06 クッキン………グ?
「セオドア様、なりません。御子達が初めてあなたにプレゼントをしたいと言っているのですよ」
「う………」
レイの言葉にセオドアは怯む。確かに、そうだ。俺の誕生日をいつの間にか知っていただけでも嬉しかったのに、俺のためにプレゼントを作ろうとしてくれてるんだぞ?止めていいものなのか………?
迷い始めるセオドアに追い打ちをかけるようにエンダーが口を開く。
「アミィール様の手元にはレシピがあります。わたくしに頭を下げてまで所望したんですよ?それを無下になさるのですか」
「う、うぐぅ………」
「セオくん…………やらせるだけ、やらせてみましょう」
「……………」
セオドアは結局押しに負けて、肩を落としたのだった。
* * *
「はじめましょうか」
「おー!」
「うう………」
「…………」
そんなこんなで見守ることを決めたセオドアとアルティア、側近達はバレるのを避けるために少し距離を取って、アルティアの完全防音完備の結界から覗くことにした。手は出してならない。これは俺へのプレゼントなのだから。俺は口を出してはならない、ありがたく貰うんだ………
そう思いつつもハラハラするセオドアに気づかないアミィールはレシピを見始める。
「まずバターを練って、砂糖を加えるのですね。
ママがやっていいですか?」
「母ちゃん!やっちゃって!」
「う、うん……」
セオドアはその様子を見ながら少しだけ安堵する。アミィールと子供達が難しいものを作らないのを前提に考えたらあの工程はクッキーだ。火をあまり使わないし大丈夫だろう…………
「では………えいっ!」
「アミィール!?」
アミィールはバターを全部ボールに叩きつけた。セオドアは慌ててエンダーに聞く。
「エンダー!レシピにちゃんとグラム数書いたか!?」
「書いてあります。しかし、あれは確実に目が節穴のようです………」
それにしたって丸ごとはないだろ!?アミィールさん!?
そんな戸惑うセオドアをよそに子供達は声を上げる。
「お、お母様……それは__「母ちゃん!間違ってるぞ!」アド?」
「砂糖足りなすぎだぞ!こうだぞ!」
「アド!?」
アドラオテルは砂糖の入った袋を逆さにして大量の砂糖を入れた。さながら前世の世界にあったナイアガラの滝の様に砂糖を入れている。アドラオテルはにこにこしながら言った。
「父ちゃんが"お菓子には沢山砂糖が入ってるんだよな……"って言いながら食べてたもんね、きっとこう!」
いやいや!限度がある!限度があるんだ!アド!
そんな心のツッコミをするセオドアを他所にアルティアは頭を抱えた。
「アミィールに似ちゃったのね、アドは………あの子ったらいつも適当だから……」
「そんな呑気なことを言ってられませんよ!なんでアミィに料理を教えなかったんですか!」
「だって私も同じだから、焼けば全部食べれると思ってるのよね~」
「皇妃なのにサバイバル感強すぎですッ!」
「それよりまた動き出したわよ」
アルティアは扉の向こうを指さす。アミィールとアドラオテルがニコニコしながら動いている。
「じゃあ俺卵いれるー!」
そう言ってアドラオテルは卵を片手で割る。割るというか潰してる。殻が生地に落ちてる、落ちてる!
「生地はさっくり混ぜます!」
そう言って調理台ごとさっくり切り裂いた。………って、調理台ごと!?というかダーインスレイヴを持ってる!?
「母ちゃん!この粉なに!?」
「必要なものかもしれませんわ、入れましょう」
「なんか煙が出たぞー!」
「あらまあ凄いですね。……次は焼くのでしょうか?オーブンは………直火でもいいでしょうか………」