04 傷だらけの双子
「……………」
「……………」
皇族専用食堂にて、目元に引っ掻き傷のあるアドラオテルと頬が腫れているセラフィールはムスッとしていた。皇帝夫婦と皇女夫婦はコソコソと話す。
「ねえ、アミィ、セオくん。どうしちゃったのあの子達」
「……また妹か弟かで揉めてしまったのです。今回は特に酷くて……」
「………またか。どちらでもいいだろう。何故そんなに性別に固執するのか………」
「兄弟というのはそういうものです。歳が近ければ近いほど喧嘩します。ましてやアドとセラは双子。譲れないのでしょう」
「それでも限度があるだろう。明日はセシル達がこの城に来る。……また先の懐妊演説のように傷だらけでは皇位継承争いと勘違いされるな」
「…………」
セオドアとアミィールは黙り込む。
先の懐妊演説___それは4か月前に行った演説のことだ。
* * *
4か月前、サクリファイス大帝国・闘技場。
大きなドーム状の建物で、推定1億人は入る歴史の深い場所だ。闘技場ではあるが、演説にも使われる。その日も演説に使った。
サクリファイス皇族は国を統治する存在。国民に隠し事はしてはならない。それに、子供が出来たことを言わなければ産まれてくる子供は認知されず、何か不利益が生じるかもしれない。
だから、ちゃんと演説で存在を伝えなければならない。
そんな大切な日だった………のだが。
【「国民達よ、心して聞け。我が娘アミィール・リヴ・レドルド・サクリファイスとその皇配、セオドア・リヴ・ライド・サクリファイスに___「弟だッ!」子供ができ「妹よッ!」……………」】
ラフェエル皇帝様が懐妊演説をする中、子供達はその前で胸倉を掴みあっていた。国民達も貴族も、親である俺達でさえ戸惑う。しかし、2人は止まらなかった。
「何度言わせるのですか!赤ちゃんは妹なのです!アドは何も分かってない!」
「何を根拠にそんなこと言ってるんですかぁ~?赤ちゃんは産まれるまで性別わかりませ~ん、つまり弟でぇ~す」
「その理論で言ったら弟かどうかもわからないはずだわ!ふざけないで頂戴!貴方のような兄を持つ妹が可哀想です!」
「かっち~ん!それはセラがだろ!泣き虫なお姉ちゃんなんて恥ずかしいだろ!昨日おねしょして泣いてたくせに!」
「なっ、こんな公衆の面前でそんなう、嘘を言う貴方はわたくしの弟ではありません!」
「俺だってお前をお姉ちゃんだと思った事ねえよ!ばーか!」
「っ、黙って!」
セラフィールはそう怒鳴って膨大な紅銀の魔力を纏う。自分に放たれた炎魔法を身軽に躱して、自分も群青色の魔力を纏った。
「俺に勝てるわけないだろ!雑魚セラ!
ダーインスレイヴ!」
アドラオテルがそう言うと柄も刃も青紫色に染まった剣が現れる。それを小さな手で握って獣のように襲い掛かる。
「アドラオテル様~!かっこいい~!」
「セラフィール様の炎魔法がこっちに来たぞ!避難だ!」
「………」
「………」
「………」
「ぶっひゃっひゃっひゃっ!」
国民達が怯える中、アルティア皇妃様は爆笑なさっていた。
………俺達の懐妊演説はすっかり殺し合い演説に代わり、新聞でも『第3子の存在により皇位継承争い勃発!?』と大きく報道された一件だった。