7.動画の不審点
急遽路駐した阿部さんの車から降りてきた僕たちを見た鶴賀さんは驚いていたが、窓を開けてもらい、話を聞いてもらうとすぐに納得してもらえた。
その後、僕と南山田先輩も鶴賀さんの車に乗せてもらい、今は今夜元重さんが匿ってもらう予定だった鶴賀さんの住むマンションに向かっている。
その間、隅田さんのスマホもスピーカー状態にしてもらい、こちら3名と自然探索会メンバー数名で情報交換を終えた。
それで分かったことは、2ヶ月ほど前、元重さんに阿部さんからのストーカー被害の相談を受けた自然探索会メンバーが、阿部さんをあまり極端に刺激しない方法で、元重さんと阿部さんをなるべく接触させないようにし、一方でストーカー被害の証拠を集めていたということだ。
鶴賀さんは以前お姉さんが同様の被害にあっており、そのときの弁護士との相談などもできたため、彼が中心になってこの元重さん保護の計画を進めていたのだ。今回の合宿が終了次第、皆で証拠を持って警察に行く予定だったという。
「やられた……智将のヤツにそんなことが頼める友人がいないと思って油断してた……このガタイの俺がいれば直接的なことは出来ないだろうからとタカくくっちまってた……クソッ!」
「申し訳ない、ワシが確認もせずに軽率に引き受けたばかりに……」
「ああ、いや、あんたのせいじゃない。俺だってあんたの立場だったら信じただろう」
今日、鶴賀さんは、阿部さんから元重さんを守るために駐車場で待機していたところ、案の定、阿部さんが現れた。ところが、いつもと違って阿部さんはすぐに駐車場を出てしまう。
最近、元重さんの住むマンションの郵便受けに阿部さんからと思われる『狂った内容の郵便物』が頻繁に入れられていることを聞いていた鶴賀さんは、恐らく阿部さんが元重さんのマンションに向かうものとして、阿部さんの犯行を阻止、又はその現場や証拠を押さえるため、元重さんには予め鍵を渡しておいた鶴賀さんのマンションの部屋に行くようLINEを入れて、自分は阿部さんを尾行したのだった。
それが、元重さんと鶴賀さんを引き離す阿部さんの策略と気付かずに。
「閑静な住宅街とはいえ、悲鳴を上げれば気付けてもらえませんかね?」
「元重は恐怖を感じたりしたときに、声が出なくなってしまうタイプらしい。それを承知の上で防犯グッズなんかは用意していると言ってはいたが……しかし瀬川君、だったか。君、どうして気付いたんだ?」
「……きっかけは、あの付け回されてる証拠動画です」
先程、再生こそしていないが、『こんな動画と画像が送られました』というのは鶴賀さんに見せている。
「内装から見て5本全てが同じ結構な高級車、つまり阿部さんの車から撮影したものだと分かります。
元重さんは軽自動車に乗っているそうですから、元重さんの車から撮影したものと見間違えるようなことはあり得ません。
これっておかしくないですか?これじゃあまるで阿部さんへのストーカー行為です」
「元重が智将の車に同乗しているならおかしなことでもないとは思わなかったのか?」
「その元重さんの存在が動画では確認できないんですよ。
この動画を撮影した機材はわかりませんが、映像からみて撮影機材を天井中央あたりに設置して撮影したようです。
何故わざわざそんな場所に取り付けたのか?フロントガラスやその付近に取り付ける方がそれ用のキットもありますし操作もしやすいでしょう。
これって元重さんの乗っていない助手席を映さないためではないかと」
「ああ、なるほどな」
「それに『準備やバイトでなかなか2人きりで会えない日が続いていた』と阿部さんは南山田先輩に言っていたそうです。
元重さんはバイトには自分の車で行っていたようですし。実際に鶴賀さんのストーカー行為があったなら『今日こんなふうに付け回された』と、元重さんが自分の車から撮影した動画があるでしょう。
当然そんな動画があればそれを何らかのかたちで阿部さんと共有するでしょうし、それが全く無いのも不自然です」
「それもそうだな」
「だとすると、これ、例えば、元重さんを付け回す阿部さんの証拠集めと牽制のために鶴賀先輩が追って撮影いるところを逆に撮影した動画とか。そっちの可能性の方が高いんじゃないかと」
「そのとおりだよ。元重の車を追い回す智将の車を撮影していたんだ。元重にはわざわざ遠回りして時間をかけてもらってな。智将のストーカー行為の証拠収集の一環だったんだ。まさか智将もこっちを撮影していたとは思わなかったが」
「もちろん、あの動画を見ただけなら、阿部さんが加害者とも、鶴賀さんが加害者ともいえるものではありません。
ただ、少なくとも阿部さんから説明を受けた以外の解釈も可能になりました。
そしてあの動画が絶対的な証拠ではないとなると、他の証拠や説明のおかしさにも気付きます」
「ふむ、どういうところじゃ?」
「まずは阿部さんと元重さんの2人が撮影された画像です」
「と、悪いがその話は後だ。次の信号を曲がって1、2分で俺のマンションに着く。降りる準備をしといてくれ」
「うむ」
「はい」
車内の緊張が更に増してくる。