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女剣士エルザが行く王女救出の旅  作者: あんことからし
1.エルザの弟子入り
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第11話 別れの時


エルザとリリスが村長宅の前で戦っている頃、セドリックは村の各所で盗賊を斬り倒していた。 


「なんだあのジジイは!」


「女子供しか、いないんじゃなかったのか!」


そう言いながら、盗賊たちの悲鳴が響き渡る。ほんの10数分の間に、盗賊が15人ほど斬り殺されてしまったのだ。


逃げ惑う盗賊たちを庇うように、一人の大男が立ち塞がった。この男はパドレスと言って、黒い蝙蝠の盗賊団一の大男である。


パドレスの身長は2m近くあり、自分の身長ほどもある大きな大剣を肩に担いで立っていた。この男もフォルトやシリルと同じく、部隊の長を務める程の悪党で、数々の戦場を渡り歩いて来た、腕に覚えのある大剣使いなのだった。


「よくも仲間を殺しやがったな! この、老いぼれの死に損ないめ! そのシワがれた首を、胴体から切り離してくれるわ!」


パドレスが大剣を振るうと、セドリックはヒラリ、ヒラリとその剣を躱しながら、どんどん後ろへ逃げていく。


「この! 卑怯だぞ! にげるなっ!」


「なんだ、もう息が上がったのか? 情けない奴め……刀が大きすぎるのだろう? 小さい刀に変えたらどうだ?」


「う、うるせえ!」


そう言ってパドレスが大剣を振り下ろすのだが、セドリックは半身前に出るようにして躱すと、パドレスの懐に入り込んで、腹から脇の下へと剣を走らせていた。


「ぐわあああ!」


パドレスは断末魔の悲鳴をあげた。


そして、セドリックへ向けて大剣を振り上げたが、その重みでふらつきながら、地面へと倒れ伏した。


「パドレスがやられた!」


慌てたのは、盗賊の一味である。


「もうだめだ!」


「一旦、逃げよう!」


生き残った盗賊たちは、総崩れで逃げ出していく。


セドリックは、その逃げる盗賊共の背後へ追い討ちをかけて、その数を減らしていったのだが、さすがに走るのにも疲れて追うのをやめた。


「いかんな……ワシも年だわ……若いもんと追いかけっこをしたら勝てんな……」


そう言って、大きく息を吸っていた。


「肩で息をしている所をエルザに見られたら大変だ。盗賊狩りはこの辺にして、エルザを探すとしようか」


セドリックは、住宅の集まったあたりへと歩いて行った。


セドリックが村長の家あたりまで来ると、エルザとリリスが座り込んでいるのが見えた。


「おーい、エルザ」


セドリックが声をかけると、エルザがパッと顔を上げて、大声を上げた。


「あっ! 先生!」


エルザはそう言ってセドリックに手を振っていた。


「怪我はないか、エルザ」


「私は大丈夫よ。こちらの剣士様が、少し怪我をしてしまって……」


「はじめまして、西神流道場のリリスと申します……」


「ああ、ダグラスの所の門下生か」


「私は師範ダグラスの娘でございます……失礼ながら父をご存知で?」


「これは申し遅れたな、ワシは昔、王都で無双流道場をやっていたセドリック・バクスターと申す者。お主の父上とは、昔何度も手合わせをしたことがある」


「無双流の!……剣聖セドリック様でございましたか! これは失礼しました」


「いや、よしてくれ、ワシはもう引退した身なのだ。お父上はお元気かな?」


「ええ、父は相変わらず道場で門下生をしごいております。今日は危ない所をエルザさんに救って頂きました」


「本当か、エルザ。ちょっとは戦えたのか?」


「初めて人を斬ったから……今頃震えが来てるの」


「ははは、そうか。だが立派に村を守ったのだ。誇るといい。リリス殿もご苦労だったな。村を救ってくれてありがとう」


「いえ……私も冒険者ギルドの依頼で、盗賊たちの調査に来ていたので……。仕事みたいなものですよ。彼らはリールを拠点とする盗賊団、黒い蝙蝠の者たちです。あそこで倒れているのが頭領のガスタ、その横が幹部のタッカー、そして腕から血を流しているのが幹部のフォルトだそうです」


