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殲滅のデモンズイーター   作者: 彩峰舞人
第一章 悪魔を喰らうもの
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episode50 調査開始③

 森を後にしたリアムたちは、星都ペントリアから北西に位置する村に到着した。右手に苔むした石垣を臨みながら緩やかな傾斜を真っすぐ進んでいくと、やがてアーチ状の形をした簡素な門が見えてくる。

 空はほんのりと赤みを帯び、間もなく夕暮れを迎えようとしていた。


(結構時間がかかったな)


 とにもかくにも現状を確認するべく早速村に足を踏み入れたリアムの目が、すぐに様々な異常を捉えた。途中まで割って放置された薪や、干されたままの薄汚れた洗濯物がゆらゆらと風に揺れている。


「──人の気配は感じない」


 太郎丸が耳を動かしながら言う。


「とりあえず情報通りだね」


 目についた家の扉をためしに開けて中を覗いてみれば食事の最中だったのだろう。びっしりとカビが生えたパンや、元の色がわからない黒く濁ったスープなどがそのまま残されている。


(争いの後も荒らされた痕跡もない)


 本当に人間だけがすっぽりと抜け落ちたような風景だ。ほかの家屋も確認するも、状況にこれといった変化はない。

 空き家を出たところで、リアムの顎は自然と親指に乗せられた。


(確かに逃散というには無理がある。逃散ならば全部でなくても最低限の生活道具は持っていくはずだ。事前に仕入れた情報によれば、この村で暮らしていた人間は百人ほど。これほどの数の人間を悪魔がただの一滴も血を流すことなく喰らうなんて聞いたことがないし、できるはずもない……)


 そうはいっても依頼を受けた以上は聖女が納得できる答えをださなければいけない。僅かな痕跡でも見つかればと注意深く観察しながら歩いていると、隣を歩いていたアリアがいないことに気づいた。


「アリアは?」


 聞けば太郎丸は後ろを振り返る。


 太郎丸に倣う形でリアムも振り返れば、しきりに周囲を窺うアリアの姿があった。


「あの様子、なにかを気にしているようだな」

「そのようだね」


 太郎丸と共にアリアの隣へ身を寄せたリアムは静かに声をかけた。


「なにか気になるの?」

「……変……」

「具体的には?」

「よくはわからな……い。だけどなにかが……変」

「太郎丸はなにか感じる?」


 耳と鼻を忙しなく動かした太郎丸は、


「駄目だな。超優秀な吾輩の耳や鼻にはやはり何も引っかからない。この程度の広さの村であれば吾輩を欺くことなど不可能だ」


 対悪魔犬として組織に育てられた太郎丸の聴覚や嗅覚は一般的な犬の比ではない。リアムもそのことは重々承知している。


「悪魔が身を潜めるなんてことをするわけもないし……」


 アリアと同様注意深く周囲を見渡してみるも、やはりリアムの瞳には寂れた風景以外は映らない。

 それでもアリアの言葉をリアムが軽視することはない。アリアがはっきりしない物言いをするときは必ず何かあることを知っているからだ。


(しかも大抵は悪い方向に勘が働いているからなぁ……)


 なにせアリアの危険察知能力は並みのそれではない。時にアリアは太郎丸が舌を巻くほどの力を発揮することも決して珍しいことではなかった。


「もう少し調べればなにかわかりそう?」

「……ダメだとおも……う」

「そうか……なら今日の調査はここまでにしておこう。大分暗くなってきたし」


 さっきまでは夕と夜が程よく混在していた空が、今ははっきりと夜に傾こうとしていた。本来なら家々に明かりが灯る時分なのだろうが、人が消えたこの村は自然に任せるがまま。それほど時を置かずして漆黒に包まれることだろう。


(幸い寝床はいくらでもある。今夜はここに泊まるとするか)


 東に向けて伸びる三つの影は、やがて比較的大きな一軒家に吸い込まれていく。

 長い夜の始まりを告げるように、夜眼白狼(やがんはくろう)の遠吠えが村に鳴り響いた。

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