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異世界群像物語  作者: 黒井 狸
UNIT001_2046年異世界への旅
9/26

幕間.その時の二人



「なぁ、追わなくて良かったのか?」


 森の奥深くを見つめながら、ピアース――と今はそう名乗っている男が、連れ合いの男に問いかける。


「あぁ……構わないとも。既に状況は変化している」

「状況、ね……」


 今現在は連れとなっている男の目的を、彼は知らなかった。

 故にその答えが、そもそも答えになっているのかすら、判断が付かない。


「ま、別に知ったこっちゃないけどな」


 彼は昔から、いつでもそうだった。

 他人に対して、然程興味が湧かない性分なのだ。


 それは、この世界でマーキュリー――と名乗る目の前の男――と出会ってからも、そうであったし、それ以前の唯の学生であった頃も、同じだった。


「俺様は可愛い姉ちゃんと遊べれば、それで良いさ」


 そう嘯く理由とて、別に女性との駆け引きを楽しんでいる訳でもなく、もっと踏み込めば、相手に大した興味がある訳でも無かった。

 それどころか、自らの欲求すら満たせていない。


「本当に、君は、そう考えているのだろうか? それは果たして、本心からの言葉だろうか?」

「何……?」


 いつもは、何処を見ているかすら定かではない男が、真っ直ぐに己の目を見てきたことに、ピアースはちょっとした驚きを覚える。


 だが、理由には、何となく心当たりがあった。

 先程の新参プレイヤー達と出会ってから、彼の連れは、急激に変化したように思えたのだ。


「何物にも飽いている君が、本当に求めているもの……」

「何が言いたいか、全然分からねぇよ」

「肉欲ではない、心の底からの乾きのこと、だよ……」


 相変わらず、意味が有るのかすら分からない言葉だったが、ピアースの心が、何故か妙にざわつく。


 そのことに気付くと同時に、苛立ちに似た、言葉にし難い感情を抱く。


「何が言いてぇんだ」

「君は求めているのだろう? 心から渇望できる何か、を」

「てめぇ……」


 自分自身で気付かないよう、目を背けていることを指摘され、ピアースは無意識の内に槍を手にしていた。


「君は元来、英雄の器だ。何でも出来る。昔からそうだっただろう?」

「俺の昔なんざ、知りもしねぇだろ」

「私には、分かるのだよ」

「チッ……」


 この男とは何を話しても無駄だ。

 長くもない付き合いだが、経験からそう考え、ピアースは相手にするのを止めることとした。


 本当は、内心を悟られたくないからだと、本人に自覚は無い。


「さて、目的は果たせず、されど本懐は果たした。そろそろ私は、向かうとしよう」


 いつもの通り、あまりにも唐突に、マーキュリーは行動を開始する。


 ピアースはそんなことには慣れていた。

 だが今までとは全く違った行動に、思わず目を剥く。


「おい……どこに行くんだよ」

「帰るのだよ」

「帰るって、どこにだ」

「国に、さ」

「国……? 俺らは根無し草だろうが」


 この世界で出会って以降――この半年間、ピアースは眼前の男と、適当な放浪を繰り返していた。

 何が目的かも分からないまま、転々としながら、盗賊紛いのことを行ってきたのだ。


 だが、少なくとも、一度もこの国を出た覚えは無かった。


「そうだな……君にだけは、特別に一つ助言――いや、予言をしておこう」

「何だ急に?」


 まるで別れの言葉を告げるように、マーキュリーは宗教家じみた言葉を口にする。

 いや、恐らくは、まるで等ではなく、正しく別れなのだろう。


「遠くない将来、この国は乱れることになる。その時、君は、求めるものを得る機会を、手にするはずだ」


 それを理解したのか、ピアースは軽口を叩かずにその言葉を聞いた。


「出来るのであれば、先程の彼女らの助けになると良いだろう」

「さっきの……? 何言ってやがんだ? 襲った相手だぞ」

「どうするかは、君次第だ」


 言うことは言ったと、マーキュリーは一人歩き始める。


「おい! 一人で行くのか?」


 特段好きな類の男では無いし、苛立つことも多い相手ではあったが、不思議とそこらの奴よりは興味深い男だった、とピアースは思う。


 別に追いかけようとは思わないし、着いていきたいとも思ってはいない。

 だが、着いてきて欲しいと言われれば、考える余地くらいは持ちあわせていた。 


「君は英雄の器だ。遠くから、その物語を期待しているよ」


 その言葉は、相も変わらず遠まわしで、分かり辛かったが、明確な別れの言葉だった。


「そうかよ……」


 その言葉を皮切りに、ピアースも歩き始める。

 当面の連れ合いだった男と、真逆の方向へと。




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