事故物件クリーナー6
事故物件クリーナーは楽な仕事だ。
契約で決められた期間、部屋に居座ってるだけで報酬がもらえる。
契約満了の期限が迫り始めたある日、俺はユウさんの分の缶ビールをローテーブルに手向け、紙皿にツマミをあけて酒盛りしていた。
「越したくねえな……」
色んな部屋を転々としていたが、こんなに頻繁に霊現象がおこるのも、おこした相手に情が移っちまうのも初めてだ。
今じゃすっかり二人で動画を観るのが習慣になった。
ユウさんが大好きな動物の赤ちゃん動画、中でもパンダの画像は俺のブクマを侵略している。
俺の仕事は事故物件クリーナー、一か所に長居する訳にはいかない。
まだまだ俺を必要とする曰く付きの部屋が待っているのだ。
この部屋を出るのは即ちユウさんとの別れを意味する。
膝を抱えて落ち込んでいれば、ふいに腕が引き攣る感覚がし、俺の手は何故か自分を抱き締めていた。
「え…………」
俺の手が俺の手じゃないみたいな違和感。
まるで誰かに操られてるみたいな……
「ユウさん?」
困惑げに呼ぶ。
腕を掴む手とそこから伝わるぬくもりを別人のもののように感じる。
ユウさんに抱き締められるのは嫌じゃない。
照れと安らぎが綯い交ぜになったぬくもりに包まれ、思考を手放した俺はあっさり眠りに落ちた。