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女剣士エルザが行く王女救出の旅  作者: あんことからし
1.エルザの弟子入り
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第10話 絶妙な連携


村長の家の前では、フォルトとリリスの激しい戦いが繰り広げられていた。


フォルトは小動物を狩るような気持ちで、獰猛な笑みを浮かべながらリリスへと斬りかかっていったのだが、それはすぐに間違いだったと気付かされた。


「どうなってやがる……かすりもしねえ」


フォルトは驚きを隠せなかった。


「ははは、腕1本で勘弁してくれるのではなかったのか?……私に触れることも出来ないようではないか」


「はん!何言ってやがる、このクソ女! ぶっ殺すぞ」


フォルトは激怒した。


「死ねぇ! このアマっ!」


そういうと、フォルトは本気で剣を振って来た。フォルトの斬撃は、一撃、一撃が致命的な威力を持っている。万が一にも当たると、それはもう死を意味していた。


「なんだ……力が入りすぎだろう」


「うるせえ!うるせえ!」


そんな威力を持つフォルトの剣も、当たらなけばどうにもならない。つまり、リリスとは根本的な技量がまったく違うのだ。そして、いつの間にか、フォルトは攻撃どころが防ぐので手がいっぱいになっていた。


「わかるぞ……お前は弱い者いじめばかりして、強い奴と戦ってこなかったのだろう? もう防ぐだけで手一杯ではないか」


フォルトはリリスを睨みつけた。


「テメェ一体何もんだ? さっきリールとか言ったな? テメェ、リールの誰かに頼まれて来たのか!」


「リールから来たのなら知っているだろう。私の名は西神流剣術道場のリリスという者だ」


「ゲーッ! まさかテメェ! 戦闘狂リリスか?」


フォルトは青くなっていた。そして、油断したその時、リリスの斬撃を何度か受けてしまった。


リリスの剣撃によって、フォルトの服が切り裂かれ、服の下に着込んだ鎖帷子が見えた。


「お前、鎖帷子など着ているのか? そんな重いものを着てよく戦うな? この臆病者」


「うるせえ! お前、今から殺す!」


「こっちこそ、そろそろ終わりにさせてもらおうか!」


そう言って、リリスがは剣を振り下ろそうとしたが、横から飛んできた殺気を感じて、大きく後ろへ飛びずさった。


ガイーン!


リリスが元いた所へ、太い杖が突き刺さった。


盗賊のタッカーである。


「フォルト、何やってんだ、やられてるのかよ」


「……こいつ、恐ろしく腕が立つぜ」


「フン、酒なんか飲んでいるからだ……いつもの調子でやっつけてしまおうぜ」


「おう、じゃあやるか」


そういうと、フォルトとタッカーは、連携を組んで攻撃するべく、リリスを挟んで左右に位置取った。そして、同時に攻撃を開始した。


二人の連携は見事だった。


リリスが、フォルトの攻撃を躱すと、そこへタッカーの杖が飛んでくる。タッカーの杖を躱すとフォルトの剣が来る。そんな息の合った連携で、リリスを窮地へ追いやっていく。


「くっ! こいつら戦い慣れしているな!」


連携が巧すぎる――


リリスは戦い方を変えた。


フォルトの攻撃をかわすと同時に、タッカーの攻撃範囲から逃れ、前へ出てフォルトを攻撃をする。フォルトだけを狙い撃ちする作戦である。


「このクソ女!」


フォルトは狙い打ちされて、あちこちに浅い傷を付けられていた。


「おい! タッカー! もっと働け!」


「今やってるわい!」


攻撃がいちいち躱されるので、タッカーは杖をしごいて遠くまで突き入れる攻撃に変えてきた。そして、リリスを外に逃がさない。そういう巧みな攻撃で、リリスの逃げ道を徐々に塞いでいった。


そうこうしているうちに、リリスの攻撃は全くといっていいほど届かず、一方的に攻撃を受ける側になっていた。 


「一体、どうなっているんだ!」


リリスは唸った。


逆に生き生きとしてきたのはフォルトだ。タッカーの加勢を得て、いつもの強気が戻って来た。


「よし、ボックスに入ったぞ!」


「後、五手で詰みだ! 一気に畳み掛ける!」


"ボックス"とは、彼ら2人の造語である。


足を使って外へ逃げることが出来ないよう攻撃で誘導し、敵を狭いエリアへ押しとどめることを、彼らは"ボックスに入れる"と呼んでいるのだ。


つまり、リリスは彼らの作り上げた死地へと足を踏み入れたのである。


リリスは防戦一方になっていた。


相手の攻撃は、常にリリスの命を脅かしている。フォルトの攻撃を受ける、躱す、いなす……そういういくつかの選択肢がことごとく潰されていて、ひとつ選択を間違うと致命的な攻撃を受けかねないのだった。


リリスの頭は熱くなってきた。途切れそうになる集中と折れそうになる心を、リリスは食いしばって奮い立たせていた。目は血走り、その瞳は大きく見開かれていく。


リリスは自分を奮い立たせて剣をさばき、刃はさらなる加速を見せた。リリスの剣撃が無数の刃に見えるかのように、凄まじい連撃をフォルトとタッカーへ加えて行った。


「うおおおおお!なめんなーっ!!」


ガガガッ!ガガガッ!


