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峠に立つ女

峠に立つ女



 ブォオオオオーーン、ブン! ブォオオオオーーン。


 俺は家に帰るために、峠の山道を走っている。


マシンは、愛車マツダ ロードスターRF。


 一見、ハードトップに見えるが、実は屋根が開き、タルガトップのようになるのだ。


 車に興味のない人の為に説明するが、ハードトップと言っても、サッシュレスウインドウの付いた扉がついているのではない。

ソフトトップに対するハードトップ。つまり、屋根が幌ではなく、固い屋根が付いている。鉄板の屋根が付いていると言うことだ。


 また、タルガトップと言う物は、ドイツのスポーツメーカーのポルシェのオープンカー、ポルシェタルガと言う車の屋根と言うことだ。

 これは、911系の一グレードなのだが、オープンカーなのだ。

 Aピラーと言う物。つまり、フロントウィンドウしかついていない車種だった。

しかし、リヤウィンドウがオプションで売っていた。このオプションを付けると、フロントウィンドウとリアウィンドウのみついて、屋根がない状態になる。

これがアメリカで爆発的に売れたのだ。だから、ポルシェタルガと言えば、屋根のないモデルと言うイメージが出来上がった。


 そして、この屋根のないモデルをポルシェタルガの屋根、タルガトップと命名されたのだ。


 マツダ ロードスターは、排気量が1.5Lのソフトトップが有る。こちらは、屋根が付いていないし、エンジンも小さく軽い。RF より評判が良いのだ。

そして、イタリアのフィアットのチューニングメーカーのアバルトにOEM 提供されている1.4Lターボの146というモデルもあり、パワーもあり軽くて評判がいい。


 が、俺のモデルは、2.0Lで電動の屋根が付いており、重い。しかもATモデルだ。


 もう結婚することを念頭に置き、妻の由紀恵も運転できるようにと、このモデルを選んだのだ。


 まあ、「屋根のない車を買おうと思う」と言ったら、強く反対されたのだ。さすがに、「扉の付いていない車、「ケータハム スーパー7」と言わなくて良かった。言ったら、たぶん、その場で刺されていただろう。


 ただ、二人乗りと言うことは黙っていた。

なにせ、妻の希望はダイハツ タントだったのだから。


 俺は、山の峠道を走らせていた。対向車も無く、ライトをハイビームにして、フォグランプを点けて走っている。右手に黄色線、左手にガードレールの白色がくねくねと続くところを走らせている。


 新緑の緑の匂いがするが、それは見えない。いや、見ていない。

この先の道の行方に集中して、緑の景色まで注意が行っていないのだ。その中で、隣のシートで妻の由紀恵が眠っている。



 エンジンを切ってライトを消せば、虫の声もするし空も満天の星空だろうが、今は、早く帰宅したいのだ。


 新婚旅行から帰って、落ち着いたので、妻の実家に挨拶に行っていたのだ。そして、その地方に住む親戚にも順に回って挨拶をした。

その時は、お義父さんの車だったので、一軒一軒行くたびに飲まされてしまった。田舎と言う物は、飲酒運転に勝手に寛容なのだ。

「車で来ていますので」がまったく通用しないのだ。


「おお、そうか、じゃあ、飲ますわけにはいかないな」

「かあさん、隆君は今日は車だそうだ。飲酒運転になったら大変だ、今日はビールにしてくれ」


親戚の叔父さんは、昼だと言うのにやさしくビールを勧めてくるし、何軒か回るとお義父さんは酔いつぶれている。


 

慣れたもので、運転はお義母さんの運転で帰ってきた。


 

