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殲滅のデモンズイーター   作者: 彩峰舞人
第一章 悪魔を喰らうもの
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episode36 不協和音①

 ──翌日の早朝

 リアムたちの見届け人である疾風の面々は、悪魔が出現したという南東の森に向かって出発した。


「……ねぇ歩くのだるいんだけど?」


 星都を出発して早々、レイチェルが口にした最初の言葉がそれだった。続いて聞こえてくる溜息は亜麻色の髪を掻き上げるフェリスのもの。ギルド長の執務室でのときもそうだったが、きっとフェリスがレイチェルの調整役を担っているのだろう。

 完全に他人事ではあるも、多少の同情は禁じ得ない。


「ねぇ聞いている?」

「……レイチェルは身軽だろ。文句を言うな」


 森に入ったからといって悪魔がすぐに見つかる保証はどこにもない。なので数日分の携帯食が詰められた背負い袋をそれぞれが持っているわけだが、レイチェルだけは例外だった。

 出発前『こんな重いもの持って歩けない』と駄々をこねたレイチェルを見かねて、オースティンが彼女の分も背負っているのだ。

 もっとも巨漢のオースティンに限って言えば、一つも二つも大して変わらないとばかりに軽く背負っているが。


「言葉通じてる? 私は歩くのがだるいって言ってるの」

「我儘にもほどがあるぞ」


 辛抱たまらんとばかりに声を上げた太郎丸を見て、リアムは思わず天を仰いだ。

 確実に面倒なことになると踏んでいたリアムは、疾風の目の届くところでは絶対に口を開くなと言い含めていたのだが、15分も経たないうちにそれは破られた。


「ちょっと!? 今この犬喋ったわ!?」

「喋って悪いか!」


 太郎丸は不機嫌を顔に張り付かせて言う。


「また喋った!? キモい! 超キモいんだけど!」


 レイチェルの言葉がよほど気に障ったらしく、太郎丸は鋭い牙を覗かせた。


「女、言うに事欠いて可愛いワンちゃんである吾輩に向かって無礼な言葉を吐いたな……許さんぞ‼」

「キモいキモいキモいキモいキモ過ぎ‼」

「太郎丸!」

「リアム、こればかりは止めても無駄だ。この女の口を塞がねば到底収まりがつかん」


 オースティンの背中に隠れながらキモいを連発するレイチェルをフェリスが厳しく嗜めた。


「レイチェルやめないか!」

「はああ!? だって犬のくせに人間の言葉を使っているんだよ!? フェリスだってキモいと思うでしょう?」

「はっはっは! 愉快愉快。犬が人間の言葉を喋るなんて愉快ではないか! 俺はちっとも気にならないぞ」

「脳筋馬鹿に聞いてねっつーの!」


 レイチェルがオースティンを蹴りつけるも、当の本人はなにも感じていないらしく、ただただ笑い続けていた。

 フェリスは恐縮しながら、


「太郎丸といったな。レイチェルに代わって心から非礼を詫びる」


 太郎丸に向けて頭を下げた。


(犬に頭を下げるなんて中々できることじゃない。随分とできた人なんだな)


 フェリスに好感を覚えていると、レイチェルが眉を鋭利な角度に上げた。


「犬に頭なんか下げて馬鹿丸出しなの! 疾風の権威が落ちるからやめてよ!」

「レイチェル、君こそやめるんだ」

「リアム、ここまで侮辱されたんだ。殺しても構わんな」

「駄目に決まってるだろ!」


 今にも飛びかからんばかりの太郎丸をリアムが必死に宥めていると、


「は? クソ犬の分際で魔導士の私を殺す? 面白いこと言うじゃない。できるものならやってみなよ」

「煽るなレイチェル!」


 リアムは太郎丸を宥め、フェリスはレイチェルを諌める。一色触発の状況に割って入ったのは意外にもアリアだった。


「太郎丸もレイチェルも仲良くす……る」

「あ? 横から口出すな! デモンズイーターだからってビビると思ったら──!?」


 アリアはレイチェルに顔を近づけて、


「仲良くす……る」

「ッ」

「太郎丸もいい……ね?」

「……今回はアリアの顔を立ててやる」


 太郎丸は強く鼻息を落として了承した。顔を引き攣らせながらなお口を開こうとするレイチェルを、フェリスが先んじて制する。


「今回の依頼人は聖女様だ。それを踏まえてこれ以上事を荒立てるのであれば戻ってもらって構わない」

 

 フェリスを睨みつけたレイチェルが次にしたことは、いっそ清々しいまでの舌打ちだった。


「そもそもなんで私たちなのよ。 あいつらが悪魔をちゃんと殺したのか確認するだけでしょう? プラティーン以下の称号持ちにやらせればいいじゃない。いつも金に困っているような奴らなんだから」


 問われたフェリスは、一瞬気まずそうにリアムたちを見る。フェリスが何を考えているのか、リアムには手にとるようにわかった。


「それはそうなんだが……」

「なによ。煮え切らないような返事をして。──ああ、なるほど。オースティンが言ったことは図らずも正しかった。私たちはあいつらが悪魔に殺された場合の保険ってわけね。それならそうとはっきり言えばいいじゃん。昨日今日会った奴になに遠慮しているのよ。──ねえ! あんたたちだってそう思うでしょう?」

「レイチェルやめろ!」

「フェリスさぁ。そう言う割にはその通りですって顔に書いてあるんだけど? まるで説得力ないじゃん」


 フェリスが慌てたように顔をまさぐる横で、レイチェルが小馬鹿にしたような薄ら笑みをリアムたちに向けてくる。

 尊大心ばかりが膨れ上がった実に魔導士らしい高飛車な態度だ。さすがに一言いってやろうとも思ったが、どうせこの場限りの付き合いだと思い直し、リアムは開きかけた口を閉じる。

 その結果としてこちらが及び腰だと解釈したらしく、レイチェルの舌は油を差した歯車のごとく滑らかに回り始めた。

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