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02 父親の心配

 




 「うーん………」



 ぽつぽつと雨が降る音を聞きながら、セオドアは自室のソファに座りながらセラフィールと同じように頭を抱えていた。それを見ていた執事のレイが話しかける。



 「セオドア、どうした?顔が固いぞ。

 雨も降り始めてきたし、また偏頭痛か?」



 「いいや、違うんだ。………セラフィールが心配でな」



 セオドアは眉を下げてそう言った。

 ………そうなのだ。セラフィールは『今日からお父様やお母様の執務の邪魔をしないよう部屋にて過ごします!』と言って部屋に篭っているのだ。



 一昨日セラフィールが言った「自立します!」は本気なのはよく伝わってくる。けれども、まだ5歳なのだ。


 前世では5歳で自分の部屋を持つなんてよくある話だし、そう心配することはないだろうが………セラフィールとなると話は別だ。



 アドラオテルを軽視している訳では無い。アドラオテルはアドラオテルで破天荒で滅茶苦茶な性格だから心配は尽きないが、それでもセラフィールを心配してしまう。



 セラフィールはとても真面目な性格だ。そして、責任感が強すぎるから『全部やらなきゃ』と気負いするだろう。先程、侍女にそれとなくセラフィールの様子を見てあげてくれ、と言ったがセラフィールはそれを固辞したらしい。



 自立しようと5歳で決意するのは親として嬉しいことだが、それよりも心配してしまう。



 「………セオドア」



 「なんだ?」



 「全部口に出てる」



 「あ」



 セオドアは自分の口を手で覆う。また思考が口に出てしまったな…………

 そう赤くする主人に、レイははあ、とため息をついた。



 「お前は心配性過ぎる。セラフィール様は歳のわりにはしっかりしているし、アドラオテル様は男子だぞ」



 「子を持つ親は心配なんだよ。レイもいつかわかるさ。全部不安になるから」



 「どうだかな。……それはともかく、セラフィール様の部屋には風呂はまだついてないんだろ?」



 「ああ。一応設置してあるが、勝手に入って溺れないように小さいうちは俺の部屋かアミィの部屋で身体を洗うことにしている」


 「なら、早くいれてやれ。もう夕方だ」



 「そうだな………セラフィールの部屋に行こう」



 セオドアは立ち上がって、自室を出たのだった。




 * * *




 「ひっく、ひっく………」




 その頃、セラフィールは泣いていた。

 なぜなら___備え付けられた浴室のお湯が出ないからだ。



 わたくしはお風呂も貯められません。蛇口を捻ってもお水が出ないということはなにか手順を間違っているのでしょう。わたくしは5年間何を見てきたのか………



 侍女や隣の部屋に居るであろうお父様に聞くべきかしら……?でも、それは自立じゃありません。



 こうなったら水魔法で水を張るしか____!



 そんなことを思っていると、コンコン、とノック音がした。それを聞いたセラフィールは浴室から出て急いで涙を拭いた。




 「ど、どうぞ!」



 「はいるよ、セラ」



 「お父様……!」




 部屋に入ってきたのは群青色の短髪、緑色の瞳のセオドア・リヴ・ライド・サクリファイスだった。セラフィールは抱きつきたい気持ちをぐ、と我慢して下を向く。



 「そろそろお風呂の時間………セラ?どうしたんだい?」



 「わ、わたくしは部屋のお風呂に入りますゆえ、お気になさらず。今から水魔法でバスタブにお水を………」



 「…………」



 「なので………きゃっ!」



 そう言ってふるふると震えるセラフィールを見て、セオドアは無言で抱き上げる。びっくりしたセラフィールはセオドアを見た。



 セオドアはいつもの優しい笑顔で、いつの間にか頬を伝っていた涙を掬ってくれた。



 「セラ、この部屋はね、まだお風呂が使えないんだよ。だから蛇口から水がでないんだ。


 お水が出るまで、パパとママの部屋ではいろうね」



 「……!ですが、それでは自立になりません!」



 「自分で浴槽にお水をいれようとしたのは立派な自立だよ。偉いね、セラ」



 「ッ……」



 セオドアに優しく抱き締められて、セラフィールは静かに泣いた。


 …………本当に可愛い子だなあ。




 セオドアはしみじみ思ったのでした。














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