01 ベイビーちゃん
____妊娠中、夫が冷たい。
貴族の間ではよく聞く言葉である。それは、あまり社交界に出ないわたくしでさえ知っていた。
でも、それは仕方の無いことのように思えます。何故なら夫は男で、いくら妻が妊娠したとはいえそれでも自分に身体の変化があるわけではない。身体的実感が出来ない夫と身体の変化を顕著に感じることの出来る妻では認識の違いが起きるのは当然です。
それに、わたくしにとっては2度目の妊娠なのです。
それはとても喜ばしいことで、幸せです。それに、1度経験しているということもありアドラオテルとセラフィールの時より不安は少ないです。
でも、それ以上にわたくしが産みたくて耐えているのです。つわりも身体のだるさもお腹の子のためなら苦ではない。夫には生まれてから存分に愛を注いでもらえればそれだけでいいとわたくしは思っています。
ですので……………………
アミィールはそこまで考えて、ちらりと後ろを見る。そこには___群青色の短髪、緑色の瞳の夫、セオドア・リヴ・ライド・サクリファイス。
わたくしの肩を揉みながら、優しい笑顔を向けている。
「どうしたんだい?喉が乾いたかい?それともお手洗い?………ああ、揉む箇所が違った?」
「い、いいえ、喉は乾いてません、お手洗いも大丈夫です、肩も凝っておりません………」
「アミィ、無理をしないで。私がそばに居るから」
セオドアはそう言って優しくアミィールを抱き締める。アミィールはそれを受けながら眉を下げた。
………妊娠5ヶ月目、お腹が少しずつ大きくなってきた頃、いえ、妊娠が発覚してからずっとセオドア様はこのようにわたくしに気を使いすぎるくらい使ってくれます。
セラフィールとアドラオテルの頃は『最初の子供達だから』と思っていましたが、そうではないようです。勿論、それもあったのでしょうが………それでも、いつも以上にわたくしを大事にしてくださる。
勿論とても嬉しい。常日頃からわたくしを沢山愛してくださるセオドア様がより一層わたくしを大事にしてくださるのですもの。いつだって優しい我が君が冷たくなることなどありません。
けれど、過保護ではあると思うのです。
「セオ様、わたくしは少し身体を動かして参りますので………」
「だめだよ、この時期は逆子になりやすいから」
「…………」
アミィールはさらに眉を下げる。
………セオドア様は今、医学の勉強も行っています。『2度目の出産は子供を自分の手で取り上げたい!』と言って、ただでさえ忙しいのにまた勉強を増やしたのです。
産婆に頭を下げて、赤ちゃんの取り上げ方は勿論、血圧や脈拍、ケアまで幅広くやっているのです。セオドア様はとても優秀で真面目で……10年も共に居ればこの御方が『出来るまでやり続ける人』だとわかります。そして、言い出したことは途中で辞めることもないでしょう。
愛おしい我が君は、とても優しく優秀なのです。
ですが、それ以外にも2度目の妊娠で困っていることがあります。それは………
アミィールは視線を後ろにいるセオドアから自分のお腹に移す。そこには、満面の笑みでお腹を撫でている娘・セラフィールがいた。
セラフィールはにこにこしながら言う。
「ベイビーちゃん、今日は産まれないのですか?わたくしは早くお会いしたいです、出てきてくださいまし。
お母様、動かないでください。ベイビーちゃんがびっくりしてしまいます」
「え、ええ、わかりました………」
アミィールは引き攣った笑みを浮かべる。………このように、セラフィールはお腹の赤ちゃんに『ベイビーちゃん』と名前を付けてこうして話しかけているのです。




