5/9
事故物件クリーナー5
しゃべれない。
さわれない。
見えもしない。
それでもユウさんは、確かにいる。
「あーーー畜生、バイトで大失敗……」
ドジって落ち込んだ日は、玄関に座り込んだ俺の愚痴にじっと耳を傾けてくれた。
「やっべ忘れるとこだった、あんがとユウさん」
天気予報が雨なのを忘れてうっかりでかけそうになったら、玄関先で傘を倒して教えてくれた。
「水……水……」
高熱を出して寝込んだ時、ひんやりした手を額にのっけて癒してくれた。
「ただいま」と帰ってきたら部屋の中でコトンと音が鳴る。
それはローテーブルの上のコップが立てる音だったり、壁に何かが当たる音だったりしたが、「おかえりなさい」と翻訳されて聞こえた。