「盗賊団の頭領と幹部を倒したか……二人とも、これはお手柄だな」


そう言って、セドリックは笑った。



宿屋が燃えて泊まる所がなくなったリリスは、一通り取り調べが終わるまで、セドリックの家で滞在することとなった。


本当は、エルランディが滞在中なので、リリスはエルザと共に、エルザの実家へ泊まる予定だったのだが、エルランディが承知しなかったのである。


エルランディは、エルザのことがとても心配だったらしく、今晩は一緒にお話ししたいそうなのだ。したがって、リリスも一緒にセドリックの家に泊まることになったわけである。


リリスは、エルランディの正体こそ知らされていないものの、剣聖セドリックの家に寝泊まりし、剣豪メリルが護衛につくこの上品な少女を見て、位の高い何か訳ありの女性だと察したようである。


「まあ、あなたがリリスね? セドリックから聞いたわよ? すごく強いんですってね? 明日の朝、手合わせをして頂戴ね? 言っとくけど、私は強いのよ? エルザにだって勝ったことがあるんだから……」


と、いつものように、一方的なおしゃべりが始まった。リリスは痛めた左腕を見せながら、手合わせの件は丁寧に断っていた。


「戦いの最中に腕を痛めてしまいまして……滞在中、怪我の具合が良くなったら是非、手合わせをお願いします」


「まあ。それは大変だわ! 叔父様、何か痛みを鎮める薬はないのかしら?」


「今、薬草と泥で湿布を作っている所だ。もうすぐ薬剤が固まるだろうから、後で貼ってあげよう」


「すみません。お心遣い、痛み入ります」


「なあに、村を救った英雄が何を言われる。ここでは気を遣わずゆっくりとしなされ」


「はあ、ありがとうございます」


「……さて、夕食の準備が出来たので、話は食べながらでもいいだろう。さ、テーブルに座って」


そう言うと、セドリックはリリスを食卓へと案内した。


夕食はシチューと野菜サラダだった。食事をとりながら、セドリックは話だした。


「一応、今回の騒動について、わかっていることだけ話しておこうか。村を襲ったのは、リールを拠点とする黒の蝙蝠という盗賊団で、約50名ほどで襲撃したらしい……これはたまたまだが、リリスさんはその調査に来られていたのだったな?」


「はい、冒険者ギルドの依頼で来ていました。以前より、黒い蝙蝠は、地方の小さな村を襲っては、金を奪い、女を攫うようなことをしていましたから」


「この村は元々林業で成り立っていた村だが、数年前から希少鉱石が採掘されるようになってな。鉱山で働く者も増え、金回りもよくなっていたのじゃ。お前たちが戦っていた、村長宅には村の資金が、鉱山長の家には鉱山の経営資金が保管されていたからな。そして、昼間は男手が鉱山で働いていて、女しかいない……考えてみれば不用心なことだったな」


そう言ってセドリックはグラスの中のワインを飲み干した。


「それで、鉱山長の家でエルザが倒したシリルとアーロンというのも、盗賊の幹部らしい」


「そうだったの?……そういえば、あの二人は、元無双流だと言っていたわ」


「リールの道場で剣を習っておったのか……」


セドリックは少し、苦い顔をした。


「ああ。それからワシは本通りでパドレスと言う幹部を倒していてな。それを計算に入れてみると、結局、黒い蝙蝠はほぼ壊滅状態になったというわけだ」


「そうなのですか?」


リリスは驚いていた。


「ああ。ワシだけでも、雑魚を20人は斬ったからな。構成員もいなくなってもはや立ち直れんだろう。……二人ともお手柄だったな。この一件では、たんまりと、報奨金が出るだろうよ」


