05 ※皇配には隠し事は通用しません
二人で話してると、執務室が勢いよく開いた。扉の先にはアドラオテルが。
「お菓子にしようぜ!クッキー!プレゼント!」
「お菓子………?ですが、お父様のお菓子の方がきっと美味しいです………」
すっかり消極的になってしまったセラフィールはぐずぐずと泣きながらそう言う。しかし、アドラオテルは満面の笑みで返す。
「なら父ちゃんより美味いクッキー作ればいいんだよ!」
「そんなことできるわけ………」
「セラ、やりましょう。わたくしもお手伝いしますので」
「………」
にっこりと笑うお母様に、わたくしは何も言えなくなって。アドラオテルもやる気満々だ。
わたくしに、できるかしら…………
セラフィールはぐず、と鼻を啜りながら不安になった。
* * *
廊下にて
「………………これは、まずいな………」
廊下で一部始終を見ていたレイは狼狽えた。子供達はともかくアミィール様がクッキーを……
レイは今までのアミィールを思い出す。
セオドア専用キッチンで爆発を起こし、セオドアの部屋のキッチンの鍋を爆発させ、黒焦げのキッチン、物体を生み出す事に長けたアミィール様がクッキーを…………
レイは1人、震えたのだった。
* * *
誕生日、当日
「クッキー作り!するぞー!」
青いエプロン、三角巾を装備したアドラオテルは城の厨房の真ん中で嬉嬉として拳を挙げた。それを見たピンクのエプロンをつけ一つ結びをしたアミィールはくすくす笑った。
「ええ。頑張りましょうね、アド。
セラもですよ?」
「………はい」
緑のエプロン、三角巾を着けたセラフィールは涙目だ。未だに父親と同じレベルのクッキーを作れるか不安なのだ。
………お父様は今、おばあ様の計らいで城を出ています。見つかる前にクッキーを作り上げなければ………
緊張と不安で涙目のセラフィール、珍しくドレスを着ておめかししたアミィール、やる気満々のアドラオテル………3人を扉の隙間から見守る男女が2人。
「……………エンダー、やはり止めた方がいいと思うか?」
レイは狼狽えながら女に話しかける。エンダーは頭を抱えていた。
「止めたらあのずぼら皇女に殺されますよ。貴方はわたくしを残して死にたいのですか」
「………そういう訳じゃないが………アミィール様はそもそもレシピがわかるのか?」
「一応渡しましたが………どうでしょうね」
「…………何をしているんだい?」
「セオドアの誕生日プレゼントの無事を確認____!」
不意にした声に答えた。けど、話している途中に気づく。この声はエンダーではなく………よーーーく聞き慣れた声。
レイとエンダーが振り返ると___セオドアが立っていた。
* * *
最近、子供達の様子がおかしかった。
ひたすら「プレゼントは何が欲しい?」と聞かれたり、セラフィールは頭を抱えてたり、アドラオテルは「これはいらない?」と鼻をかんだテッシュやら変形させたハンガーやら見せてきてた。
で、今日。アルティア皇妃が突然仕事をいれてきた。そして丁度今日は…………俺の誕生日なのだ。それで気づいた。
勿論嬉しい。気持ちだけでも嬉しい。
あげることはあれど貰うことはあまりないから舞い上がっていた。
………アルティア皇妃様の一言さえ無ければ。
「せ、セオドア様、な、なぜいらっしゃるのですか?」
驚きのあまり挙動不審になるレイ。エンダーも黒い目を見開いている。当然といえば当然だ。俺の代わりに口を開いてくれたのは後ろに立つアルティア皇妃様だった。
「ご、ごめ~ん、レイくん、エンダー。ついうっかり"城が爆発しないかしら"って言っちゃって………」
「…………」
「…………」
そうなのだ。城が爆発する可能性はひとつしかない。アミィールが料理することだ。それで仕事をすぐさま調整して戻ってきた。
………とにかく、止めなければ。
そう思ったセオドアが動く前に、レイとエンダーが前に立ちはだかった。