 そこで、俺は酔いが醒めるまで、少し休ませてもらっていたのだ。

水と牛乳を飲んで、風呂に入って、少し寝ていた。


 お義兄さんと妻が何やら話していて、いつの間にか怪談話になっていた。それを夢うつつで聞いていたのだ。


「そういや、賢二のやつがさ、あそこの峠で幽霊を見たっていうんだよ」


「嘘よ。やめてよね。あそこを通って帰るんだから」


「本当だよ」


「前から、白いワンピースの女が車を止めて、ウィンドウを開けると、『町まで載せてください』って言うんだって」

「そして、『どうして、こんなところに一人で』って思って乗せると、いつの間にか居なくなって、シートがぐっしょり濡れているって話は以前からあったんだ」


「よくある話じゃない」

「それ、青山墓地からタクシーの運転手がって話の変形じゃないの」


俺もそう思って、夢の中で聞いていた。


「俺もそう思っていたさ、あの峠で幽霊が出る謂れがないからな」

「賢二もそう思っていたらしいんだ」


「そしたら、見たんだって。カーブを曲がると立っていたっていうんだ」

「驚いて、急に怖くなって、『止まったらダメだと思って、そのまま車走らせて逃げ帰ってきたんだって」

「怖いから、山田の方を回って帰ってきたと言ってたぞ」


「じゃあ、幽霊かどうか解からないじゃないの」


「幽霊だろう、あんなところに、女が歩いて行けるわけないだろう」


「それもそうだけど」


まあ、よくある都市伝説だな。そのうち、友達の友達の知り合いがって言いだすぞ。俺はそう思っていたら、意識がなくなった。


 

 夜中の一時に、妻に起こされた。

最初、知らない部屋だと思ったが、ああ、酔い醒ましに寝ていたのだと理解した。


 お義母さん達に挨拶をして、義実家を出たのが、一時半ごろだった。ちなみに、この時、お義父さんは現在進行形で夢の中を旅していた。


 しばらくすると、走っている国道は山の中に入っていく、この峠を越えると高速のインターチェンジなのだ。


 気が付くと、妻はもう寝ていたので気兼ねなく飛ばせる。FRの気持ちよさと言ったら、やはりこう言うところで満喫できるのだ。

 ましてやこの時間帯になると人も歩いていないので、注意する項目が減るのだ。深夜の山道に、子供が飛び出すとかは気にしなくていいのだ。そのぶん、車の挙動やタイヤの接地具合に神経を向ける事が出来る。


ボオオォォン! フォン! ボオォォンン!


 ATとは言え、パドルシフトを操作する時にアクセルを抜いて回転を合わすとこれまたショックがなくて、気持ちが良い。それをトルクの乗ってきている回転域で行ったり、高回転域で行う。

 回転とは、エンジンの回転数を言っているのだ。レブカウンターなど、いちいち見る事は無い。耳と背中が俺の知覚神経になる。


 

 そして、とあるコーナーを曲がったところに、女が立っていた。


ガンガンガンガンガンガンガンガン!


俺は慌てて急ブレーキを踏んだ。

 ブレーキを踏んだ右足に振動が伝わってくる。そして、ABSが働いて、車は何事も無かったかのように止まる。


 ふた昔前なら、車はスピンするか、滑ってガードレールに張り付いていただろう。


「馬鹿か! 轢かれてしまうぞ!」


俺は、窓を開けて叫んでいた。


「あのぅ、町まで乗せて行ってもらえませんか?」


白いワンピースに長い黒髪、どことなく俯いて、暗い表情に見える。


 

 俺は『どうして、こんなところに一人で』って思っったが、助手席で寝ている妻に目線を移して、寝ている妻を確認する。

俺たちの乗っているロードスターのシートの後ろはすぐにリアウィンドウだ。

そして、その後ろが屋根を収納するスペースになっている。


 女性は、ゆっくりと顔を上げてくる。そして目を見開いて、あって顔をする


「・・・・・・。」


俺はすまなそうに目をつむった。


「・・・・・・。」


俺と、白い服の女との間に気まずい沈黙が流れた。


挿絵(By みてみん)



創作怪談です。


思いついたら、不定期で書いていきます。


背筋が……。 え?

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