02 準備は整った
「___こうして、2人は今も幸せに暮らしていますとさ。
おしまい」
ターがそう言うと、アドラオテルはその場に座り込んだ。
「っぷは~!疲れたぞ~」
「おいアドラオテル!すぐ座るなよ!」
「ヨウちゃん怒んないでよ~、で、これでいいの?ナナちゃん」
アドラオテルはギャンギャン怒るヨウを放ってナナを見た。ナナはにっこり笑って指で輪っかを作った。
「ええ、最高よ!やっぱりナナたちは天才だわ!"こうする"だけでグッとインパクトがあるし!ストーリーも中々の出来じゃない!
だから泣かないの!セラ!」
「うう………」
セラフィールはその場でグズグズと泣いていた。それは劇の内容が素晴らしくて、だ。やってて楽しくて、自分でやって自分で感動している。
そんなセラフィールを他所に、チョウは言う。
「………ストーリーはこれでよし、演出の担当はサイスくんがしっかりやって、ターくんも泣かずに原稿を読めた………いいね」
「チョウ、服、どうなった?」
サイスのカタコトの言葉に、チョウはに、と笑った。
「だいじょうぶ………ちゃんとできた。あとは………「後は私の役目ね」………あ、アルおばちゃん」
チョウの話を遮ったのは___アルティアだった。それはもうニコニコしている。それに気づいたヨウとナナは目を輝かせて近づく。
「アル様!いつからいらっしゃったのですか!」
「ヨウちゃんがアドを怒ってる時からよ~。いや~うちの孫がお世話になってえ」
「それよりもアルおばちゃん!例のもの!予算内に収まった!?」
予算___それは孤児達に与えられた『お遊戯会』用のお金の事だ。現金配布ではなく、劇に必要なものを申請して、決められた金額以内であれば用意するというものである。余談だが、このお金は皇族のお金ではなくセオドアとアルティアが経営して稼いだお金から出ている。
アルティアは腕を使って大きな丸を作った。
「バッチリよ!予算ギリギリでしっかり購入しといたわ!今渡した方がいい?」
「いいえ、セオお兄ちゃんに見つかっちゃうから当日で!」
「おっけー!………で、どうどう?劇の進捗は?」
アルティアはにやにやしながらナナに聞く。同じくナナもにやにやしながら答える。
「バッチリですわ………劇場に来た貴族達は度肝を抜かすでしょうね……ふふふ」
「本当に頼むわよ~、1発ぶちかましてちょうだいね。なんたって私だって内容しか知らないんだから!」
「当たり前です!ねえセラ」
「うう、おばあ様………わたくし、怖いです」
「怖がるよりも楽しみなさい!やってみればきっと楽しいわ!」
「そうだぞー!」
アルティアの言葉に、怠けていたアドラオテルはどーんと言い切る。セラフィールはそれを見てはあ、と溜息をついた。
* * *
『お遊戯会』前日
「…………なあ、アド。教えてくれ」
「やだ」
「アド、おじい様の質問に答えなさい」
「やだ」
いつもの食事会。父親陣はアドラオテルに詰め寄っていた。アドラオテルは涙目のセラフィールの口を小さな手で抑えながら素知らぬ顔でデザートのチョコケーキを食べている。
父親陣の聞きたいことはただ一つだ。
それはアミィールも知りたいことで、アドラオテルに向けて言葉を放った。
「アド、どうかお教えください。
明日の劇は何をやるのですか?」
「や~だ~教えな~い」
「…………」
「…………」
「…………」
「ぶっひゃっひゃっひゃっ!」
3人が黙る中、皇妃とは思えないアルティアの笑い声が響く。その中でもアドラオテルは頑なにセラフィールの口を抑えてツンと顔を背けている。
アルティアはそれを見ながら思う。
はー面白い。考えられます?皇帝と皇女と皇配が子供達に頭を下げて明日の劇を聞きたがっているのよ?本当に親バカで孫バカである。
とはいえ、アドラオテルは絶対言わないだろう。私にだってしばらく隠していたのよ?どうしても劇に使う物を頼む為にしぶしぶお願いしてきて、担当してるのに内容しか教えてくれないのだもの。鉄壁だ。
こういう時助けるのはお婆ちゃんの役目よね。
「ラフェー、アミィ、セオくん。やめなさいよ~。どうせ明日見るんだから、明日の楽しみにしておきなさい」
「ならお母様、貴方が教えてください」
「守秘義務で~す」
「私は企画を考えたのですよ?」
「でも担当が違うので。血が繋がっててもプライバシーは守られるべきだわ」
「屁理屈をこねないで教えろ」
「皇帝様は黙って明日を楽しみにしていてくださいませ~。
ねえ、アド、セラ」
「そうだぞ!明日のお楽しみだぞ!」
「え、ええ。わたくしは、明日見て欲しい、です……」
「………」
「………」
「………」
セラフィールの涙目に何も聞けなくなる親バカ&孫バカでした。