そう言ってセドリックは笑った。



襲撃から1週間ほど経って、リリスが朝稽古に参加することになった。


「今日でお別れになりますので、最後にお手合わせをお願いします」


リリスがそう言うと、エルランディもメリルも稽古の支度をして庭へと集まってきて、一通り柔軟などの運動をした後、みんなで手合わせをすることになった。


「リリスはどうしてそんな裾の長いロングスカートを履いているの? 可愛いからいいけど」


エルランディが興味深々とばかりに聞いてきた。するとリリスは照れたように笑って


「このようなスカートを履くのが好みなのですよ。剣を振るのに邪魔ではないかと良く聞かれるのですが、実際のところ足がすっぽりと隠れるので、足捌きが相手に見られず、上級者とな戦いにはいいですよ」


「そうなのね? じゃあ、私も買おうかしら?剣士はズボンみたいなイメージがあるじゃない? 男の人ならいいけど、女の子ならお洒落もしたいしね」


エルランディは、目を輝かせながら言った。


「動きの読み辛さは、実際に戦ってみればわかるでしょう」


「そうね。じゃ、早速手合わせをお願いするわ」


エルランディがそう言うと、まずは、リリスとエルランディが模擬戦をすることになった。


「よし、始め!」


セドリックの合図とともに、エルランディは斬り込んでいく。


「確かに、足捌きがわからないから、行動の予測が難しいわね」


リリスはエルランディの攻撃を半身でかわすと、エルランディの肩へと剣撃を飛ばす。エルランディはそれを体さばきでかわし、下段からの斬り上げを放ってきたので、リリスは半歩引いてそれをかわして、木剣を前へ突いていった。


その時である。


エルランディはリリスの突きに合わせて剣をすべらせ、木剣の鍔と鍔をぶつけたのである。


「痛っ!」


これにはリリスも驚いてしまった。


突いて伸びている腕に鍔を打つことで、衝撃をリリスの肩へと与えたのだった。


そして、エルランディは、そのぶつかった鍔を外すとそのまま突きを入れてきた。


「何という技だ!」


リリスは体軸を中心に横方向へ回転しながらかろうじてかわし、そのがら空きになった体側に一撃を入れた。


「やられた!」


エルランディが降参した。


「あれをかわすの? やっぱりリリスは強いわね! 私、ちょっとショックだわ」


「エルランディこそ、まさかあんな技を使うとは……正直驚いたよ」


「へへん、どう? すごいでしょ?」


そこにエルザがやってきて、興味津々に今の技のことを聞いてきた。


「エル姉! 何? 今の技は!」


「鍔打ちといってね、相手の突きに合わせて、自分の鍔を相手にぶつけるのよ。相手の手は伸びきっているから、肩まで衝撃が伝わって、体勢を崩したり出来る……はずだったのだけど、リリスには通用しなかったわね」


「いや、十分通用したさ。ほんと危なかった……かわせたのは本当に運だろう」


「運とか、そういうものはないわよ? それはあなたの実力よ」


「リリスはエル姉のあの突きを、どうやってかわしたの?」


「うーん……なぜあれをかわせたのかな……そうだな、鍔打ちをした時、押す力が強すぎたからかもしれないな」


「押す力?」


「伸びきった腕を通じて強い衝撃を肩へ与えるように、相手の鍔へガツンと当てなければならないと思うんだ。さっきの攻撃では、鍔に当ててから押すようになってたので、衝撃を与えられたというより、私の体が奥へ押された感じになったんだ。それで、体が外へ離れたから、突きをかわす余裕が出来たのだと思う」


