05 夜
PM 8:00
「えっとー!これ!……やった、ペア~!」
「また、ビリ……ぐずっ」
「セラ、泣かないでくださいまし」
「そうだよ、パパも沢山負けたから一緒だね」
………この時間は家族の時間です。家族で集まれるのは夜だけで、それもアミィールが仕事を終え、お風呂に入ってからなので少し遅めです。今日は家族でトランプをしています。
アドラオテルは泣いてるセラフィールを小馬鹿にするように言う。
「父ちゃんもセラもわかりやすいんだよな~、どこにババがあるのかわかっちゃう。ねえ、母ちゃん」
「ふふっ、そこが可愛いのではないですか」
「あ、アミィとアドが強すぎるんだよ。ねえセラ?」
「お母様もアドも隠し事が上手いです………次は!神経衰弱をやりましょう!」
「セラが勝つからやだ~。大富豪がいい~」
「ふふっ、ドボンでもいいですわね」
………3人が言っているトランプゲームはこの世界にはない遊びですが、父親は前世で日本人だったのでこういう遊びを子供たちに教えた結果、みんなが楽しく遊べるようになりました。
広めたセオドアはにこやかに言う。
「アドのやりたいって言ってたババ抜きはしたんだから、次はセラのしたい神経衰弱だ。アミィのドボンもやろうね」
………まあ、全部俺は1位になったことがないんだが………
セオドアは少しだけ凹む。頭を使うゲームは圧倒的にアミィールが勝つし、記憶力系はセラフィールが断トツだし、アドラオテルは運に恵まれているから……あれ、俺父親で夫なんだよな……?実は違ったりするのか………?
セオドアはそんなことを思いながら神経衰弱の準備をしたのだった。
* * *
PM 10:00
「アド、セラ、寝るよー」
「はーい」
「えー」
「アドも寝るのです、絵本を読んであげますよ」
「寝る!」
絵本、という言葉に食いついたアドラオテルは父親と母親のいる寝室のベッドに飛び乗る。柔らかいベッドはアドラオテルのお気に入りです。
今日はアミィールがアドラオテルに、セオドアがセラフィールに絵本を読んであげるようです。勿論日によって違います。今日の絵本はやっぱり異世界転生したセオドアとアルティアが子供達のために特注した『桃太郎』です。
サクリファイス大帝国にも色々な絵本がありますが、アドラオテルは2人が作った絵本の方が大好きなのです。
「むかーしむかし、おじいさんとおばあさんが………」
優しい声の音読に、アドラオテルは落ち着く。………この時間、嫌いじゃない。
そんなことを思いながら、うとうとするアドラオテル。アミィールは優しくその群青色の髪を撫でる。その優しい手に、アドラオテルは目を閉じてそれを感じながら意識を手放した。
___アドラオテル・リヴ・レドルド・サクリファイス。
奇天烈で滅茶苦茶で意地が悪い。
でも、それ以外は普通の愛されて育つ男の子なのでした。
Fin .