03 新しい命の足音
そう思うセオドアを他所に、セラフィールは納得していなかった。
____わたくしは未だにお母様のお腹に居た時の記憶を覚えております。温かくて、狭くて、アドラオテルといつも言い合ったりしていました。
でも、わたくしの妹は一人ぼっち。お母様のお腹にいるけれど、それでも一人ぼっちであそこにいる。真っ暗で、温かいけど………アドラオテルがいなかったら『寂しい』って思っていたのかもしれない。
寂しくて……死んじゃったら…………
嫌。
そんなの嫌。
わたくしはベイビーちゃんに会いたい。
ベイビーちゃんと出会って、お話して、遊んで………わたくしのように幸せになってほしい。
そこまで考えて、セラフィールは涙をこぼした。思いっきり、泣きたくなったんだ。
「うわぁぁぁぁぁん!やだぁぁぁぁぁ!ベイビーちゃんいないのいやだぁぁぁぁぁ!」
「せ、セラ!?」
「きゃあっ!」
「アミィ!」
セラフィールは大声で泣き始めた。いつも上手にコントロールしている膨大な魔力が暴走する。その場にあるもの全てが浮き、食堂にいた家族は四散した。アドラオテルが大声を上げた。
「セラ!泣くなよ!冗談だって!赤ちゃんいるよ!」
「嘘だぁぁぁぁぁ!赤ちゃん死んじゃったんだぁぁぁぁぁ!寂しくて死んじゃったんだぁぁぁやだぁぁぁ!!」
「セラ、っ……!」
「ラフェエル皇帝!」
セラフィールに近づこうとしたラフェエルが魔力の渦に襲われた。後ろにいたセオドアとアミィールの方に飛んでくる。
このままではアミィールにぶつかってしまう………!
「アミィ!」
セオドアはすぐさま近づこうとする。しかし、膨大な魔力の渦が前進させない。これでは、間に合わな____!
そう思った時、時間が止まった。
比喩ではない。本当に止まったんだ。浮いていた物が空中で固まっている。魔力の風も止んでいる。これは………アルティア皇妃様の時間を止める魔法………!?
セオドアはすぐさまアルティアを見る。アルティアは目を見開いて、口を開いた。
「これ…………"世界沈黙"………?いえ、違う、私たちは動けてる。でも、なんで___アミィール!」
戸惑っていたアルティアは大声を上げる。俺はすぐさまアミィールを見た。
アミィールは___否、アミィールのお腹が、薄紫色に輝いていた。
* * *
「…………!」
アミィールは自分のお腹に手を置いて驚いていた。
自分のお腹が光り始めたと思ったら、空中で固まっていた食器や食べ物が元の場所に戻っていく。泣いていたセラフィールが纏っている紅銀の光が薄紫に変わっていく。
けれど、このような力は知らない。わたくしは何もしていない。
『ママ』
「____!」
頭………否、お腹に響く声。身に覚えのある体験に思わずお腹を見た。声はか細く、小さな声で言う。
『姉、セラ、止めて』
「赤ちゃん……?」
『赤ちゃん、赤ちゃん、死んじゃう、なに?
わからない、けど、姉、泣くの、やだ』
_____貴方は、わたくしの赤ちゃんですか?
『うん、ベイビー、赤ちゃん。
ちゃんと、いるよ、見てるよ』
拙い言葉、けれどお腹の中に居た時のアドラオテルやセラフィールよりも達者な子。
アミィールはふ、と笑って薄紫色の光に包まれるセラフィールに近づく。セラフィールは黄金と緑の瞳を大きく見開いている。涙と鼻水で可愛い顔がぐちゃぐちゃだ。
「セラ、ベイビー様がセラに泣かないで、と言ってますよ」
「これ、ベイビーの魔法……?」
「ええ。そうです。セラのことを姉、と言ってます」
「ほんとっ!?」
「はい。なので………「アミィ!」……セオ様」
セラフィールと話していると、セオドア様がアドラオテルを抱いて近づいてきた。すると、セオドア様が何かを言う前に、胸のポケットにあるハンカチが薄紫色を纏って浮いた。
ふよふよと空中を泳いで、セラフィールの目を擦り始める。
「く、くすぐったいよぉ」
「ベイビー様が、泣かないで、と言っております」
「あ、アミィ、やっぱりこれは…………お腹の子が?」
「___ええ。今も『パパまで泣かないで』と言っています」
「…………ッ」
ポロポロと泣き始めるセオドアは、アドラオテルを抱えながらセラフィールとアミィールを抱き締めた。
………やっぱり、感覚が麻痺してる。
魔法を見て、安心したんだ。……龍神の血が薄まればいいと思っていたのに。
それでも、嬉しかったんだ。
ぐずぐずと泣くセオドアを、アミィールはセラフィール同様抱きしめ返したのだった。




