03 天使、初めてのお風呂 #1
………可愛いと思ったとはいえ、だ。
セオドアは顔を引き攣らせながら、足元にいるセラフィールを見た。セラフィールはもう泣いていない代わりに頬を膨らませていた。
理由?それは………
「わたくしは1人でお風呂に入りますゆえ、お父様は向こうでお寛ぎください!」
「……………」
…………俺の部屋に来たセラフィールはずっとこう言っているのだ。やはり真面目なセラフィール。どうしても自分でやると聞かないのだ。
セオドアはできる限り優しい声で言う。
「せ、セラ………?パパもお風呂入りたいんだよな。だから一緒に「わたくしは淑女なのです!殿方とお風呂にははいれません!」…………」
と、この一点張りである。
一昨日まで一緒に入っていたのに、急に「パパとお風呂にはいりません!」を経験している。すごく寂しいのもあるけど、それ以上に心配である。
とはいえ、だ。
これ以上俺が説得しても頑固なセラフィールは聞き入れないだろう。こういう時は………
セオドアはふう、と息を吐き出して、困った笑顔を見せた。
「…………わかった、でも、出来なかったらすぐパパを呼ぶんだよ?」
「………!はい!」
セラフィールはそう言って笑顔になる。俺は浴室を出る…………ふりをして、浴室の外から覗いた。
もう方法はこれしかないのだ。せめて溺れたり転んだりしないように見張らねば………!
「セオドア、どうした?」
「しーっ!セラにバレるから話しかけるな!」
「もがっ」
セオドアはレイの口を手で塞いで、浴室を見た。1人残されたセラフィールは気づいてないらしく、服を脱ごうとしている…………のだが。
「んう…………」
「………」
「………」
セラフィールはドレスを脱ぐのに手間取っている。今日の服は俺が作った代物で、花の精を意識した緑のフリフリドレスだ。ゆったりと大きめに作ったものだから脱ぐのは難しくない。普通に脱げば脱げるのだが、セラフィールはぷるぷると震えながら装飾のボタンを丁寧に外している。
こ、これは……長期戦になる気がする………
セオドアはハラハラしながらそれを見守っていた。
* * *
「お、お風呂です!」
30分後、やっと服を脱いだセラフィールはバスルームに入った。セオドアとレイは隠れて見ている。
「………セオドア、侍女を連れてきた方がいいのではないか?」
「いや、セラはさっきも追い返していた。多分呼んでもまた追い返される。………や、やらせるだけ、やらせてみよう……」
セオドアの声は震えている。………こいつなりに我慢しているのか……
レイはそんなことを思いながら、バスルームに目を向けた。セラフィールは石鹸を持っている。
「えっと、まずは頭を洗わなければ」
「え」
「は?」
セオドアとレイは声を漏らしてしまう。
いやだって、それは石鹸……目の前にセイレーン皇国の聖女で俺と同じく異世界転生者のフラン様が開発して毎月くれるシャンプーがあるのに………
しかしセラフィールは真剣で、石鹸を泡立て始めた。しかし水を使っていないからちゃんと泡立たない。何度も触って泡とは言えないほど少量の石鹸で髪の毛をぐちゃぐちゃする。もちろん、泡立ってないからただぐちゃぐちゃしてるだけ。
「あれは、洗えている……のか?どう思う、レイ」
「洗えているわけがないだろ、綺麗な御髪がぐちゃぐちゃだぞ」
そんな戸惑う大人達を他所に、次はスポンジで擦り始めた。石鹸をつけていない。しかし頑張ってゴシゴシしている。
「あぁぁ、あんな洗い方ではセラの綺麗なもっちり肌が………」
「いや、それよりも洗えていないことに気づけ。………あれは洗っているつもり、なのか………?」
「?泡が出ません、何故でしょう………?」
そんな大人たちの会話が聞こえてないセラフィールは首を傾げる。お父様やお母様がやるともこもこのわたあめのような泡ができるのに………髪の毛もベタベタしてます。
………いいえ、きっとわたくしはお父様やお母様に甘えてしっかり見ていなかったからこうなっているのです。お風呂から上がったらまた考えましょう。




