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2.事件及び依頼概要

 今回、このやっかいな案件を先輩に頼み込んできたのは、僕らと同じS大学3年生の阿部智将あべともまささんという人だそうだ。

 南山田先輩が彼から聞いた話と、そのときのスマホでのやり取りを要約するとこうなる。


 阿部さんは大学の自然探索会という総勢30名程のサークルに所属している。

 ちなみに自然探索会とは言っても、年に数回、野山に探索に行って動植物のレポートをまとめる以外は、週一のミーティングと称したお茶会があるくらいの超ユルいサークルだそうだ。


 そして阿部さんは数か月前から同じサークルの2年生である元重紫姫もとしげしきさんと付き合い始めた。


 ところで、自然探索会では他の大学と合同で、1泊2日の自然観察合宿が行われる。

 これは年1回の恒例行事で、この行事をもって4年生が引退することもあり、会員はなるべく参加することになっている。


 この合宿の準備でいつもは割と暇な同好会も忙しくなってきた2ヶ月ほど前から、サークルの副会長の鶴賀真比呂つるがまひろ先輩が2人の仲を邪魔するようになってきた。


 阿部さんと元重さんが2人きりになるのを妨害するかのようにサークルの仕事を頼んできたりする。


 それも、他のサークル会員も含めた全体の仕事の割り振りで、阿部さんと元重さんが一緒にならないように、かつ、鶴賀先輩が元重さんと一緒になる機会を増やそうとしているかのように巧妙に仕事を割り振ってくる。


 最近では、車で出かけるときに、鶴賀先輩の車に付け回されるなどということが頻繁に起きている。


 これはストーカー行為ではないかと鶴賀先輩に抗議してもとぼけられるし、他の会員もサークル内では会長以上に頼りになるとの評価の鶴賀先輩にあえて意見する者もいない。


 一方の当事者である元重さんも、サークルで世話になっている意識からか鶴賀先輩に抗議することについては消極的。


 何度も付け回すのは犯罪だと思うが、暴力を振うわけでも、脅してくるわけでもなく、元重さんにも直接的なアプローチをしてくるわけでもない。


 元重さんに内緒で警察にも相談してみたが、「その程度ではサークル内や学校内で処理してもらうレベルで、こちらも気を付けて見回るくらいしかできない」とのことだった。


 取り敢えず証拠だけは残しておこうと元重さんとも話し、付け回されたときの映像を撮っておくことにした。


 こうして準備やバイトでなかなか2人きりで会えない日々が続き、本日ようやく合宿当日を迎えた。


 ところが、バイト先の事情で、元重さんが合宿を欠席することが合宿前日に決まってしまった。


 元重さんが心配な阿部さんも当然欠席するつもりでいたが、元重さんの強い要望で渋々参加することにした。


 他大学も含め、サークル在籍者は女子が多く、『貴重な男手が減っては迷惑が掛かってしまう』というのが彼女の言い分だった。


 そうして迎えた今日、合宿に参加してみると、鶴賀先輩の姿が見えない。会長に確認してみると『急用で遅れて合流すると連絡が入った』とのこと。


 ところが、夕方近くになっても鶴賀先輩は現れず、再度会長に確認してみたところ、『用事が長引きそうだという連絡が入ったので、今回の合宿は欠席していい』と言っておいたという話だ。


