04 "アース"という称号
「旦那様!……はあ、あの御方は………セオドア様、アミィール様。医者をお呼びした方がよろしいでしょうか」
「お気遣いありがとうございます。けれど………」
アミィールが言いづらそうにしている。それはそうだ。ただのくしゃみに医者を呼んでいたらキリがない。こういう時こそ俺が言わなければ。
「要らないです。………私の父が本当にご迷惑をおかけしています、レオナルド様」
「もう慣れました。でしたら、まずは家に入りましょう。セオドア様、お荷物を」
「ありがとうございます。アミィ、行こう」
「ええ」
俺達はレオナルドの後を追うように歩き出す。未だ慣れない広すぎる庭を見て歩きながら疑問を聞くことにした。
「レオナルド様、何故このように家が広く………?」
「それはエリアス女王陛下様の計らいです。
セシル様はあのように孫の事ばかり考えておりますが宰相の務めを果たしております。
セフィア様も騎士団長としてサクリファイス大帝国と連携しヴァリアース南部の諸国の内乱を止めたという武功を挙げました。
そしてセオドア様がサクリファイス大帝国とヴァリアースの架け橋になって下さり各国の服やお菓子などを豊かにして下さる………今、オーファン公爵家はヴァリアース大国の歴史史上初の"アース"という称号を与えられてます」
「アース?」
セオドアは首をかしげる。アースって………なんだ?称号?そんなの手紙に書いてなかったが………
そんな疑問に答えたのはレオナルドではなく、アミィールだった。
「称号というのは、たくさんの功績を残した家に与える権利で、名前にヴァリアースの"アース"という名を加える事の出来るのです。それ故に、王族の次に発言力のある家柄ということになります。
なので、今オーファン家はライド・オーファンではなく、ライド・アース・オーファンと名乗っておりますわ」
「へえ……」
なんというか、某悪役令嬢漫画のような設定だなとぼんやりと思った。それしか感想を抱けないというか。
父はファーマメント王国の王にならないか?と聞いたら「ヴァリアースを放っておけない!王など私に務まらない!そもそも大天使ではなく人間だ!」と豪語したほど愛国主義者で、半ば趣味のように宰相をしている。
兄のセフィアは鍛錬と武器、それにまつわる歴史オタクで、そのオタクが行き過ぎた延長で剣士をやっているし、俺は架け橋という気持ちではなくアミィールに恋してこうして共に居るだけだ。
凄いことなのだろうが、ピンと来ない。それぞれが勝手に好きなことをしてるだけなんだがな………
顎に手を添えて考え込むセオドアをレオナルドは盗み見ていた。セオドアのこの様子じゃきっと知らないのだろう。
その称号制度を取り入れると進言したのは自分の隣でにこにこしているサクリファイス大帝国皇女のアミィール様だと言うことを…………。
アミィール様は家柄制度を撤廃しようとしていて有名だ。着実に進んでいると言われているが貴族達はそれを嫌がって聞き入れない。だからせめて撤廃するまでオーファン家が貶められないよう配慮したのだ。
ここまで溺愛されているのは逆に凄い。幼い頃からセオドア様を見てきたけど、自分の遊び人な子供よりも立派だと認識している。その人柄故の結果だと分かっていても凄いと思う。
最も、そうでなくとも長年オーファン家は優秀な人材を排出してきたにも関わらず内気で引っ込み思案かつ地位などにまるで興味が無い故に貶められて来たのだからされて当然の配慮だと認識しているが。
レオナルドはそこまで考えて、また口を開いた。