04 リンドブルム孤児院 #とは
ナナは工作の時間に作った手作りのセンスで口元を隠しながら含みのある声で言う。
「ハイセお兄さま?この場所をナナたち年中組に貸してくださらない?それが嫌でしたら年中組の女子全員の旦那役をお願いしたいのですが?ねえ、セラ」
「ハイセ様、どうか場所を貸してくださりませんか……?」
「~ッ!お前ら!今からセオお兄ちゃんと共に鍛錬しようぜ!」
「お、おお………!」
「行こうぜ………」
セラフィールの上目遣いに顔を赤くしたハイセはそれだけ言葉を吐いて広間を出ていった。
アドラオテル達だけが残ると、ナナはふう、と溜息をついた。
「本当に他愛のない人。……ヨウくんたち、大丈夫?」
「あ、ありがとう、ナナちゃん、セラちゃん、皆」
ヨウが顔を引き攣らせながらお礼を言うとナナはにっこり笑った。
「ナナはただおままごとしたかっただけよ。それよりもアンタ達はどうしてサッカーで勝負をつけようと思ったのよ。
そりゃあアンタ達なら勝てるだろうけど、その後きっとハイセお兄ちゃん達は意地悪をするわ」
「で、でも、………僕達だってサッカーしたかったし……」
ターがじわり、と涙を滲ませるとナナは大きく溜息をついた。
「馬鹿狸はそう思うならいちいち泣かないの。だからいじめられちゃうのよ」
「ナナちゃん、それは言い過ぎですわ」
「セラも優しすぎ。男は強くなくちゃ。大体………」
そんな会話をしている2人を横目にアドラオテル達は目配せをする。そして、そろりそろりと自分達も距離を取って別の場所に___「アドちゃん、ヨウくん、ターくん、チョウくん、サイスくん。
どこに行くのかしら?」
名前を呼ばれて5人はびく、と肩を揺らした。振り返らずに言葉をそれぞれ紡ぐ。
「え、えっとぉ…………俺達次は粘土やりたいなぁ~って」
「ぼ、僕はサクリファイスの歴史の勉強をしなきゃ……」
「ぼ、ぼぼぼ、僕は……その………」
「…………図書室に、本を返しに………」
「セオ様、花壇、水………」
そこまで聞いたところでナナはパァン、とセンスを自分の掌にあてて大きな音を立てた。
「話は聞いてたわよね?私達はおままごとをしたいのよ。でも、男の子が居ないとお父さん役とか子供役とか旦那役とか猫役とかいなくて現実味が無くなるのよねえ?
それに助けて貰っておいて逃げ出すなんて紳士のやることではないわ。広間は広いし1つの街が出来ちゃいそう。
みんな~、アドちゃんの身体はひとつしかないから10分置きにそれぞれの家の旦那になるからね~それまではほかの男子で我慢するよーにー」
「「「「はーい!」」」」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
______リンドブルム孤児院。
総勢500人の様々な問題を抱える孤児達の家で、学校で、社会である。
年少、年中、年長と組が基本別れている。そこでいじめや差別は確かにある。
けれどもそれ以上に大人達の目が届かない所を女子が支配する不平等社会でもあるのだ……………。
5人はそう実感しながら、震えたのだった。
* * *
孤児院の帰り
「アド、どうしたんだい?そんなにボロボロになって………」
馬車の中、父親のセオドア・リヴ・ライド・サクリファイスは首を傾げて息子を見ていた。
息子___アドラオテルは着ていた服の所々が解れて、顔には赤い点々がついて、砂埃を被っている。そして魂の抜けたような顔で馬車の天井を見ている。
「聞こえてないわね。どうしたのかしら。……セラ、知らない?」
「う、う~ん、わたくしは、知りません」
セラフィールは苦笑いしながら答える。
………言えない。アドラオテルがおままごとで女子達に揉みくちゃにされていたなんて………本当は仲良し………なんだよね?
「………俺、やっぱり20歳以上の女の子としか付き合わない………」
アドラオテルは譫言のようにその言葉を繰り返したのだった。
Fin .