episode55 違和感④
その後二日をかけて残り二つの村に足を運んだリアムとアリアであったが、やはり今まで調査してきた村と大差はなく、悪魔が関わったとされる証拠も見つけることはできなかった。
「まさかとは思うが聖女に担がれているのではあるまいな」
太郎丸がリアムをジロリと睨む。
「聖女がそんなことをする必要も理由もないでしょう」
「ではもういいのではないか。やれることはやったし、予定になかったバーバリアンと変異体のグリムリーバーも倒したではないか。吾輩たちの仕事は悪魔を殲滅することであって探偵の真似事ではないはずだ」
太郎丸の言うことはいちいちもっともで、悪魔が関わっている証拠がなにも出ない以上、調査を打ち切りにしても文句を言われる筋合いのものでもない。
(だけど……)
リアムはアリアをチラリと見る。異能の力を有する聖女の〝勘〟も無視できないが、それ以上にアリアがなにかしらの違和感を覚えている以上、その正体を見極める必要があるとリアムは思っていた。
(──ん?)
一瞬で霧散してしまったが、突然リアムの脳裏になにかが引っかかるのを感じた。この妙な感覚は過去にも何度かか経験済みであり、それは大抵なにかを見逃していることを暗に示唆している。
(僕はなにを見逃しているんだ?)
足を止めたリアムはこれまでの行動を心の中で反芻してみる。どの村にも共通して言えることは、あからさまに生活痕を残した状態で村人全員が消えていること。そして、悪魔に通じる手掛かりはなにも見つからなかったことの二点だ。
(ほかにこれといった規則性はない)
リアムは顎に親指を乗せて思考を深く落としていく。
(──調べに落ち度はなかった。単なる僕の勘違い?)
だが、すぐにリアムは否と首を振る。今の自分の目には映っていないだけで、実はすぐ近くに答えがあるのかもしれない。
「急に立ち止まってどうしたのだ?」
「リアムお腹痛くなっちゃっ……た?」
心配そうに顔を覗き込んでくるアリアにリアムは尋ねる。
「アリアはどの村も変だと言っていたね?」
「え? うん言った。今も変だ……よ」
「吾輩は何も感じないぞ。大体──」
「太郎丸はちょっと黙ってて」
リアムは不貞腐れる太郎丸を無視し、
「それって全部同じ変なのかな?」
今までリアムはアリアの〝変〟という言葉を一括りで捉えて深く考察することをしなかった。もしかしたらそこから間違っているのかもしれない。
視線を宙に漂わせたアリアは、
「そう言われてみれば違うか……も」
(やっぱりそうか)
自分の迂闊さを呪いつつ、リアムはさらに尋ねる。
「ちなみにどう違うの?」
「うんと……同じ変でも……濃いのと薄いのがある」
「濃いのと薄いの……」
考えてみるもなにを意味するのかまるで見当がつかなかった。それでも現状から大きく前進したことには違いない。
「ほかになにかある?」
「ほかは……とくにない」
「そっか……これからはどんな小さなことでもいいから思い出したことがあったらすぐに教えて。アリアの言葉は凄く重要なヒントに繋がるから」
「わかっ……た。アリア超頑張る。おー!」
鼻息を荒くしたアリアが、空に向かって拳を高々と掲げてた。
(彼女が到着するまでたっぷりと考える時間はある)
微笑ましいアリアと不貞腐れて地面に座る太郎丸を横目に、リアムは再び思案にふけるのだった。