episode74 真相①
呆気に取られるイズモも置き去りに、リアムは銀弾を次々に打ち込んでいく。その度にサリアーナの前に垂れ下がる薄い布が派手に揺れ動く。
残響漂う謁見の間で最初に声を上げたのは、勢いよく剣を抜き放つイズモであった。
「き、きさま……貴様一体サリアーナ様になにをしたああぁぁああっ!!!」
怒りという怒りを全身から放ちながら迫りくるイズモに対し、リアムはあくまでも冷静に壇上を指さして言った。
「私は聖女様の顔を知りませんが、あれがあなたの慕う聖女様で間違いないですか?」
「なにッ!」
イズモが壇上に視線を移すのと、壇上を覆っていた布がはらりと床に舞い落ちるのはほぼ同時だった。
リアムの瞳に映し出されたのは、耳まで裂けた口からびっしりと棘のような歯を見せる異形な女の姿。確実に打ち込んだはずの銀弾は、しかし、ただの一発も当たった形跡がない。
確実に言えることは、強烈な香の匂いに混じってはっきりと悪魔が発する独特な異臭を感じ取れることだった。
「サリアーナ……様?」
「──いつから気づいていた?」
まるで体が凍りついたように固まるイズモを歯牙にも掛けず、異形なる女は愉快そうに告げてくる。春の陽だまりのように柔らかだった声は今や見る影もなく、ただただ邪悪に彩られていた。
リアムは新たな銀弾を素早くガンナーに装填しながら質問に答える。
「香の炊き過ぎだ。返ってそれが違和感を際立たせる結果となってしまった。ただ私たちと同じ仕事を生業とする神聖騎士団、つまりイズモさんにこびりついている臭いの可能性も否定はできないし、なにより悪魔が人語を操るなど寡聞にして知らない。なのではっきりと確信が持てたのはさっきの会話だ」
「会話? ──はて? 匂い以外は問題なく聖女になりすましたと余は思っていたが」
「否定しないということは悪魔であることを認めたな」
「隠す必要がたった今なくなったのでな。昔も今も矮小な存在たる人間ごときに悪魔と呼ばれるのは業腹であるが、まぁ無知ゆえということで許してやろう。ところで後学のために聞くが余はどこで間違えた?」
悪魔は余裕の態度を崩すことなく楽しそうに尋ねてくる。リアムも初めて対峙する人語を介する悪魔。今後のためにもここはできるだけ情報を引き出したいところだ。
「私は魔導士によって強力な悪魔が召喚されたと説明しましたが、お前はご丁寧にも『伝説の悪魔』と言い換えてきた。そのことを知っているのは、実際にあの悪魔と対峙した私とアリア。あとは召喚を行ったあの魔導士だけ。ほかに知っている者がいるとすれば、それはもう魔導士を影で操っていた黒幕以外には考えられない、という単純な結論に至ったまでのこと」
「くくくっ。あまりにも楽しすぎてつい口を滑らせてしもうたか。だが少し思い違いもしているようだな」
「……実は伝説の悪魔ではなかった」
悪魔はすらりと伸びる足を組み、興味深そうにリアムを見つめた。