六花を待つ
白い雲は空一面に広がり太陽を隠してしまったが、薄い雲から差し込む陽光はキラキラと光り地上に光の梯子をかけている。
ハイリは口元を両手で覆って天を見上げていた。漏れ出た白い息がふわりと空気に溶けていく。
「降らないね」
ハイリの後ろからディタが話しかけた。
ディタも同じように天を見上げている。
天からは光の梯子しか降りてこない。
しばらく二人で天を仰いでいたが、最初にディタが視線を足元に移した。
茶色い大地には霜が降りたせいで薄っすらと白い。
「降らなきゃいいのに」
ディタの呟きを聞いてハイリは未だに天を仰いだまま「ダメだよ」と言った。
「降らなきゃダメなんだ」
ハイリの強い言葉に、ディタは泣きそうな顔を歪めて唇を尖らせた。
そんな事はディタにも分かっている。けれど、降らなければいいと思うのはディタの本心だ。
「帰ろう」
ハイリの手を取ると、ようやくハイリの視線が天からディタへと移る。
その事にほっと安堵の息を吐いて、二人は手を繋いで家に帰った。
ハイリの手は冷たかった。
その次の日も次の日もハイリは外に出て天を見上げた。
祈るように何時間も。
その度にディタが手を繋いで家に帰るのだ。
降らなければいいのに
ディタの願いも虚しく、ある日、真っ白な空からひらひらと白い六花が落ちてきた。
小さな六花を手の平に取って見つめたハイリは一筋の涙を流した。
「ハイリっ!」
駆けてくるディタの声を後ろに聞きながらハイリは両手を伸ばした。
白い六花が集まり白いキラキラと光ったそれは美しい女の人となり、ハイリの両手を取り自身が乗る白狼のソリにハイリを乗せた。
駆けつけたディタの手はそのソリを掴む事も出来ず、ディタの目の前をソリは滑り出した。
「ハイリっ!」
ディタの声にハイリは振り向いて微笑んだ。
「ディタ!大好き!」
それだけ言うと、ハイリを乗せたソリは天へと駆け上がって行く。
まるで光の梯子を登るように。
ディタは見ている事しか出来なかった。
泣いて泣いて、一人で家に帰る。
二人の部屋に飾ってあるハイリが描いてくれた絵を見てまた涙が溢れた。
手を繋ぐ二人の上にはディタとハイリの名前と並んで「ずっといっしょ」と書かれている。
「うそつきぃ」
ぼろぼろと溢れる涙も拭かずに泣いていたら、心配したお母さんがやってきてディタを優しく抱きしめてくれた。
「ほら、雪が降り始めたわ。ハイリも雪の女王が迎えに来てくれたはずよ」
だから大丈夫。
ささやくお母さんも泣いていた。
二人はしばらく抱き合ったまま、雪が舞う窓の外を見ていた。
寒い北の国には言い伝えがある。
亡くなった人の魂は初雪と共に雪の女王が連れて行き、また生まれ変わるまで安らかに眠るのだという。
冬童話2020 に応募してみたくて書いてみました。
『贈り物』って目に見えない物もあるよね。