第4話「ネネ、帰郷」
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夢を見ていた。
「起きろ!」
起きた。
「うおおおい! 今の話の流れ的に、俺の過去話とか、俺が魔法無双している未来暗示的な夢だろうが! 何を邪魔してくれてんの!?」
「は?」
起こした本人だと思われる女性が、怪訝な顔で俺を見てくる。
ぼんやりした頭が、現実に引き戻される。
ああ、そうだ。
犬の群れに殺されそうになったところを、このお姉さまがアイススピアという冷酷無慈悲な氷の女王さまのような魔法を使ってくれたんだよな。
このお姉さま、清純派女優にいそうな顔してるな。
魔法の才能ありそう。大女優になりそう。
「ちょっと頭やられたかしら。もともと良くなさそうだけど」
余計なお世話ですわい。
「あんた、もう少しで死ぬところだったんだからね。運が良かったわね」
お姉さまがそう言葉を続ける。
もう少しで……。
そうだ。あれだけのケガを受けたのに、まったく痛みがない。
よく見ると、あんなにボロボロだった腕が綺麗に治っている。
これはもしや……!
回復魔法!?
「冷酷無慈悲な氷の女王様! これはもしや、回復魔法を使ってくださってはりますのでしょうか!?」
「そうだけど。冷酷無慈悲?」
「女王様! 回復魔法を見せてください! お願いします! なんでもしまむら!」
「え、なに、きもい」
なんて言いぐさだ!
誠心誠意、言葉を尽くしたと言うのに!
ついでに土下座して、アッラーよろしく拝み倒しているというのに!
それか。
「ところで、あんた何者? 身なりも言葉遣いも変なんだけど」
「俺は魔法博士。人はそう呼ぶ!」
「なにいい年して魔法博士って……きもいんだけど……」
なんなんだ、こいつ。
いい歳って言っても、俺はまだ17だぞ。
俺と同じくらいの年か年下っぽいこいつに、なんでこんなにキモい呼ばわりされなきゃいけないんだ。
普通に傷つくだろうが!
「隊長。捕らえますか?」
はるかに年上っぽい人が、敬語で話しかける。
「スパイって感じでもないけど……そうね。今回の件に関わってるかもしれない。捕らえておきましょう」
スパイ? 今回の件?
俺、何か疑われているのか?
「お前、おとなしく手を出せ」
「ちょっと待ってくれ! なんにもしてないのに、なぜ捕らえられないといけないんだ?」
「存在自体が怪しいから?」
「あんまりだ!」
「じゃあ、あんたはどこの何者で、どうしてこんなところにいるの?」
「え? 君に出会うため?」
「死刑」
「えええええ!? なんで!?」
「セクハラ罪」
こんな世界にセクハラという言葉があるとはたまげたなあ。
なんか変なこと言ったか?
どう考えても、俺がこいつに魔法を教えてもらうためのイベント発生なんだが?
ともかく、頭が固いこいつらのためにも、ちゃんと分かりやすく伝えないとな。
せっかく生きながらえたのに、留置されて魔法を使えなくなるなんてゴメンだ。
「俺は、異世界から来た!」
「とらえよ」
「なにい! なぜだ!」
「あたりまえでしょ! 何よ異世界って! ウソつくなら、もっとマシなものを選びなさいよ!」
「本当だ! 俺は地球の日本という国から来た!」
「聞いたことのない国ね。とらえよ」
ぬうう。ここまで話がわからんヤツとは……。
「信じろ! 俺は怪しくないし、ウソもついてない! だからアイススピア教えろ!」
「自分で怪しいという怪しいヤツはいないわよ! なんであんたに教えなきゃなんないのよ!」
ふう、と無慈悲な女王はため息をついた。
「どちらにせよ、あなたの真偽は城に戻れば分かる」
「どう分かるんだ? 裁判にかけるのか? どうせ弁護士もいないんだろ? 負けるじゃん!」
「ベンゴシ? 安心して。うちの国に伝わる魔法で、真偽が100%わかるから」
「なぬ?」
魔法とな?
