現実逃避
番組を聴きながら爪を切っていた時、そのメッセージは読まれた。
DJさんはまずメッセージを読み上げて、こう言った。
「すごい親孝行ですね!修行頑張ってください!いつかラーメン屋を引き継いだ時は食べに行きますね!」
俺は背中を押された気分で嬉しかった。
本当は親孝行なんてやってなくて、頑張ってもいなかったが、1人の人間として見てもらえてることが、なにより嬉しかった。
だが、続けて読まれたメッセージを聴いて、俺は罪悪感でいっぱいになった。
『DJさんこんばんは。仕事トークをしたいのは山々なんですが、僕はプー太郎です。不登校のまま中学を卒業して、そのまま進学せずに引きこもっています。テーマについて話すネタがないのに送ってすいません。』
「えーとですね。まず正直なメッセージありがとうございます。これはすごく勇気がいることです。人生という物語は、正直な気持ちと向き合い、正直な言葉で話すことで前に進んで行くと私は思います。あなたが送ったこのメッセージは、あなたを良い方向へ導いて行くと思います。メッセージと言うのは10人10色でいいんですよ。次は、いつでも良いのであなたはこれから何をしたいのか、正直なメッセージを送ってください。楽しみにしてますよ。」
俺は嘘をついてメッセージを送ったことを後悔した。
嘘のメッセージで認めて貰っても意味はないよな…
俺が本当に掛けてもらいたかった言葉はこれなのかもしれない。プライドなのか現実逃避なのか、どっちにしろ俺は情けないなと思った。多分メッセージ送ったこの子は、俺より年下だ。その子が正直に送ったのに俺は…
それにしても良いことを聞いたと思った。
正直に話せば前に進む…か…
俺の人生はずっと停滞期だ。半信半疑だが、これがもし前に進むなら、その少しの希望に俺は賭けてみようと思った。
ラジオに送る嘘のメッセージが、現実逃避なら、正直な気持ちを書いたメッセージは現実だ。
現実逃避を続けてきた俺は、ラジオを使って現実と向き合おう、そう誓った。