09 Happy Birthday !
アドラオテルに詰め寄ったセラフィールはその場で転ぶ。ぱき、と小さな音がした。それを聞いてセラフィールは慌てて自分のクッキーを見て……愕然とした。
ハート型の大きなクッキーが___真ん中から真っ二つに割れていたのだ。
それをしっかりセオドアを初めとする全員が見てて。
セラフィールはじわり、と涙を浮かべた。
「っ、……ひっく、……お父様の、プレゼント………割れちゃった………!
ごめんなさい、ごめんなさい………」
セラフィールはその場でグズグズと泣き始める。それを見ていたセオドアは静かに立ち上がりセラフィールを抱き上げた。
「セラ、大丈夫かい?」
「わたくしは大丈夫でも、お父様のクッキー、大丈夫じゃありません………せっかくのお誕生日なのに、不快な思いを………ッ」
セラフィールの言葉を最後まで聞かず、セオドアは優しく抱き締める。顔には優しい笑みが浮かんでる。
「セラ、不快な思いなんてしてないよ。私はとても嬉しいんだ。セラが頑張って作ってくれたのだろう?
それだけで、こんなに嬉しいんだよ。
だから、泣かないで」
「っ、でも、………」
「ハート型のクッキー、私は家族全員で食べたいと思ってたんだ。だから、割ってくれてありがとう。
セラ、大好きだよ」
「お父様……」
大好きな父親にそう言われ、セラフィールはやっと顔を上げた。セオドアはそれを見計らってちゅ、とおでこにキスをした。
それを見ていた家族達も優しい笑顔を浮かべている。
「………食事の前にクッキーを食べよう」
「そうね。セラが作ったクッキー、私も食べたいわ」
「わたくしもです、セラ、よろしいですか?」
「仕方ないから食べてあげるよ」
「みんな………うん、うん!」
セラフィールは泣くのをやめて、やっと笑った。
___この後、仲良くみんなでクッキーを食べた。セラフィールの作ったクッキーはサクサクで、甘くて、力が漲るクッキーだった。
* * *
「くぅ………」
「がー、ごー」
「…………ふ」
その日の夜、セオドアは同じベッドで眠る子供達の寝顔を見ていた。2人は寝るまで「誕生日だから!」と肩をもんでくれたり、お風呂では背中を流してくれたり、……たくさん色んなことをしてくれた。
クッキーも絵も嬉しかったけど、それも嬉しかった。
あんなに小さかった子供達が、大きくなったのを実感して喜ばない親などいないだろう?
「………ふふ、セオ様、ご機嫌ですね」
「アミィ」
そんなことを思っていると、同じく子供達の寝顔を見ていたアミィールが小さく笑った。
「………わたくし、今日はとても驚きました。セラフィールがあんなにしっかりしてて……セオ様にもクッキーを作っている様子を見せたかったです」
「…………うん、見たかった、な」
セオドアは顔を引き攣らせる。
見てた、全部見てた。ビデオを凄く撮りたかったくらい感動した。
…………とは、言えないな。流石に。知らないフリというのは少し切ないな………
「セオ様」
そんなことを思っているセオドアを、アミィールは抱き寄せた。そして、ちゅ、と頬にキスをする。
「____改めて、誕生日おめでとうございます。今年がセオ様にとっていい一年でありますように」
「アミィ…………ふふ、アミィと子供達、皇帝夫婦が居るだけでいい一年間違いなしだよ」
セオドアはそれだけ言ってアミィールと唇を重ねた。
____素敵な誕生日。大好きな子供たちから初めてプレゼントを貰ったこの誕生日は一生忘れないだろう。
今年も、頑張るぞ。
セオドアはそう気合いを入れ直し、愛おしい女としばらくキスをしていた。
その近くには____セオドアの絵。
その絵には、クレヨンで『誕生日おめでとう、父ちゃん』と書かれていた。
Fin .