episode56 僕にとって彼女は天敵というべき存在です①
誰しもが苦手とする人間はいる。時に仕事仲間であったり、はたまた知人であったり。リアムにとってのそれは両方でまさに天敵だと言えた。
全ての調査を終えてそのまま村に留まること三日日。
リアムが道具の手入れをしている隣で絵を描いて遊んでいたアリアが、不意に手を止めて窓の外をジッと見つめる。
ソファの上で寝ていた太郎丸は耳を忙しなく動かしながら同じく窓の外へと顔を向けた。
「来たみた……い」
「来たようだな」
「え? もう来たの?」
出迎えるため家から出たリアムたちは、村の入り口まで移動する。予想していたより二日も早い到着に思わずリアムが溜息を漏らしていると、
「なんだか、嫌そうな顔している。リアムが呼んだの……に」
「それはまぁ確かにそうなんだけど……」
「吾輩は好きだぞ」
「別に嫌いだなんて言ってないけど」
ぼやきながら視線を向ければ、聞き覚えのある爆音を響かせながら砂煙を舞い上げる一台の乗り物と、それに跨る人物がリアムの目に映る。
(なんか前に見たときよりも派手になっているし)
そのまま村へ侵入を果たした彼女がリアムたちの姿を見つけるや否や、半円を描くようにして乗り物を急停止させた。
「やっほーリアムきゅーん! 会いたかったよー!」
乗り物から飛び降りた彼女は、まとわりついた砂埃をはたくリアムに、襲い掛かる勢いで抱きついてきた。
「僕はそうでもないですが……」
リアムは豊満な胸をこれでもかとばかりに顔に押し付けられ、息苦しさを感じながら素っ気なく言えば、彼女は抱きしめる力をより一層強めてくる。
「もう美人なお姉さんを前にして照れちゃって。そういうところがまた可愛くて可愛いんだよねー」
髪の毛を散々に撫でまわしてようやく抱きつき攻撃からリアムを解放すると、ゴーグルを額にずらしてニシシと笑う。
リアムと同じ銀色の髪を持つ彼女の名はリタ・バートレイ。年齢は十九歳と若いが、これでも組織の中で最も優秀な〝魔巧技師〟だからたちが悪い。
「ところでそれ、また改造したんですか? 前よりもド派手になっていますし、なにより音もうるさくなっています」
リアムは冷ややかな視線を赤一色に塗られた鉄の固まりに向ける。両手を腰に置いたリタは、大仰な溜息を落とした。
「リアムきゅん。いつも口を酸っぱくして言ってるでしょ。それじゃなくて、この子には<セプターゼロ>っていう立派な名前があるって」
「聞けば貴重な〝神々の遺産〟を惜しげもなくソレに注ぎ込んでいるらしいじゃないですか」
──神々の遺産。
古代の遺跡から発掘される今の技術では到底作ることができない品を人々は神々の遺産と呼んでいる。神々の遺産はそのほとんどが壊れた状態で発掘されるため、魔巧技師の力は必要不可欠であり、必然的に優秀な魔巧技師を多数抱える国は大きな力を持っている。
その魔巧技師であるリタはといえば、頬をぷくりと膨らませた。