その瞬間、フォルトとタッカーの腹に剣があたる。だが、鎖帷子を着ているので、服が切れただけだ。だが、彼らの攻撃はすべてはじかれ、もはやボックスは意味のないものへと成り下がっていた。


「うわっ、粘りやがる。このままじゃ、ダメだ」


思わずフォルトが声をあげた。


そのフォルトへ、リリスは追い討ちの一振りを浴びせようと剣を前に出した時。


ガシャ!という音とともに、リリスの剣と両手に鎖が巻き付いたのだった。


タッカーの杖の先から放たれた分銅は、剣と両腕に巻き付いただけではなく、分銅が当たった衝撃で左腕を大きく腫れあがらせていた。


「あ痛ッ!」


リリスの左腕は痛みで剣に力が入らない。


ふと前を向くと、もうフォルトが長剣を突き刺す体勢で目の前まで迫っていた。


「死ねや小娘!」


フォルトが付きだす剣が迫る。


リリスは剣の下をくぐり、前に出ることで鎖の拘束を緩めた。そして、フォルトの腹を殴りつける。そして弛んだ鎖を振りまわしてフォルトにぶつけ、よろけさせた。


リリスはさらに追撃しようとしたが、今度はタッカーが鎖を引いて動きの邪魔をした。


「あっ」リリスは鎖に引っ張られ、後ろへたたらを踏んでよろけた。


鎖のせいで行動が制限される。


「やりにくい!」


リリスはぼやいた。


 フォルトは剣を振りかぶって、リリスへ袈裟切りに斬りつけていく。


鎖で動きを制限されたリリスは、しゃがみながら剣を頭上にかざし、かろうじてフォルトの長剣を受けるしかなかった。


すると、すぐさまタッカーは鎖を引いて、リリスの体勢を崩しにかかる。


「うわぁっ!」


リリスはよろめいて尻もちをついた。


左手に力は入らず、体を支えることができなかったので、リリスはそのまま地面に背中をつけてしまう。


「あっ!しまった!」


リリスがあわてて顔をあげると、もうそこにはフォルトが迫っていた。


斬りつけようとするフォルトの剣が、リリスの頭上に落ちてきた。



その瞬間。



「ええええぃっ!」という気合が聞こえたかと思うと、バキィッ!という音と共にフォルトの両腕が斬り飛ばされていた。


「ぐあああ!」


フォルトが斬られた衝撃で地面を転げまわり、それから両膝をついて悲鳴を上げ、血の吹き出る両腕を凝視していた。


リリスが顔を上げると、赤い髪少女が立っていた。


エルザである。


「大丈夫?」


「もちろんだ!」


リリスは返事をした。


「気を抜くな! もう一人いるぞ!」


リリスはひざ立ちになった。


エルザはフォルトには目もくれず、もうタッカーに向かって駆け出していた。


タッカーは応戦しようと杖を上げたが、今度はリリスが体全体を使って鎖を引いたので、今度はタッカーがたたらを踏んで体勢を崩してしまった。思うように杖が上がらない。


「くそう! なめやがって!」


タッカーは杖を手放し、右手を後ろに回して腰の短剣を抜こうとした。


だが、その時にはもうエルザの剣が右目から鎖骨、そしてすべての肋骨を断ち切って、腰骨まで斬り裂いていた。


「がああああっ!」


タッカーは、切断面のすべてから血を噴出させ、断末魔のような叫び声があたり一面に響いた。


そして、握り締めた短剣の刃先ををエルザに向けたかと思うと、地面へ仰向けに倒れ落ちていった。


エルザはそれを見届けると、リリスのもとへ駆け寄った。そして、リリスの腕に巻かれた鎖を外していった。


「一度、預かります」


そう言って鎖を外すと、持っていた剣を預かって、そっと脇に置いた。


「ありがとう、さっきはもう駄目かと思ったぞ……私は冒険者リリス。お名前伺ってもよろしいか?」


「私はエルザ。この村の住人です」


「君は中々の腕前だな……この村に道場なんてあっただろうか?」


「いえ……個人的に剣を習っているだけです……それより、ここの家の子供を知りませんか?」


「君とと同じくらいの年の女の子か?」


「はい……私の友達なんです」


「その子なら、あの大木の裏に座っているぞ」


「ホントに?」


そういうと、エルザは大木の方へ目を向けると、女の子が怯えて顔を伏せているのが見えた。


「ああ、モニカ……無事で良かった……」


エルザとリリスが目を離した隙に、フォルトが立ち上がって逃げようとしていた。


リリスはそれを見つけて


「あっ! 待て!」と叫んだ。


そこに、建物の奥から2人の男がひょっこりと姿を現した。


体格のいい、熊のようにガッシリとした男と、陰湿そうな細い筋肉質の男だ。これまでの盗賊たちとは雰囲気がまるで違う。


逃げようとしていたフォルトは、その姿を見ると青くなって立ち止まり、膝をついて首を垂れた。


一体何者なんだ? エルザは不思議に思った。


エルザは戦闘に備えて中腰になり、やがてゆっくりと立ち上がった。


熊の方が低くうなるような声で聞いた。


「フォルトっ! そのザマはなんだ! 一体どうしてこんなことになっている!」


男はえらく怒っていた。


この男は盗賊団・黒い蝙蝠の頭領であるガスタである。身長は180cmくらいで、体重は100キロを超えるのだろうか。エルザには、ガスタはまるで山から降りてきた熊のように見えた。


