01 誕生日プレゼントは
「ラフェエル皇帝様」
執務の休憩中、義息のセオドアが私の名前を呼んだ。その声が僅かに震えていて、娘が纏めた書類から目を離した。
顔を赤らめ、モジモジしている。………この義息は何かをお願いする時いつもこういう仕草をする。もう26になるというのに未だに生娘のような男である。
「………セオ、言いたいことがあるなら躊躇うな。早く言え」
「ぅ………そ、その………」
セオドアは目を泳がせながらきゅ、と目を閉じて大声を出した。
「皇城の敷地の何処かを私にくださいッ!」
「ッ!」
あまりの大声にラフェエルは耳を塞ぐ。敷地を………?この男にしては大きなものをねだったな………
そう思うと興味を持ち、セオドアを改めて見た。
「………なぜだ?」
「え、っと………その、アミィの誕生日が近いので…………あのひまわり畑のように、思い出の場所をこの大好きな皇城に作りたいのです………あっ!勿論お金は掛けません!………だめ、でしょうか?」
そう言って目を潤ませるセオドア。こういう所はセラフィールそっくりである。否、セラフィールがこの男に似たのだ。つまりはとても女らしい顔をしているということだ。
それはともかく、これでダメだと言ったらこの男は凹むだろう。この男が凹むと城の従者達の士気も下がる。とはいえ皇城にこれ以上土地など………ひとつしかない。
「………手付かずの土地はある。そこを使っても良い」
「!本当ですか!?」
「ああ。………しかし、妙な土地なのだが、いいのか?」
「妙な土地………?」
セオドアは首を傾げる。ラフェエルは頷いてから書類を改めて見た。
「ああ。その土地は___初代サクリファイス大帝国皇帝が城下町にあるひまわり畑で有名な初代皇妃と出会った場所だ。
初代皇妃は『ユートピアではない世界』の王族だったらしい。………あの場所は、その『ユートピアではない世界』と『ユートピア』の境界線だ、と皇族は教えられる」
「そ、そんな場所、頂いていいのですか………!?」
セオドアは震え上がる。しかし、ラフェエルはつまらなそうに言った。
「………あの場所を取り壊そうとすると様々な怪奇現象が起こる。酷い時は死者が出るほどのな。
そこをどうにかできるのなら、好きに使っていい」
「……………」
セオドアは言葉をなくす。
サラッと死者が出るとか怪奇現象とか言われたんだが……………とはいえ、ラフェエル皇帝様がそこを勧めてきたということは、場所はそこしかないのだろう。何かあったら即座にやめよう…………
* * *
次の日
「わぁ……………………」
「……………」
「凄い、ですね………」
セオドアは息子のアドラオテルとアドラオテルの側近・ヨウを連れてラフェエルが教えてくれた敷地に来ていた。
一言で言えば森。たくさんの木々、その中心には大きな大木がある。そして、その前には大きな穴…………というか、池があった形跡がある。
なんというか、前世で世界遺産になってそうな世界観だ。ここだけ時代が止まっているような…………
………アミィールとの思い出の場所。
それはヴァリアース大国にある俺たちの初デート場所だ。季節を忘れ花が咲き誇り、大木があり、泉がある。大切な場所なのだが、滅多に行けない。
だから、この誕生日の機会にそこを模した場所を作りたいのだ。
そりゃあ、正確に言えばその場所じゃないけれど、義母のアルティア皇妃様は城下町にあるひまわり畑を皇城に作ったと聞いて、羨ましいと思ったから。