「なんでウソが分かるんだ?」
「理由なんてないわよ。的中率は100%。それで十分じゃない」
「それは思考が読めるということか?」
「それは無理みたい。相手の言っていることがウソか本当か分かるだけ」
「じゃあ、相手が黙秘したらダメじゃないか」
「黙るなら殺すしかないわね」
「それって、相手の表情や視線で判断するなんていう、ちゃちなもんじゃないよな? 魔法なんだよな?」
「そうよ。表情や視線だけで100%分かるわけないでしょ」
「その魔法は、俺でも使えたりするのか?」
「無理よ。その魔法は難解なうえに、魔力が莫大に必要なの。魔力が雨粒1滴に満たないあんたにできるわけないでしょ」
「おおお! 俺の魔力とか、分かるのか! 魔力があると強い魔法が打てたり、何回も魔法が打てたりするのか?」
「そんなことも知らないなんて、ほんとにどこから来たのよ……。もちろん、魔力が強いほど魔法の効果が高くなって、魔力の量が多いほど魔法を使える回数が増えるわ」
「ほほう! やべヨダレ出てきた。じゃあ、その魔力をあげる方法を教えてくれ!」
「いいかげんにしなさいよ! なんであんたの質問に答えなきゃならないのよ! もう会話するだけで生理的に無理!」
「あんまりだ……!」
生理的にってなんだよ……。
生きててごめんなさいって気持ちになるだろ……。
そうして俺は手足を縛られたうえに、猿轡をかまされた。
この間、1分もかからない。
びっくりするほど手際がいいな。
わりと本気で縛っているようで、めっちゃ痛い。
でもなんだか、この痛みがちょっと良くなってきた……。
「ハカセをかえせー!」
声のする方を見ると、少女が泣きながら、無慈悲な女王に襲いかかっている。
もちろん馬に乗っている女王に届くわけがない。
少女は馬の太ももあたりをぽこぽこ叩く。
馬は驚いたのか、いななき、少女を蹴り飛ばそうとした。
「やめなさい!」
女王は馬をいさめた。
焦った……。
こんな小さな体で馬に蹴られたら、恋路をジャマしたわけではないのに死んでしまう。
「パパが縛られて心配だろうけど、疑いが晴れたら釈放するから、静かにしてなさい!」
「パパ? ハカセはパパじゃないよ?」
そうだぞ。年齢的にパパにはまだ早いぞ。
お前が俺のママになってくれんのか? おおん?
女王は驚いた顔をした。
「じゃあ、この子は? もしかして……」
女王は何か思いあたる節があるらしく、少し考えたあと、少女にこう聞いた。
「ねえ、お嬢ちゃん。パパとママはどこ? 君はどこから来たの?」
「まっすぐ来たの! パパとママはすぐに追いつくからって言ってた」
はて。この子とだいぶ長いこと遊んでいた気がするが、この子の両親らしき人を見かけなかったな。
「まっすぐって、どっちのまっすぐ?」
少女は指で一直線に動かした。
「あっちから、あっち」
「まさか……。こいつの縄をほどきなさい! すぐに!」
俺の縄がほどかれた。
意外と釈放が早かったな。
「この子、あんたの連れじゃなかったの?」
少女を見る。
俺が釈放されて、なにやら喜んでいるようだ。
「いや、さっき会ったばかりだが?」
女王は考えこむ仕草を見せている。
なんだか、真剣な雰囲気だ。
「馬に乗りなさい!」
「え、なになに?」
女王は俺の右腕をつかむと、馬の背まで引き上げた。
おお、すげー、力。
「行くわよ! しっかりつかまんなさい!」
馬の背でバウンドしたばかりの俺にそう言うと、馬を走らせた。
まだ捕まってねーから!
ギリ背もたれ的なものに捕まり、揺れる馬上でなんとか体勢を整える。
隣の馬を見ると、少女はいかつい兵の前に座らされ、両手をあげながら喜んでいる。
あんなに揺れて怖くないんかな。俺は怖い。
「どうしたんだよ急に」
そう尋ねるが、女王は何も答えず、ひたすら馬を走らせることに集中している。
「俺、馬に乗るの初めてなんだけど?」
返事がない。
よし、アオハルしたろ。
女王の腰に手を回し、肩にあごを乗せた。
「カントリーロォォォーふぐほっ」
裏拳を食らった。
しばらくすると、焦げ臭い匂いが漂ってきた。
その匂いがだんだんと強くなっていって、耐えきれない臭いになって、思わず鼻をつまんだ。
火事だろうか?
女王の背中から、そっと前を見る。
そこには悲惨な光景が広がっていた。
立ち上るいくつもの黒煙、焼け焦げた田畑、焼けただれた建物。
なにより、そこには蠢く黒い人の形をしたものがあった。
人の形をしたものじゃない。
人だ。
焼けた人だ。
「わああああああ!」
突然の叫び声に、びくっとなった。
声がするほうを見ると、少女が半狂乱で泣き叫んでいた。
「おい! こいつに何てものを見せるんだ! トラウマになったらどうする!」
「やっぱりね」
「何がだよ!?」
「分かるでしょ! 彼女はここの村出身よ!」
なんだって!?
