表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/16

ヘファイストス散る

『決戦は野球』

 東都スポークが貼り出されていた。和哉が記事の隅から隅まで目を通していると、初めて目にする欄がある。

「急募?」

 G型009サイボーグ売りたし、委細は面談にてと記載されていた。

「浩、ちょっといいか?」

「どうしたでござるお?」

 モリモットを呼び付けて、件の壁新聞を読ませる。

「ふむう(注1)、行ってみる価値はあると思うでござるお」

「他ならぬ山岡が呼んでいるんだ、何か理由はあるはずだ」

 独自の情報網で新聞記事を書き上げる山岡に、和哉は期待した。

「けど、ヘファイストス陣営の本拠地を陥落させてしまえばいいんじゃね?」

「それでいいのか?」

 和哉はシミュレーションゲームのお約束として、本拠地と支城の連絡を断絶させていた。こうすれば本拠地陥落で全ての支城を入手可能との見方だ。

「敢えて乗り込んで話し合いという手もあるな」

 和哉は決断を下した。

「全員で乗り込んで、交渉が決裂したら実力行使でいいだろう」

 方針さえ定まってしまえば後は早い。全軍を挙げてヘファイストス陣営の本拠地に迫る。

「お迎えはないのか?」

 ヘファイストス陣営の本拠地の前には四人の人影があるばかりだった。その中の一人は山岡だ。

「おーい、山岡!」

 和哉が大声で呼び掛けて手を振ると、山岡も手を振って答える。和哉は兵士をジョアンヌに預けて、シュガー四天王とモリモットを伴って彼らに近付いた。

「新聞は読ませて貰った」

「そうか、では紹介しよう。秩父三銃士(注2)を連れて来たよ」

「秩父三銃士?」

 聞き返した和哉に、山岡は後ろに並んでいる三人を順に紹介する。

「全てを見通す千里眼、小見敏夫」

「全てお見通しだ」

 スラリとした気障ったらしい男性だ。

「一も聞かずに全て知る、紀井多聞」

「話は聞かせて貰った」

 尾藤と同じ体格の男性だ。

「目は口ほどに物を言う、今井雄三」

「……ふっ」

 眼光鋭い男性だ。

「この秩父三銃士が野球の助っ人に加わる」

「頼もしいな」

 和哉の感想は淡白だった。というか実力が分からないのだから何とも言えない。

「城内にヘファイストスだけを残して来たから、後は任せたよ」

「浩、ジョアンヌたちと待っていてくれ」

「分かったでござるお」

 シュガー四天王を引き連れて和哉は城内に入った。中は広く、奥には椅子に腰掛けた男性が一人いるのみだ。

「ついにここまで来ましたか。ですが、それ以上はワタシに近寄ることはできませんよ」

 男性が椅子の肘掛けを触ると、床が大きく開いて広間を断絶する。

「作動させるの早いだろう」

「仕掛けを知らない我々が渡っている途中で作動させれば一網打尽だったのにな」

「切り札は最後まで取って置くものだぞ」(注3)