「ああ、そうなんだ。じゃあ私、いい線、行ってたのね?」


「いい線どころか、あれで十分だよ」


「ほんと、刺激になるわ……じゃあ、みんな、相手を変えてどんどん模擬戦をしましょう」


そういうと、次々と交代しながら試合を続けていく。


そして、次は、エルザとリリスが試合をすることになった。


「よし、始め!」


セドリックが合図をすると、エルザは青眼に構えた。


カウンター狙いの構えである。


「ほう、こちらの攻撃を待つつもりか?」


リリスの目が光った。


「では、こちらから攻めさせてもらうとしよう」


リリスはそう言うと、少し上段に近い、中段に構えた。


隙あらば攻撃を打ち込もうという、攻撃的な構えに見えた。


「えええぃ!」


リリスが気合を発しながら、喉元近くへ鋭い突きを入れてきたかと思うと、エルザは後足を横へずらし、半身でそれを躱して逆に斬り込んでいく。


リリスも体を回してそれを躱し、その勢いのまま、横なぎの打ち込みとなって、エルザの胴を払ってきた。


攻撃と同時に防御、躱すと同時に攻撃する……。そんな無駄のない攻防が繰り広げられ、戦いの場は、互いの剣が空を切る音だけがビュンビュンと鳴った。


そんな攻防がいつまでもそれが続くかと思われた時、リリスの猛攻が始まった。


「うおおおーッ!」


そんな気合とともに、ダダダダダダーッと、猛烈な6連撃がエルザを襲い、あまりもの速さにエルザは防ぎきれず、攻撃を受けてしまった。


「そこまで、勝者リリス」


「あー、負けちゃった」


「はあ……エルザ、お前は本当にすごいな……私はこれでも結構なベテランなのだが、なかなか必死にさせられたよ」


そう言ってリリスは額の汗をぬぐっていた。


「戦ってみて思ったが、エルザは戦いの中に、ここで決めるという、押しの強い技を組み入れたい所だな。窮地に陥った時、強引に打開出来るような、押しの強い技だ」


「押しの強い技……あの、連撃のような?」


「ああ、私にとってはあの連撃がそうだな。エルザ、お前がガスタを倒した時に使った振り下ろしは強力だ。だが、あの技は私には通用しない。なぜなら、私の剣は、打ち合うことはしないからだ。必ず躱そうと動く。そういう剣士はいっぱいいるぞ」


「必殺技というものを考えた方がいいのかしら?」


「そうだな……だが、そんなカッコいいものじゃなくてもいいんだ。泥臭くても、実戦で使えるようなものがいいな。お前は力があるのだから、そんな力で捻じ伏せるような技でもいいんじゃないか?」


「ありがとう、リリス。考えてみるわ」


そのような感じでなかなか充実した朝稽古は終わり、リリスは個人的に、セドリックに色々と質問を重ねながら指導を受けたりしていた。

 

朝稽古が終わると、エルザとエルランディ、メリルの3人は、リリスを見送りに村へ向かった。村の駅馬車乗り場へと向かうと、出発まではまだ少し時間があるようだったので、4人でおしゃべりをして過ごした。


そのおしゃべりのほとんどはエルランディのものだったが、それが不思議と場が和むのだった。リリスは、エルランディの話を聞きながら、試合での剣をふるう姿を思い出していた。


もしかしてエルランディは、武を持って立つというエスタリオン王家の方ではないだろうか? リリスはそんなことを考えていた。


「エルザ。色々と世話になったな。そして、事件の時には助けてくれてありがとう。また、リールの街へも遊びに来てくれ。道場にも案内したいし、秋には祭りもあるからな。必ず来てくれよ」


「ありがとうリリス。秋祭り……必ず行くわね」


そういうと、リリスはエルザと固い握手を交わした。


「では、またお会い出来るのを楽しみにしております。皆様、ごきげんよう」


「さようなら!」


「ああ、さようなら!」


そういうと、リリスはロングスカートを翻しながら馬車に乗って、ゴント村を去っていった。


「あーあ、行っちゃったな……」


エルザはつぶやいた。


「剣について語れる人って周りにあまりいないから、楽しかったわね」


「ええ、短い期間だったけど、楽しかった……」


そんな話をしていると、エルランディがエルザに言った。


「……実はね……言いにくいんだけど、私も王都へ帰ることになったのよ」


エルランディの、突然の告白に、エルザの胸はドキリと大きな音を立てた……。



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