09 未だ花が咲き誇る花壇
国立ヴァリアース学園。
俺が転生した『理想郷の宝石』の主人公が通う貴族の学校で、乙女ゲームのようなギャルゲー生活を送った場所。
そして____アミィールと出会った、場所。
馬車から出て、校門の前に立つ。
もう10年も前に通っていた学校なのだが、あまり変わっていないようだ。
それを見てほ、と胸を撫で下ろすセオドアをよそに、子供たちは馬車を降りた。
「此処が父ちゃんと母ちゃんが出会った場所かー!」
「おっきー!」
「ええ。そうですよ。………懐かしいですね、セオ様」
「………うん」
「セラ、レイ、行こーぜ!」
「待ってよ!アド!」
「先に行っております」
レイは小さな2人を追い掛ける。
アミィールはそ、とセオドアの背を押した。
「………セオ様、行きましょう?」
「ああ、……行こう」
俺達は大きな校門をくぐった。
* * *
週末だからか、生徒の姿はほとんど無かった。ちらほらと見える生徒は身分の低い子供達だろう。俺達が通っていた時もそうだったけど、身分制度は厳しく、爵位の低い者は週末の短い時間しか先生は見てくれない。
当時も今もそういう所ばかり変わらなくて嫌だったな…………
そこまで考えて、首を振った。そしてアミィールに声を掛ける。
「子供達はどこまで行ったんだろうね。レイがついてるから不安ではないけれど………」
「そうですね、早く探し___あ」
「ん?どうしたんだ…………い?」
ぴたり、とアミィールの足が止まった。そして、ある場所を凝視していた。俺も足を止めて視線を追う。
そこには___沢山の花が咲いてる小さな花壇。大きな木。そして。
制服を着た沢山の男女が花壇の手入れをしていた。
あそこは_____俺のお気に入りの花壇で、アミィールが俺を見初めてくれたという場所。
そこに沢山の生徒が集まっているのだ。昔は目立たない場所だったのに………
そんなことを思っていると、横を通り過ぎた男女の会話が聞こえた。
「ねえ、いつもあそこに男女が集まっているけど、どうして?」
「知らないの?あの花壇はこの学校の卒業生のセオドア様とアミィール様が想いを重ねていた場所で有名なのよ。
あそこで花の世話をすると、永遠に結ばれるんだって。
わたくし達もしましょうよ」
「いいね、いこっか」
「…………」
「…………」
セオドアとアミィールは真っ赤になって黙る。
そ、そんな噂が………いや!確かに当時は毎日花壇の世話を一緒にしてたけど!もう10年前の話だぞ!?というか変装しているとはいえ本人の耳に入るところで言うか!?
混乱状態になるセオドアを他所に、アミィールはくすくすと小さく笑う。
「………ふふ、セオ様、お顔が真っ赤です」
「あ、アミィだって赤いよ」
「知ってます。……恥ずかしいけれど、それ以上に………嬉しくて」
「………嬉しい?」
セオドアが聞き返すと、アミィールは小さく頷いた。
「わたくし達の思い出の場所にまだ、花が咲いてます。壊されることなく、それどころかあんなに大切に育てられてて……
わたくしはあそこで、セオ様を好きになりました。そして、あそこで想いを重ねて………今、此処に2人で居ます。
とても、とても嬉しいのです」
「……………」
アミィールはそう言って本当に嬉しそうに笑う。それを見て………また愛おしさが溢れた。
こんな些細な事でこんなにも喜んでいるこの御方が愛らしい。それを見てるだけで幸せになる。