ガスタは腰に差した長剣を抜いた。


そして、ゆっくりとエルザの方へと歩いていった。


「フォルト!説明しろ!」


ガスタは重くて低い、空気が震えるような大声を出して、フォルトを威圧した。


フォルトは青ざめた顔をして、


「女に不意打ちされて、腕を斬られてちまいました! 助けてくだせえ!」


と目に涙を溜めて懇願した。


「血が止まらねえんです」


ガスタはギロリとフォルトを睨め付け、


「この役立たずめ。すっこんでろ!」と怒鳴りつけた。


フォルトはヒイと小さく悲鳴をあげて震え、這うようにして端へ寄った。


ガスタはエルザ達の方へ近づいてくる。


割と大きな長剣も、ガスタが持つとまるで紙でも振っているかのように、軽く見えた。長剣を片手でチラチラ振ってから、エルザに突き付けて言った。


「ガキが調子に乗りやがって。格の違いってもんを見せてやるわ」


来るのはガスタだけで、もう一人の男は観戦らしい。腕を組んでニヤニヤしながらこっちを見ている。


小娘、手負いの女剣士の組み合わせ……ガスタは軽く捻り潰すつもりでズカズカと近づいていく。


エルザはガスタの方を向くと、剣を大上段に構えた。


ガスタはオッという顔をして、それからニヤリと笑った。


「なるほど、気の強そうなところは褒めてやる……面白い女だ」


「顔もなかなかいいじゃないか……俺の女にしてやろうか?」


ガスタは重く低い声で脅すように言った。


エルザからの返事は無視である。


エルザはただ、ガスタを刺すように睨みつけていた。しかし、ガスタにしてみれば、それもまた“そそる”というものだ。


ガスタは強い女が好きなのだ。


これまでも、気の強い女の頬を張り飛ばし、言うことを聞かせてきた。そして、この女にも“躾“が必要なようである。


“どうせ俺には勝てやしない“


そう思いながら、ガスタはエルザに、不用心に近づいて行った。


エルザの血は熱くたぎり、目は燃えるように熱を持っていた。


渾身の一撃を放つために、全身の毛を逆立たせ、剣を振り下ろす瞬間を見極める鬼と化していた。


そして、不用意にガスタが間合いに入ったその時。


突如、エルザが動いた。


すべてはこの時を待っていたかのように!


全身全霊を込めて!


エルザは大上段から捨て身の一撃を、ガスタの頭上へと放った。


それは、必ず倒すという決意が圧縮された、渾身の一撃だった。


エルザの剣はあまりにも早く、ガスタがそれを避ける余裕はまるでなかった。ガスタ自身もどこかで”避けなくても良い”と思ってもいたのだろう。


ガスタは片手を振り上げて剣で受けたが、エルザの剣は重かった。


「あっ!」


そう思った時にはもう、エルザの剣は、ガスタの剣もろとも彼の顔面にめり込んでいた。


「きええええい!」


エルザはその一撃を、ガスタが倒れ伏すまで、ガスタの腹へ足まで添えて、剣を押し込んでいく。


ガスタはエルザの刃を押しのけようと手を伸ばすが、その指は剣の刃で両断されていく。


やがて、ガスタの頭蓋へ刃が割り入り、血が吹き出してきた。


そしてガスタは、エルザの剣に押されるまま、背中から土の上へと倒れ落ちた。


ガスタの顔面は己の剣によって陥没し、頭頂部はエルザの剣によって柘榴のようにカチ割られていた。


エルザはそこまでやると、すぐさま立ち上がり、もう一人の男の攻撃に備えようと剣を構えたのだが、その男はもう逃げていた。


フォルトはそのまま見捨てられた。


フォルトの顔を見ると、血の流れる腕を見ながら、絶望し、この世で一番の被害者といった顔をしていたが、その哀れな顔を見た所で、なにひとつ可哀そうだとは思えなかった。


エルザは剣を振って血を飛ばし、刀身を鞘に納めた。

そして、逃げていく細長い筋肉質の男の背中を見ながら、なんとなく、今回の襲撃はこれで終わりのような気がしていた。



【 女剣士エルザ寸劇 ガスタ編】



エルザはガスタの方を向くと、剣を大上段に構えた。


ガスタはオッという顔をして、それからニヤリと笑った。


「なるほど、気の強そうなところは褒めてやる……面白い女だ」


「だが、俺はいいね!も押さないし、★をつける気もねえ……ざまあみろってんだ」


ガスタは重く低い声で脅すように言った。


エルザは大上段から捨て身の一撃を、ガスタの頭上へと放った。


さあ、エルザに唐竹割りされたくない方は、いいね!と★を押そう!(#^^#)


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