 これを聞いて阿部さんは大いに慌てた。

「鶴賀先輩は自分と紫姫が離れるこの機会を狙っていたのか!」と。


 自分の車で合宿会場に来ていた阿部さんは、隙を見て、サークルの会員には告げずに片道2時間ほどかけて札幌市内へと戻ってきた。


 元重さんのバイト先である繁華街近くのファストフード店に行くと、店舗裏側駐車場のいつもの場所に彼女の軽自動車があった。取り敢えず無事に出勤はできたようだ。


 一応周囲の確認もしておこうと店の表側の駐車場に出たところで、駐車場の隅に鶴賀先輩の車が停まっているのを見つけた。

 太陽が沈みかけて見ずらいが、運転席に座っているのは鶴賀先輩で間違いないだろう。

 向こうもこちらに気付いたのかエンジンを掛けた。


 咄嗟に阿部さんは一計を案じ、そのまま車を駐車場から出し、道路に出た。

 すると鶴賀先輩の車も間を開けてこちらを追ってくる。


 このとき阿部さんは、状況を利用して鶴賀先輩を出し抜く手段を思いついたが、それには協力者が必要だ。


 しかし、サークル以外で特に親しい友人のいない阿部さんには、今、それを頼めるアテが無い。


 そこで、以前サークルの会員を助けてくれた南山田先輩がLINEで『知り合いでは?』と表示されていたことを思い出し、藁にも縋る思いで電話を掛けた。


 一方、スマホの着信に気付いた南山田先輩はLINEを確認した。


 そこには

阿部智将あべともまさからの着信がありました。友達に追加後に通話が可能です』

の表示が。


「はて……どっかで聞いた名前じゃの?まあ、掛けなおしてみるか」


 あれこれと頼まれごとをされることの多い南山田先輩は、こうした突然の着信でも受け入れることも多い。僕としてはもう少し用心してもらいたいと思うところだけど。


 友達追加して掛けなおした電話に、間髪入れずに阿部さんが出た。


「南山田君!?突然済みません!あ、僕、同じ大学で3年の阿部智将って言います!友達でもないのに本当ごめん!でももう頼める相手がいなくって、お願いだ、助けてもらえないかっ?頼む!」


「話によってはできる範囲で助けんでもないがの。何があったんじゃ?」


 その後、阿部さんから前述の状況を聞いた南山田先輩が尋ねた。


「――で、今はどういう状況なんじゃ」


「路駐して、車内からそちらに掛けているんだ。鶴賀先輩の車もいくらか離れたところで路駐している」


「察するところ、鶴賀先輩は君の車に元重さんが乗っていると勘違いして追いかけてきておるのかな?」


「ああ、恐らく裏口で紫姫を乗せたんだと思い込んでいるんだろう。だから僕が裏駐車場から出てきたのを見てエンジンをかけて尾行してきたんだと思う」


「暗くても運転手一人しか乗っていないのは分かるのではないか?駐車場では結構お互いの車が近づいたりせんかったのか?」


「想像だけど、鶴賀先輩に見つからないよう用心して紫姫を後部座席に寝かせているとか、そんなふうに思われているのかもしれない」


「それこそ警察に頼んではどうじゃ」


「警察に相談してもさっき説明したとおりですよ。この程度のことで鶴賀先輩を拘束まではできないでしょう」


「で、これからワシはどうすればいいんじゃ?何か考えはあるのかの?」


「ああ、図々しいお願いで申し訳ないんだけど――」


 そこで南山田先輩が阿部さんから依頼された策はこうだ。(以下①~⑥)


 ①まず、南山田先輩が阿部さんの住むマンションに行き、自分の車をマンション裏に停めて、阿部さんの車両用のガレージ内に入る。準備ができたら南山田先輩から阿部さんに連絡を入れる。


 ②阿部さんが帰ってきてガレージ内に車を入れ、そこから自室に行き、すぐに荷物か何かを持って自室から出てガレージ内に戻ってくる。表から見ている鶴賀先輩には、阿部さんが元重さんを車内に残したまま、忘れ物でも取りに部屋に出入りしたように見えるはず。


 ③阿部さんが部屋からガレージに戻ったら、南山田先輩が阿部さんの車に乗り、運転して道路に出る。


 ④南山田先輩の運転する車を阿部さんが運転しているものと勘違いして鶴賀先輩が尾行を再開するのを確認したら、阿部さんがガレージから出て、裏に停めてある南山田先輩の車に乗って元重さんをバイト先まで迎えに行く。


 ⑤南山田先輩が、さも『鶴賀先輩が後ろから追ってきているので元重さんを下ろすに下ろせない』かのように、元重さんのアパート周辺をうろうろ運転する。


 ⑥その間に阿部さんは元重さんと一緒に阿部さんの自室に戻り、安全が確保されたところで、南山田先輩に連絡を入れる。



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