episode84 そして次なる舞台の幕が上がり……④
「うーん。アリアはレッドのことがよくわからな……い」
「おいおい。それなりに長い付き合いなのにそりゃあんまりじゃないのか?」
「わかっていることもあったりす……る」
「お、それはどんなことだ?」
レッドが前のめりに尋ねれば、
「うんと若くて綺麗な女の人を見るとみよーんて鼻が伸びること。こんな風……に」
アリアは自分の鼻を指でつまんで伸びる真似をする。その一方で叩けばよい音がするのではと思わせるほど表情を硬くしたレッドはと言えば、
「……はは……はははっ! アリアも見ないうちに随分と面白い冗談を言えるようになったじゃないか。なあリアムちゃん?」
「最悪ですね。胡散臭さに変態が加わりましたよ」
「ばっかお前子供だからわからないのも無理ないが、男ってやつは遅かれ早かれみんな同じ道を歩むもんなんだよ」
「あっさり変態だと認めましたね。実に汚らわしいのでそれ以上アリアに近づかないでください。変態がうつりますから」
リアムはそそくさとレッドからアリアを引き離した。
「おまっ!……ほんとーにお前は口が悪いな」
「それはお互い様でしょう」
「大体胡散臭さでいったら俺なんかより凪の塔の連中のほうがよっぽど──っと、これは余計なことだったな」
「…………」
「わかったわかった。俺が悪かったから殺気を振りまくのはやめてくれ。ションベンチビっちまうよ」
「今のはレッドが悪……い」
「レッドが全面的に悪いな」
「はいはい。畳み掛けるように言わんでもわかってるよ。ちょっとだけ口を滑らせただけじゃねぇか……まぁ今回は予想外のことが多過ぎたがそれでもお前たちのおかげで事なきを得た。──で、聖女を殺害した悪魔のことだが」
レッドはいつになく表情を真面目なものへと変えて話を続ける。
「とりあえず組織は正体不明の悪魔を〝魔人〟と定義することにした」
「魔人ですか……」
「人の皮を被り人の言葉を話す。俺もこの商売はそれなりに長いがそんな悪魔など終ぞ聞いたことがない。ほかに言い表す適当な言葉もないし妥当な呼び名だと思うぞ」
「呼び方なんてこの際どうでもいいです。それよりも今後どうするのです?」
「どうするといっても明確な目的がわからんことには、な」
「そうは言っても放置できる類のものでもないでしょう」
魔人はまた会おうとの言葉を残した。ならばこれは始まりに過ぎないとリアムは思っている。
「それは組織も重々理解している。だからこそ組織は〝影霧〟を追加で放って情報収集を始めた」
「影霧ですか……」
影霧は悪魔に関する情報だけを集める隠密部隊。組織でも存在を知る者はそれほど多くはない。影霧を動かしたということは、組織も容易ならざる事態だと判断したということだ。
「とりあえず魔人のことは一旦置いておけ。お前たちにはこれからバトレシア帝国に向かってもらう」
「バトレシア帝国? 確かあそこは帝国を二分する内戦の真っ最中では?」
先王のバルド王が昨年急逝したため、第一王子と第二王子との間で国を二分する内戦に陥ったとリアムは認識している。戦争などという無用な争いに巻き込まれるのは絶対にごめんだ。
「いや、情報によると内戦は一ヶ月前に終結している」
レッドは予想だにしなかった言葉を口にした。
「終わった? それは間違いないのですか?」
互いの戦力は拮抗していることからも、数年は内戦状態が続くだろうというのがもっぱらの見方だった。それが半年そこらで決着がつくとは誰も予想していなかっただろう。
「それは間違いない。だからお前が危惧するような人間同士の争いに巻き込まれる心配はない」
「それならまぁいいですが……しかしバトレシア帝国ですか。また随分と遠いですね」
バトレシア帝国は、ヴェラ・シヴィル大陸でも最北端に位置する国。途中、大きな山をいくつも越えなければならず、それを考えただけでうんざりする。
「ちなみに争いはどっちの勝利で終わったのですか?」
「そんなことはどうでもいいだろう」
ぶっきらぼうに答えるレッドにリアムは妙な違和感を覚えた。
「確かにどうでもいいことですが……それで悪魔の詳細はわかっているんですか? あなたが直接出張ってくるくらいですからそれなりの悪魔だとは思いますが」
尋ねるリアムにレッドは少しの間を置くと、実に歯切れの悪い言葉を口にする。
「今回は……まぁ今回は悪魔を狩る依頼じゃない」
「は? 悪魔を狩る依頼じゃない? なのに僕たちに北の果てまで行けと? 冗談じゃないですよ」
リアムもアリアもそして太郎丸も悪魔を殲滅することが任務であって、それ以外のことで拘束されるのは納得がいかない。
続きの言葉を待つもレッドの口が開かれる様子がなくリアムは苛立った。
「黙っていてはわかりません。一体なにが──……さっき追加で影霧を放ったと言っていましたね。もしかしてそれと関係があるのですか?」
「お前は相変わらず察しがいいな……」
そう言ってガリガリと後頭部を掻く。次にレッドがしたことは、わざとらしい笑い声を上げることだった。
「いやね、実はA級のデモンズイーターを二人送り込んだんだけど一週間前の定時連絡を最後に消息が途絶えちゃったの。俺が送り込んだ手前もあるから困っちゃっているんだよねー」
「つまりその消息の途絶えたデモンズイーターを探せということですか?」
A級のデモンズイーターは数が限られている。神聖騎士団とのパワーバランスもある以上、組織にとっても捨ておくことはできないのは理解できる。
「それだけならよかったんだけどねー」
レッドは再び歯切れの悪い言葉を口にしたことでリアムの苛立ちは最高潮に達した。
「どういうことです?──まさか裏で神聖騎士団が暗躍しているとでも?」
レッドは無言で首を横に振ってリアムの言葉を否定した。
「だったらなんなのです。はっきり言ってください!」
声を荒らげながらリアムが問い質せば、レッドは降参とばかりに両手を挙げて答える。
デモンズイーターの失踪に関わっているのは、かつてアリアと同じ特A級であった元デモンズイーターの可能性が高い、と
南からの生暖かい風が吹き抜け、リアムの髪の毛を乱暴に揺らす。
明るかった空は暗雲に覆われて今にも雨が降りだしそうだった。
第一章 悪魔を喰らうもの 完
これにて第一章完結です。
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