「う、うるさい! このまま夕方まで何もできなければお前たちの負けです」

「まあいい。こんなこともあろうかと、バットとボールを大量に用意していた」

 和哉の宣言に従って、大量のボールとバットが出現する。

「千本ノックと行こうぜ」

 和哉は自らボールをトスしてバットで打った。打たれたボールは真っ直ぐにヘファイストスへ向かって行く。

「危ないでしょうが!」

 ヘファイストスの椅子(注4)が宙に浮いていた。そこへ別方向から打球が迫る。

「外したか」

 佐藤がバットを握っていた。シュガー四天王はそれぞれバットを持ち、ボールを握る。

「ふん!」

 尾藤の怪力から放たれた打球は、和哉や佐藤の比ではない勢いでヘファイストスに迫った。ヘファイストスは空飛ぶ椅子で避けるが、そこへ別のボールが飛来する。

「あわわ」

 慌てて高度を下げるが、狙い澄ましたように打球が飛んで来た。ついにその打球がヘファイストスの左腕に命中する。

「ぐわあ!」

 硬球は痛い。表面が牛皮で覆われているので、耐久性が向上すると共に硬度も上昇する。痛みで悶絶するヘファイストスに向けて、和哉たちは容赦なく硬球を打ち込んだ。

「ぐふ……」

 次々と命中する打球。留めの一撃は尾藤の打球で、ヘファイストスの頭部に直撃し、彼は椅子から転げ落ちた。

「これが本当のノックアウト(注5)か」

 ピクリとも動かないヘファイストス。和哉たちは確実に息の根を止める為、対岸へ渡る方法を模索する。

「土で埋めるか」

 和哉は開いた床を覗き込んだ。深さは五メートル程度、埋められない深さではない。佐藤を見張り役に残して和哉たちは外へ出る。

「しかし、掘る道具はあるのか?」

「ああ、こんなこともあろうかと、スコップ(注6)と一輪車は用意して来た」

 外へ出ると既に兵士たちはスコップを装備していた。

「どこを掘るでござるお?」

 モリモットに尋ねられて和哉はニヤリと笑う。

「掘るのは適当でいい、埋める方が目的だ」

 和哉の指示で人がスッポリ入る坑(注7)が四箇所出来上がった。それ以外にも至る所が掘られている。

「浩とジョアンヌは城内を指揮してくれ。竜也、尾藤、武藤は俺と共にこっちに来てくれ」

 指示されて一同はそれぞれに動いた。

「山岡、ちょっといいか?」

「何だ?」

 秩父三銃士を伴って山岡が来る。シュガー四天王は何となく和哉の意図を察する。

「和哉、恐ろしい奴」

 尾藤が紀井を、武藤が今井を捕まえたが、佐藤は小見を捕まえ損なった。

「お前たちの狙いはとっくにお見通しだ」

「話は聞かせて貰った」

「……ふっ」

 小見の宣言に続いて紀井と今井がスルリと抜け出した。山岡一人のみ坑に落とされる。

「一筋縄では行かないか」

「だが、話は全て聞いている。お前たちに協力するにはこうされるしかないことも理解しているさ」

 秩父三銃士は自ら坑に入った。

「秩父三銃士、すまんな」

 和哉たち四人はスコップを振りかぶると、山岡たちをスコップで叩く。それで全てが決した。

声の想定(ボイスイメージ)

・桐下  和哉  鈴木達央さん

・聖女クリス   小林ゆうさん

・ジョアンヌ   河瀬茉希さん

・モリモット   関智一さん

・武藤   龍  玄田哲章さん

・尾藤  大輔  稲田徹さん

・佐藤  竜也  櫻井孝宏さん

・山岡  次郎  下野紘さん

・藤井  照美  伊藤かな恵さん

・藤井  羅二夫 うえだゆうじさん

・小見  敏夫  前野智昭さん

・紀井  多聞  森久保祥太郎さん

・今井  雄三  蒼井翔太さん

・ヘファイストス 中尾隆聖さん



注1 ふむう

 横山光輝さんの漫画『三国志』では「ふむ」や「ふうむ」ではなく「ふむう」と表記される。


注2 三銃士

 大デュマことアレクサンドル・デュマ・ピエールの小説『三銃士』が有名である。

 よくある勘違いだが、主人公のダルタニアンは三銃士ではない。しかも彼らは銃器をほとんど使わず細剣で戦う。


注3 切り札は最後まで取って置くもの

 カリオストロ伯爵もそう仰っている。


注4 ヘファイストスの椅子

 本来は真鍮製の自律型三脚歩行器だが、これでは女神アテナを追い回せないので、飛行する椅子にした。

 漫画『テコンダー朴』に登場する飛車とは似て非なる神器である。

 断じて壺型飛行ユニットではない。


注5 ノックアウト

 格闘技などの試合で転倒などでダウンが宣告され、規定秒数以内に立ち上がって戦闘体勢を取れないと敗北が宣言される。

 また規定回数のダウンでノックアウトを宣告する場合もある。

 英語の略語は「KO」。


注6 スコップ

 掘ってよし、叩いてよし、突いてよし、更に盾にも楽器にもなる万能器具である。

 スコップとショベルの違いは、産業規格では足を掛ける部分があるものをショベル、ないものをスコップとしているが、東日本では逆になっている。

 また大きなものをショベルというのも西日本が主流で、東日本では大きなものをスコップと呼んだりする。

 土を掘るには剣先、雪かきには角型が有用である。

 ロシア軍はスコップによる戦闘技術を磨いている。

 「スコップ~、スコップ~」と言いながら探すのがイケメンの流儀である。


注7 坑

 「坑する」とは、生き埋めにすること。

 中国の戦国時代、趙の国は名将趙奢の息子である趙括を将軍として秦の侵攻を食い止めようとしたが、趙括は敗れ、趙の敗残兵二十万人は坑に埋められて処刑されたと言われているが、数の誇張が当たり前の国なので人数については信憑性は薄い。

 但し近年、戦場近くからは大量の人骨が発見されているので、何らかの虐殺はあったと目される。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