「親衛隊隊長殿!」
兵らしき甲冑を着た人たちが、女王に向かって駆け寄ってきた。
良く見ると、甲冑がところどころ溶けてる。
鉄が溶ける温度って、この村にいったい何が起きてるんだよ。
「間に合わなかったのね。そして、これは」
女王は無表情にこう言葉を続けた。
「サラマンダーの群れ」
「はい。なんとか、駆除することができました」
「すべて?」
「ええ。一匹も逃していません」
「良くやったわ……。被害が最小限で済んだ。生存者がいるかもしれない。治療を急いで」
「すでに動いています」
女王の言葉に、耳を疑った。
「どこが最小限なんだよ! これを見ろよ! この子の村が黒焦げになってるんだぞ! 人も! 建物も! 何もかも!」
女王は俺の目を見た後、何もなかったかのように、兵のほうへ視線を戻した。
「言い訳はしない。すまない……」
「隊長、何をおっしゃいますか。サラマンダーの群れだなんて、誰が予想できたというのです。しかも限られた人員でやりくりをしなければいけない。どこかを増員すれば、どこかが手薄になってしまう。それに」
甲冑の兵たちが俺を一斉に見る。
「この子らを助けるために、我らと離れたのではないですか」
ピンと、頭の中で線がつながった。
俺は、ネネに助けを呼ぶように言った。
そして、予想よりも早く助けがきた。
それは、この村で事件が起き、その向かう道中でたまたま俺らがいたから。
俺らが助けを呼ばなければ、この村は助かった……?
俺がこの村を壊滅させた?
「あ、こら、待て!」
少女は、馬から下りて着地していた。
そして、すぐに走り出した。
「なにやってるのよ!」
「すみません!」
このときばかりは、女王の意見に賛成した。
そんなでかい図体なのに、子ども一人捕まえておくことがなぜできない!
追いかけた。
馬と子どもだ。
すぐに追いついて捕まえて、この地獄から脱出する。
この子の両親と再会してしまう前に!
しかし、少女に追いつけなかった。
足場が悪かったのもある。
少女に土地勘があったからというのもある。
少女は両親に出会ってしまったようだった。
父親と思しき男性は、死んでいることが分かった。
全身が炭になっていたから。
母親は生きているのか死んでいるのか分からなかった。
母親は黒ずみの父親に抱かれていた。
でも足がやはり腰から下が炭化していた。
少女は泣き叫んだ。
なんで、なんで、いやだ、いやだ。
それを壊れたように繰り返していた。
これが、魔物。
こんな村を焼き尽くすほどのものが……。
こんなに簡単に人命を奪うようなものが存在するなんて……。
「ネネ……、ネネね。助かったのね」
少女を呼ぶ声は、父親の中から聞こえた。
父親が崩れて、母親がそこから顔を出した。
熱でまぶたが焼けたらしく、目を開けられない。
「早くヒールを!」
女王のかけ声に、慌てて兵士がヒールをかけ始める。
そうか、あれが回復魔法か!
「ヒール!」
一度見てイメージができるなら使えるはずだろ?
そうだろ?
「ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!」
なんで何も出てこないんだよ!
「おい、なんでもいい! 俺に回復魔法を教えろ! 俺が使えるやつだ!」
女王の腕をつかんでそう言うが、
「そんなにすぐ使える魔法じゃない! 邪魔よ!」
そう言って俺の腕を振りほどく。
「ヒール!」
ネネも回復魔法を唱える。
豆電球のような緑色の淡い光が、少しだけ母親の顔を照らす。
他のやつの回復魔法より、はるかに見劣りする。
でも実の娘の魔法だろ?
そんなの、何万倍も効くだろうよ。
早く回復して、ネネを抱いてやれよ!
