表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界群像物語  作者: 黒井 狸
UNIT00_2046年終末への旅
1/26

0.プロローグ手前のエピローグ



 ――それは星も眠る深夜の出来事だった。


 天空より星々が墜ちたかのように煌めく大地。

 かつて繁栄の象徴だった塔に、正しく星が墜ちたかのような轟音を引き連れ、巨大な怪物が降り立つ。


 あまりにも突拍子の無い光景に、それを目にした群衆は絶望を抱く余地すら無かった。

 ただ何が起きているか理解が出来ず、呆けたまま空を見上げている。


 そこには何故空を飛べているのかすら理解し難い、巨大な龍が存在していた。


 古今東西、生贄を要求し、酒に弱く、財宝を抱え、お姫様を攫う……御伽の世界から現れたような、悪いドラゴン。

 お伽話との違いといえば、そこに滑稽さや愛らしさは見当たらず、ただひたすらに強大で、恐ろしく、人理が通じるような見た目でもなく、そして何よりも生々しかった。


 一瞬の静寂。そして、絶叫。

 自らを産み落とした神々の国において龍は、恐怖の化身と成った。


 地上に灯る眩い星々に龍は歓喜する。

 遂にかつての失敗を清算することが出来る、と。

 二度も繰り返した過ちをやり直すことが出来る、と。

 その数奇な運命に心の底から歓喜した。




 巨大な怪物から逃げ惑う万を超える群衆の中、ただひたすら龍を見つめる異色の一団がある。

 その数は(おおよ)そ数百人ほど。逃げ惑う濁流の如き人々に比べれば、流れを妨げることも出来ない塵芥(ちりあくた)だ。


 そんな小さな一団の中の一人が、状況に似合わぬ――呆れたような表情で呟く。


『――まさか、帰って……途端……アレと……タワーの組み合わせとは……何の因果なんだろうな』


 あまりにも圧倒的な怪物と対峙し狂ってしまったのだろうか、とさえ思えるほどの落ち着きぶりだった。


『まるで、怪獣映画……だね』

『何だ、お前ら……倒れて……言っているような……』


 否、彼は――彼らは至って平静だった。

 その正気を保証する物は何一つとして無いが、彼らは狂ってなどいなかった。


 隣に立つ者の声すら掻き消えそうな阿鼻叫喚の最中、その一団だけが明らかに浮いている。

 冷静な観察、覚悟を決めた落ち着き、闘いの高揚、十人十色の表情を浮かべてはいるものの、そのどれもが混乱とは無縁のものだった。


『まぁ……もう今さら何が起きても、驚きはねぇな』


 夜闇に融けこむような男は、牙向くように笑みを浮かべる。


『見ず知らずの国の有象無象なんざどうでも良い……が、ついでだ――』


 全長百メートルに達しようかという龍の圧倒的な重量に耐え切れず、ついに強大な文明の塔が叫び声のような音を立てながら崩れ去る。


 その光景を目にしながら男は――


『――平らげてやろうじゃねぇか』


 傲岸不遜に全てを救うと宣言した。






 この物語に英雄は登場しない。だが、話はこう締め括られるだろう。


 めでたしめでたし、と。


 ――これは、そこに至るまでの物語。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