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事故物件クリーナー2

味の素の洗礼を終え、幽霊との奇妙な二人暮らしが始まった。

「ただいまー」

事故物件クリーナーの傍ら、俺はコンビニでバイトしている。

廃棄処分になった弁当をビニール袋に入れて持ち帰り、玄関で靴を脱ぐ。

もちろんワンルームには誰もいない。「ただいま」はただの反射、実家にいた頃の癖がぬけないのだ。

冷蔵庫をあさってよく冷えた缶ビールを取り出す。ローテーブルの前にどっかと胡坐をかき、レンジでチンしたコンビニ弁当を割箸でかっこむ。

入居から一週間、初日の味の素事件を除いて霊現象は起きてない。

幽霊、どっかいっちまったのかな……それならそれでかまわない、一人で贅沢に脚を伸ばせる。

愛用のノーパソを開き、好きな配信者のゲーム実況を見ていた時だ。

「ははっ、だっせー」

トークに笑っていると急に動画が切り替わり、都内の動物園で日干しされてるパンダの赤ちゃんが映し出される。

「えっ」

なんもいじってねーのに。

「ちょ、いいとこなのに」

慌ててマウスをクリック、元の動画を開く。実況が再開するも、またしてもパンダの赤ちゃん動画に切り替わる。なんだ一体、この部屋にゃ俺しかいないはず……

いや、いた。

「ちょっと!!俺が観てるんですけど!!?」

苛立ってマウスを連打、フルボリュームフルスクリーンで動画を表示。

勝った。

溜飲をさげてそっくり返れば次の瞬間画面が暗転、パソコンの電源が落ちちまった。

「……そんなに赤ちゃんパンダの五目並べ見てえのかよ、いや色合い的にオセロだけど!人のパソコンぶんどってもふもふに癒し求めんじゃねーよ厚かましい、挙句逆ギレで電源落とすとかさあ~~」

部屋のどこにいるかもわからない霊相手に盛大に嘆いて愚痴り、腹立ち紛れに缶ビールのプルトップを引く。

「やってらんね……ッぶ!?」

缶ビールの中身が直撃、顔がびしょ濡れになる。なんで?どうして?気圧の関係?

「犯人はお前か!!」


前言撤回、俺の同居人は結構アレだ。アレだった。

コンビニバイト終えて帰宅後、廃棄弁当の夕飯を済ませてから寝るまで動画をあさるのが密かな娯楽だったのに、今じゃ息抜きのひとときは幽霊に乗っ取られちまった。

「またあ、勝手にチャンネル替えるなって言ったろー」

仕方ない。

相手は霊だ。

この手の霊障は初体験な上地味にストレスが募り行くが、パソコンの奪い合いに疲れ、とうとうチャンネル決定権を譲り渡す。

「好きにしろ」

パソコンに背を向けて不貞寝すりゃ、軽快なナレーションに乗せてニュースの切り抜き動画が流れていく気配。


『赤ちゃんパンダのひなたぼっこ、大変可愛らしいですよね。休日ということもあってか親子連れが沢山来園していました。お父さんと手を繋いだ小さい女の子が、柵の向こうからパンダに手を振る様子が微笑ましかったです』


……パンダ、好きだったのかな。


事故物件クリーナーなんてグレーな副業やってんのは家賃が破格で済む上に報酬もおいしいからに尽きる。

ラップ音に不気味な人影に気だるさ、ちょっとした不便に耐えてただ住むだけでいい。

よって、前の住人の事はできるだけ詮索しないのが不文律だ。

知っちまったところで既に故人じゃどうしようもねえし、知れば知るほど変に感情移入しちまってやり辛くなるだけと経験則で痛感してる。

「本当にいいんですか?」と念押す不動産屋を振り払い、前入居者のプロフィールはおろか死因にすら不干渉を徹底してきたが、俺のパソコンをちゃっかり独占し、動物動画に見入る幽霊の正体には好奇心が働く。

案外カワイイもの好きの女の子だったりして……。

どんな事情か知らねえけど、そんな子が死んだら化けて出たくもなるか。

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