ご先祖さま
ご先祖さまが
病院を出ると、いつも待合室で会う女性が私に声をかけて来た。
「大切な話があるのよ」
女性同士な為に気が緩んでいたのかもしれない。
「じゃあ、ちょっと、そこでお茶でもしましょうか?」
つい、病院前の喫茶店へ彼女を誘ってしまった。
病障の身体にミルクティーが美味しい。
「ところで話って何?」
私は彼女に話を切り出した。家事が残っており、ゆっくりもしていられなかったからだ。
「変な話とか、気持ち悪いとか思わないでね」
「ええ」
気持ち悪いとかではなく、そこまで深い付き合いでも無かった。通院の折、病院の待合で話すだけなのだから。
「私ね。いわゆる見える人なのよ」
そうか。見えるのか。さぞ病院は辛いだろうな。
その時は、正直そう思った。
「それでね。あなたのご先祖さまが、地獄に落ちて 苦しんでいるのよ。」
彼女は突拍子のない事を言い出した。
だって、私の実家は兄が仏壇を護っている。
小月命日にもお寺さんが来るし、彼岸や盆暮れにも墓参りは欠かせない。兄嫁が、その辺は古風なのだ。
じゃあ、旦那のご先祖様か。
「あ、それ、姑なので放っておいて下さい」
思わず、姑が苦しんでいる様が目に浮かんで、つい出てしまった言葉だ。
「え?」
驚いて聞き返す彼女。
「また、詳しくわかったら教えて下さいね」
カランコロン
喫茶店の扉の鐘の音も軽やかだ。
空はどこまでも青く、吹く風も清々しい。