「良かった。軍に拾ってもらえたのね……」
ネネの母親がそう口を開く。
「いかにも! 我々はミグラス軍である。神の名の下に、この子の保護と教育を約束する!」
女王はそう、母親に伝えた。
「ありがとう……。これで安心して逝ける……」
「やだ! やだ! どこにも行っちゃやだ!」
少女は母親の腕をつかむ。
母親の腕は焼けただれていて、ずるっと皮膚がはがれた。
少女はひっと小さく声をあげて、しりもちをついた。
「だいじょうぶ。私の可愛いネネ。貴女はだいじょうぶよ。ママはいつでもお空からネネを見ているから。幸せになれる。きっと」
静かになった。
いつの間にか、誰もヒールをやめていた。
じいちゃんの死に際の目に似てる。
唇はカサカサで色もなくて、遠くでもなく近くでもない、どこにも焦点が合わない目。
「おい、何やってんだよ。早くヒールをかけろよ! 何してんだよ!」
「無理だよ」
そう言ったのは、ネネだった。
耳を疑った。
「何を言ってんだよ。何を物わかりがいいフリしてんだよ。お前が諦めてどうするんだよ!」
ネネは振り返って俺を見た。
めちゃくちゃ泣いてんじゃん。
「だって、みんな無理だって……ママだって……」
そう言って、堰を切ったように泣き出す。
「みんな言うから諦めんのかよ! お前自身は全然諦めてないだろうが! 俺は諦めないぞ! 誰がなんと言おうと!」
俺はネネにそう言って、女王のほうに向き直り詰め寄る。
「諦めるなら、俺に回復魔法を教えてからにしろ!」
「……好きにしなさい」
女王は俺の手を握った。
俺の手が緑色に光り、温かい何かが流れた。
馬に乗るときに背もたれにつかんでいたため、手にしびれがあったが、それがまったくなくなっていた。
「全身に気が流れるイメージをもつこと。それが相手の全身の細胞ひとつひとつに流れていくイメージをもつこと」
それだけ言うと、女王は手を離した。
「ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!」
何度唱えたか分からない。
でも全然、光が出てこない。
「ねえ、ハカセ、もういいよ。ぜんぜん何もでてこないよ。……でてきても、きっとムリだよ」
「ムリだなんて、俺は絶対に思わない! ムリだと思ったら、もうそこで終わりだ!」
俺がネネにそう言うと、ビクッとなって、うつむいた。
きつい言い方になったかもしれない。
でも、まだ何かできるはずだろ。
ここは魔法が使える世界じゃないか。
こういう、どうしようもない状況で奇跡を起こすのが魔法だろうよ。
そうじゃない魔法なんて、魔法であってたまるか!
ネネの小さな手が母親に伸びた。
「ヒール! ヒール!」
ネネが大きい声で叫ぶ。
どれくらい時間が経ったろう。
「もうやめなさい」
女王が俺の肩をつかむ。
「やめられるか!」
肩をふって振り払う。
「分かるでしょ! 彼女はもう息をしていない!」
「ないのか! 魔法なら、人を生き返らせるとか簡単だろ!」
「……そんな魔法は聞いたことがないわよ。人の命が、そんな簡単なわけないでしょ」
「俺が殺した! 俺が引き留めていなければ、こいつは助けを呼んで、母親も父親も生きのびたかもしれない!」
「違う! 彼女は娘を逃がす決断をした! もう間に合わないと分かっていたから……。だから、この村に戻らせず、引き留めたあんたは、彼女の願いを叶えたのよ!」
「違う……。俺は何もできなかった……」
ひざから崩れ落ちた。
無力。
その言葉が痛切に胸をかきむしった。
こんなに幼いのに、両親を同時に失った。
火傷で死ぬなんて、痛かったろうに。苦しかったろうに。
俺はヒールをかけてあげられなかった。
いや、違う。
何を諦めてんだよ。
息をしてないからって、死んだからって、諦めてどうする。
母親がダメでも、ネネは生きてる。
ネネのほうを見る。
ネネは尻餅をついたまま、母親のほうをうつろな目で見つめていた。
でも目からは、とめどなく涙が流れ落ちていた。
この少女に俺ができることがあるのか?
この年で、こんな深い悲しみを目の当たりにしてしまった少女に。
かける言葉も見つからない。
いや、こいつは俺の助手だ。
できる、できないじゃない。
やるんだ。
「まだ諦めてんのか?」
ネネにそう言う。
うつろな目のまま、俺を見てくる。
「まだまだ俺は諦めてないぞ。助手のお前が諦めてどうする」
「でも、ママ死んじゃった」
ネネの、死んじゃった、という言葉がひどく心をえぐってくる。
「俺がママを連れてくる。俺は魔法博士だからな」
悲しいくらいに、何も気の利いた言葉が思いつかない。
でも覚悟はある。
会った時の笑顔を取り戻してみせる。
どんなに時間がかかっても。
しばらく、ネネは俺のことを見ていた。
何言ってんだ、くらいのことを思っているんだろうか。
「ねえ」
ネネは口を開いた。
「ハカセの助手してたら、いつかママみたいな人、いっぱい助けられるかなぁ?」
俺は思わず抱きしめていた。
ネネの言葉は、ママに会いたいじゃなかった。
もう二度と、こんな思いを誰かにしてほしくないという思いだった。
自分の親をなくしたあとに、こんな温かくて、芯のある言葉を話せるものなのか。
俺は、しばらくの間ずっと、ネネを抱きしめていた。
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