザはあまりの痛みにもうだめかもしれないと思った。


だが、出血の多いライナーの、殴る勢いが少し弱まった瞬間に、エルザはライナーに体当たりして、そのまま奥の柱へとぶつけた。


「勝手なこと言ってんじゃないわよ! 被害者はこっちでしょうが!」


エルザは、怒っていた。額に青筋を浮かべて、渾身の力でライナーの腹を蹴りとばしていった。


ガシャン!という音とともに、ライナーは瓶を倒しながら床にぶっ倒れる。


辺り一面には割れた花瓶の破片と、ライナーがまき散らした血しぶきがが飛び散った。そして、倒れたライナーの首筋に、つま先のナイフを刺し入れたのだった。


エルザは、ライナーが動かなくなったことを確認すると、その場へへたり込んだ。


しばらくの間、吐き気がして、口から胃液がタラタラと出た。


エルザはブーツを脱いで、その刃を使って後ろ手に巻かれたロープを切った。


「このブーツは大活躍ね……お母さんにお礼を言わなくちゃ」


そして、這うように部屋を移動して服を探し、剣も見つけた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


エルザは体中が痛くて仕方がなかった。麻酔薬と、殴られたダメージでもう1歩も動きたくなかったが、歯をくいしばって動き続けた。そして、亀のようにノロノロと服を来て、剣を手に取ると部屋から出たのだった。



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